いざ、戦場へ


バーゲン参戦から約2時間余り。公斗が呟いた通り、美奈子に先導されるがままついて行くと結構な運動量になっていた。
持久力、体力、精神力、忍耐力と色んな所が鍛えられることに気付いた。正に、修行には持ってこいの場所。公斗は良い運動が出来たと心の中で感じていた。

最初こそ嫌々着いてきたが、こうして修行が出来るとは思いもしなかった公斗は、渋々着いてきて結果的には良かったと美奈子に感謝した。

「結構買ったな?重くは無いのか?」

バーゲン参戦から4時間近く。ふと見ると美奈子の両腕には大小様々な大きさのショッパーがズッシリと掛かっていた。
公斗は男らしく持ってやろうと意気込んでいたが、あっさりと断られてしまった。

「私を誰だと思っているの?戦士よ!こんなのへっちゃらよ」

女の子扱いして貰えるのは美奈子とて嬉しい。
けれど、やはりずっと戦士として生きてきた。これから先もうさぎがどんな道を選んでも守りたい。
例え女性としての幸せを手に入れられても、この先も戦士として歩んで行く。相手が誰より分かり合える公斗でもそれは変わらない。
ここで甘えてしまえば、きっと戦士としてダメになる。そう感じていた美奈子は、公斗の申し出は有難かったが、泣く泣く心を鬼にして断った。
断られた公斗も、そこまでの決意とは知らないが笑顔で断るもんだから納得せざるを得なかった。
戦士であり、スポーツ少女。バレーで鍛え上げられた腕は、立派なものだった。それを亡き者にして欲しくない。公斗自身も美奈子の日々の努力と言う名の綺麗に着いた筋肉に敬意を払っていた。

「根を上げても知らんぞ」
「そんなヤワに見えるわけ?」
「お手並み拝見だな」
「意地悪ね」

周りにどう見られているかは分からない。
両腕いっぱいに荷物を抱えた彼女の荷物を持ってあげない冷たい男。そんな印象に見えるだろう。
確かにそう思われるのは公斗自身も不本意と言うもの。
しかし、“いらない”の一点張りの美奈子の言葉ととその理由を聞いてしまうと、同じ騎士として持ってやる方が人でなしというもの。美奈子の思いを踏みにじりたくはなかった。

周りの視線が痛く降り注ぐ。美奈子の目当てのものを買い終えて出口に向かっている足取りが心做しか早まっていた。


☆☆☆☆☆


バーゲンを終えてやっと帰れる。そう感じたその時だった。

「あれ、美奈子じゃないか?」

出入口に到着した公斗は、戦場から無事出られるとホッとした時、美奈子に親しく声をかける男の声が聞こえてきた。

衛や他の四天王、はたまたアルテミスとは違う。しかし、公斗は確実にその声に聞き覚えがあった。嫌な予感がしつつ振り返ると、そこにはあの頃より成長しているかつての部下がいた。

「エース!」

エースと美奈子に呼ばれたその男は、笑顔でとても嬉しそうにしている。
視界には美奈子しか見えていない様子だ。

「ダンブライト!いや、アドニス」

公斗にそう呼ばれた男は、前世でも生まれ変わっても部下として可愛がっていた。右腕としてとても良く働く出来た男だった。

しかし、同時に同じ人ーーーヴィーナスを愛していると言う点においてはライバルであり、互いに好敵手と認めていた。

「……クンツァイト様」

二つの名を呼ばれた青年は、美奈子から視線を外して公斗の顔を見る。見る見るうちに嫌な顔へと変化させる。

「何故お前がここにいる?」
「それはこちらのセリフですよ」

互いに何故ここにいるか不思議がる。
それもそのはずで、お互いその身はとっくにこの世には無い。その事を認識している2人は、驚きを隠せないと同時に面白くない。

「マスターの力で生き返ったのだ」
「エンディミオン様も人がいいですね」
「どういう意味だ?」
「僕も美奈子の力で蘇った身なので」

アドニスより告げられた衝撃の事実に、公斗は絶句した。美奈子がアドニスを蘇らせた?そんな事は聞いていない。

「え?私、何にもしてないわよ?」

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