前世クンヴィSSログ


『君に花を贈ろう(クンヴィ)』


ある日の護衛での事。クンツァイトは、顔色を変えずぶっきらぼうにヴィーナスに右手を差し出した。
その手に握られていたのは数本の花。ヴィーナスはそれを見て驚く。

「なあに?」

貰う心当たりや間柄では無い。どうしていいか分からずとまどい、躊躇う。

「花だ」
「……見れば分かるわ!馬鹿にしてるの?」
「いや、すまない」

馬鹿にしている訳では無いことは分かっていた。クンツァイトは寡黙で口数は少ない。端的に答えたのはヴィーナスだって理解はしていた。

「それを私に?」
「ああ」
「どうして?」
「今日が誕生日だと聞いてな」
「そう……」

誕生日だから花をプレゼントしたいと言う事なのだろうとヴィーナスは察しが着いた。
それと同時に、仕組まれたとも感じて悔しくなった。
何故なら、今日はヴィーナスが護衛の番ではなく、その上休みだった。それを利用して久しぶりに生まれ故郷の金星に帰り、近況報告と骨休めの予定をしていた。
しかし、今日が護衛の当番であるジュピターが謎の体調不良。マーズ、マーキュリーは不在。ヴィーナスが行くしか無かった。
なる程、ジュピターの体調不良は仮病。マーズ、マーキュリーの不在も嘘だったと言うわけだ。恐らく王子と姫、ジュピターの仕業だろう。
瞬時にそれを悟り、余計な事をとヴィーナスは心の中でごちった。

「受け取れ」
「!!!」

ぶっきらぼうに命令され、ヴィーナスは面白くなかった。

「何でよ?」
「誕生日のプレゼントだからだ。ヴィーナスに似た花だと思って、この花をあげたかったんだ」
「私に似てる……?」
「ああ、明るく黄色に咲き誇っていた。詳しくは無いが、ネフライトに聞くとキンセイランと言うそうだ」

クンツァイトは何故この花をプレゼントしたかったのか、端的に話した。
理由を聞いたヴィーナスはなる程、と納得した。

「そう、キンセイラン、ね」
「ネフライト曰く、美しい花が金星に似ている事から来ているとの事だ。ヴィーナス、君を思い浮かんだ」
「そう」
「花言葉が、“誇り高き心”“高貴なる女性”“美しい心”だそうだ。ヴィーナスに重なった。部下にも似たような奴がいて、そいつも金星出身だと言っていた。まぁ男だが……」
「その男の子の事、可愛がっているのね」
「ああ、まぁな」

と言うかヴィーナスそのものだとクンツァイトは思っていた。
ヴィーナスはそれを聞いて重い。貰えない、と。地球に自身の星の名が付いた花が咲いている事も、何だか気に入らない

「貰えないわ。それにあなたの手にある方がその花もきっと幸せだと思う」
「俺の手にあるより、由来になった君の手に渡る方が幸せだろう」
「育てる自信ないし……」

せっかくのクンツァイトからのプレゼントなのに、知識が無く枯らしてしまうのがオチだとヴィーナスは思った。

「枯らした方がいいだろう」
「何故?」
「残らない方がいい事もある。その方が気軽に受け取れるというものだ。それに金はかかっていないからな」
「まぁ、そうかも知れないわ。じゃあ、有難く貰っておくわ」

クンツァイトなりに気を遣わさないようにと気遣った優しさなのだろう。

「誕生日おめでとう、ヴィーナス」
「ありがとう、クンツァイト。そんなにめでたくはないんだけどね」
「千年を生きる長寿だからか?」
「ええ、誕生日と言う概念も祝うという週間も特に無いわ」
「そうか、寂しいものだな」
「別に」

千年を生きる種族である月の住人は、自分が生まれた日を重んじない。その為、忘れている事が多い。
それを寂しく思ったことは無いし、いちいち毎年祝っていられない。千回も祝う事の方がおかしい。

「貴方の誕生日はいつ?」
「ずっと先だ」
「そう……」

明白に教えて貰え無かったヴィーナスは、癪だが王子か他の四天王にクンツァイトの誕生日を聞こうと決意した。

護衛を終え、月に帰ったヴィーナスが嬉しそうに花を飾っているのをジュピターやプリンセスが目撃していた。




おわり

20231022 愛野美奈子生誕祭2023

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