いざ、戦場へ


本日の主役の美奈子を差し置いて、話が展開されいたが意外な事実により会話の戦線に突然放り出された美奈子。
エースが蘇ったことすら今の今まで知らなかった美奈子は狼狽えた。

「金星人の復活を願ったろ?」
「ああ、確かにヴィーナスクリスタルに祈ったわ!そっか、エースも金星人だったわね。復活おめでとう」
「ありがとう、美奈子」

エースに向けられる屈託のない笑顔を見た公斗は面白くない。金星人復活を祈っていた事も、それを美奈子意外の、しかもかつてのライバルの男から聞かされる事も心外だった。
そして、“美奈子”と呼び捨てにしていることも公斗としては気に入らなかった。

「所で2人は付き合ってるんですか?」

二人一緒にいる所を見て、エースは疑問に思っていた事を二人にぶつける。
前世では相思相愛であったことをアドニスであるエースは感じ取っていた。
もしそうであったとしても何ら不思議では無いと内心思っていた。

「ああ、俺と美奈子は付き合っている。恋人同士だ。俺は美奈子を愛しているし、美奈子と添い遂げたいと思っている」

だからアドニス。お前の入る隙は無い。と言わんばかりに強い言葉でエースに美奈子との関係を公斗は説明しながら彼女を右腕で引き寄せ抱きしめる。

「キャッ」

公斗のこの突然の行動に驚いた美奈子は、短く叫ぶ。
腕の中に抱き締められて美奈子はドキドキしていた。結構憧れのシチュエーションだった為、嬉しくて心臓が跳ね上がりそうなのを止めるのがやっとだ。

「へぇー、クンツァイト様も余裕が無いですね」

公斗の言動を見聞きしたエースは、クンツァイトが美奈子に対して本気で愛している事を悟る。
同時にライバルを前に、余裕が無い姿はかつての王子直属の部下として騎士をしていた殺気を放っている事を感じ取った。

「やっと手に入れた最愛の恋人だ。例えお前と言えど渡さん!」

一触即発。エースが美奈子に何かしようものなら許さない。そんなオーラを放っていた。
前世も現世でも部下として一番近くでクンツァイトを見ていたエース。彼の強さは嫌という程見せつけられていた。エース自身も強い。
けれど、それを凌駕する程に強いクンツァイトを知っているエースは圧倒的完敗だと感じた。

「美奈子の事は好きですが、取ったりしないので御安心を」

勿論、付き合えるなら付き合いたい。それがエースの本音だ。
しかし、美奈子が選んだのは他では無いクンツァイト。認めて引かざるを得ない。

「でもクンツァイト様、美奈子の荷物持ってあげないなんて紳士じゃないなぁ~」

簡単に引き下がるのも面白くない。そう考えたエースはクンツァイトに意地悪を言った。
未だ離されず公斗の腕の中にいる美奈子が大量に持っていたバーゲンの戦利品という名の手荷物。対して公斗は二つしか持っていない身軽さ。
そこに漬け込んで嫌味を言ってきた。

「美奈子の荷物、どうして持ってあげないんですか?」
「修行の一貫だから持たなくていいと断られたんだ」

男として、彼氏として持っていないことへの罪悪感を公斗とて持っていた。
しかし、肝心要の美奈子が頑固に自分で持てるからいらないと言われ、渡してくれなかったのだから仕方がない。

「嘘だぁ。美奈子だって戦士と言えど女ですよ?本音と建前は違うでしょ?ね、美奈子、本当は持って欲しいでしょ?」

二人が自分の為に争っている。そう感じた美奈子はこれは正に“喧嘩をやめて、二人を止めて、私の為に争わないで”の昭和歌謡的展開!と内心喜んでいた。
憧れのシチュエーションに、荷物の重さなど吹き飛ぶというもの。

「本当は持って欲しいのか?」

前世より真面目でマスター一筋でやって来た硬派な堅物である公斗。女心など分かるはずも無かった。
対してエースは現世ではアイドルとしてカリスマ的人気を博していて、女心を知り尽くす好青年。
エースがそう言っているのだから、美奈子も本当は荷物を持って欲しいのではないか?そう思えてくるのだから不思議である。

「いや、持って欲しいことも無いこともないかな?」

美奈子はハッキリと断言出来なかった。
確かに女の子扱いして欲しいと思うが、やはり戦士である以上素直に甘えられない事は事実。
どうして欲しいか自身も分からなかった。

「美奈子のことは俺が一番良く解っている!彼女の戦士としての意思は尊重したい」

公斗はエースにそう言い放ち、美奈子を腕から離し、手に持っていた荷物を全て奪い両手いっぱいに持ち上げた。

「ちょっ!」
「尊重はしている。しかし、俺は男として美奈子にもっと頼られたい。だから、駐車場までは持つ!」

今更の事だが、こうなれば意地だ。
エースに言われて行動したのは癪だが、これが公斗の本音だった。

「じゃあな、アドニス。達者でな!」

荷物を片手に全て持ち、空いた手で美奈子の手を引っ張り、エースにそう捨て台詞を吐いて勢いのままに戦場を後にした。
その場に残されたエースは、暫く呆気に取られた。

「“達者でな”って……おっさんか!」

正気に戻ったエースは、公斗の最後の言葉にその場で大爆笑した。
そして、悟った。もう二度とクンツァイトとも美奈子とも会うことがないと。

「完敗だよ、クンツァイト様」

他の誰でもないクンツァイトになら、クンツァイトだから美奈子を任せられる。これで漸く前世から長らく拗らせていた初恋にピリオドを打てると一人、胸を撫で下ろした。

「元気でな!美奈子もクンツァイト様も」

一方、文字通り戦場を後にして駐車場へと着いた美奈子と公斗。

「ちょっ、公斗?どういう……」
「美奈子!」

凄い勢いで引っ張り早歩きするのでどういうつもりかと聞こうとしたが、突然又抱き締められて最後まで言葉を言えなかった。

「俺は、美奈子を愛している。例えアドニスにも取られたくは無い」
「……私にはアンタしかいないんだから、安心しなさいよね、バカ!」
「誰がバカだ!馬鹿に馬鹿と言われたくは無い」
「前言撤回!エースの所に行っちゃうわよ」
「黙れ、バカ!」
「な、バカって……」

又最後まで言葉を続けられなかったのは、公斗の唇によって唇を封じ込められたから。

この日、二人は人目があまりない事をいい事に、駐車場でいつまでも愛を確かめあった。



おわり

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