現世クン美奈SSログ



『どうにかしたい』


この日、亜美と呼ばれた彩都は喫茶店に来ていた。
何故、自分と亜美が呼ばれたのかさっぱり皆目見当もつかない。
呼んだ当の本人は、中々喋ろうとせず、先程から仏頂面を下げていた。
前世から難しい顔をしていたが、生まれ変わって更に難しい顔になった気がする。美奈子と言う明るい子を彼女に持っているにも関わらず、比例するかのように気難しさに滑車がかかっている。戦いもない平和な世界なんだからもっと楽しい顔をすればいいのに。と重い空気の中、彩都は感じていた。

「で、私だけじゃなくて亜美まで呼んだ理由は何?」

しばしの沈黙の後、重い空気に耐え切れず彩都は口火を切った。
そもそも亜美と自分だけしか呼ばれていないのも気になるし、美奈子すらいない。亜美を呼びたいなら美奈子を使えばいい。それなのにそうすることも無く、自分を通した挙句、その彩都も呼ばれた。その理由が知りたいと思うのは当然のことであった。

「ああ、二人を呼び出したのは他でもない。美奈子の事だ」

飲んでいたコーヒーカップを置きながら公斗は、漸く重い口を開いた。
そして、彩都は理由を聞いて何となく察しが着いた。

「美奈がどうかしましたか?まさか、迷惑を……?」
「いや、そうでは無いですよ。美奈子の成績の事で相談が……」
「公斗さんも美奈の成績、ご覧になったのですね?」
「ええ、あれは……」
「え、待って!あの子、そんなにアホなの?」

アホだとは聞いていたし、分かっていた彩都だが二人の深刻そうな顔を交互で見て驚いた。想像を絶する成績を叩き出したのかと。

「酷いものだった」
「あれは、ちょっと……笑えないですね」
「だから、どれだけ酷かったのよ?」
「……オールアヒルだ」
「ブーーーッ」

彩都は飲みかけの紅茶を華麗に吹いてしまった。美奈子の成績の酷さにでは無い。
仏頂面で真面目な公斗から、“アヒル”と言う可愛い言葉が出てきたからだ。
所謂、ギャップ萌えだ。単純に可愛い。
だからこの人は、と彩都は心の中で微笑んだ。

「大丈夫ですか?」
「まぁ、何とか」

公斗のお陰で亜美の前でちょっとした恥をかいたのだけは想定外だった。挽回しなければと考えた。

「美奈子の成績をどうにかしたいと思っている。亜美さん、力を貸してほしいんですが?」
「私も何とか出来るならしたいですが……」
「いっその事、放っておきなさいよ!どうせあの子の夢には関係ないんだから。自業自得よ」

そう、美奈子の夢はアイドル。アホなアイドルは5万といる。それを売りにしている子も幾らだっている。
明るいアホと言う方向で売れば美奈子の事だ。すぐに人気になるだろうと彩都は単純に思った。まぁ、その前に卒業出来るか。アイドルになれるかが問題だが。

「そう言う訳にはいかん」
「そうですよね。あの成績は放っておけません!」
「二人とも、あの子の事好きね」

まさか美奈子と言うアホの子存在で、この二人がこんなに気が合い、結託するとは彩都は思いもしなかった。
美奈子の事などどうでもいい彩都は、完全に蚊帳の外である。
何か、二人が良い感じになっているので彩都としては面白くないし、焦る。

「ええ、大切な友達ですもの」
「そうだな、大事な恋人だからな」
「ふーん、じゃあ二人で勉強教えてあげれば?」
「勉強嫌いのアイツを勉強させられる方法があればな……」
「何かないかしら、彩都さん?」

貴方ならいい方法を持ってるんじゃないの?と言いたげな顔で亜美は彩都をチラッと見る。
美奈子がどうなろうと知ったこっちゃない彩都としては、どうでもいい事だった。
しかし、先程の醜態の挽回をしなければならない彩都は、渋々口を開く事にした。

「そんなの簡単よ!あの子を騙せばいいのよ」
「そんな事……」
「出来ないわ」
「でも、あの子をやる気にさせるにはこれしか無いと思うけど」

乗り気では無い二人に対して、“美奈子に勉強を無理矢理させる大作戦”の全貌を細かく説明していく彩都。
その内容とは、愛の女神である美奈子の特徴とリーダーである事を上手く取り入れた作戦。

「どう?」
「気が重いですね」

騙すきっかけを作る事になるキーパーソンである亜美は、作戦を聞いて益々気が重くなる。
ちゃんと演技ができるのだろうかと勉強より難しい試練に頭を抱え始めた。
亜美の演技に全てかかっている。

「俺は白猫に勉強道具をどう拝借するかだな。後は、亜美さんとのWデートを持ち出されて初めてのリアクションが出来るかどうか……」
「あら、心配しなくても貴方ポーカーフェイスだから大丈夫よ!」

大変なのは寧ろアルテミスの方かもしれない。
気づかれずに勉強道具を持ち出さなければならないのだから。

「ま、何とかなるわよ!」
「お前は何もしないから、気楽でいいな」
「あら?作戦はちゃんと考えてあげたじゃない?」
「まぁ、そこは感謝している」
「あまりいい作戦とは言えませんが、この作戦しかないですからね」
「勉強もデートも出来るんだ。文句は無いだろう」

自分では思いつかない作戦に、相談した事は間違いなかったと公斗は思った。
後は当日、美奈子が頑張って勉強出来る環境になるかどうか。自分達の頑張りにかかっていると気を引き締めながら、飲みかけていたコーヒーの最後のひと口を口に含んだ。




おわり

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