聖剣に誓いを


『Wink chain Sword』

「腕がにぶったのではないか、ヴィーナス?」

意地悪く微笑みながら勝ち誇った様に言ってくるのは私の旦那であるクンツァイト。
少しは手加減してくれても良くない?
まぁそんな事したら殺すけど。

「仕方ないで、しょっ!」

力を振り絞り、体重をかけてクンツァイトの剣を押し返しながら言い訳の言葉を発する。
軽い気持ちで久しぶりに剣の手合わせをしたくなり、軽く交えるつもりだったのにクンツァイトが思いの外真剣に振ってくるもんだから本気の勝負になってしまった。
腕が鈍ったですって?冗談じゃないわよ!
環境が変わっただけよ。

前世の時は月にいて重力があった。剣も鉛のように重くて持ちあげるのも一苦労だった。
それが鍛えるにはとても良かった。
体は自然と強靭に鍛え上げられていて、強くなっていると感じていた。
そんな月から地球に来ると体がすごく軽く感じたし、重いと思っていた剣はちょうどいい軽さになっていた。
だけど今は地球人として長い年月過ごしていく中で、体も地球で慣れてしまった為、前世の時とは明らかに体付きが変わってしまった様に思う。
だからといって鍛えて無いわけじゃないし、そんな事で弱音や言い訳をしたくないし、そんなの私らしくないからプライドが許さない。

「言い訳するとは見苦しいぞ」

余裕の笑みで優位に立つクンツァイトにイライラが隠せない。
これでは余計に勝てないって分かってるのに。

「いきなり不意を着いて来る方が見苦しいわ!」
「先手必勝だ。戦場では理不尽な事が多い。色んな角度から稽古する事も大事だ」

最もらしいことを羅列するところ、真面目というか、流石というか。
私がこんなんじゃなきゃ守って欲しいとか思っちゃうのかも。
でも彼とはずっと背中合わせでお互い守る事をしてこなかったから、この関係が楽だし私たちらしい。
何より守ってもらうなんて私のプライドが許さない!
だからこうして訓練を欠かさない。

「ウラヌスには筋がいいって言われたんだから」

同じく剣の名手であるウラヌスとは時々手合わせをしていた。
お互いを高めあえるし、自分たちの弱点や欠点を確認して指摘しあえるから。

「フッウラヌスも大したことは無いな」
「何、ですっっって!私の事だけならまだしも、ウラヌスの事まで馬鹿にするのは許せない!」

ウラヌスを馬鹿にされた私は、それが良くも悪くも原動力となり力が出て、クンツァイトを押す形にになった。

「やるな!」
「私を過小評価した恨みよ!」

少し押され気味にもかかわらず笑みを浮かべ、楽しそうなクンツァイトに何か腹が立つ。まだまだ余裕だ!そう言いたいの?
だったら、全力10000%で行かせて頂くわ!

「覚悟しなさい、クンツァイト!」

最後の力を振り絞り、踏み込んだ。
だけど、やられたのは私の方だった。
バランスを崩し、その場に倒れてしまった。

「勝負あったな」

そう言って悔しがってその場を立てずにいた私に左手を差し出してきた。
その手を素直に取って立ち上がる。

「流石ね!歯が立たなかったわ」
「いや、お前もやはり強かったぞ。本気出さなければ負けてた」
「よく言うわよ!余裕だったくせに」
「でもないぞ。やはりヴィーナスの剣さばきは流石だ」

腕が鈍ったって言ってたのはどこの誰よ?
私を本気にさせる為の嘘?酷くない?

「2人とも白熱で流石ですね!」
「見事な剣さばきでしたわん♪」

近くで見ていたらしく、ベスタとセレスが話しかけてきた。

「まだまだだけどね」
「クンツァイト様と互角に戦える人、そうそういないですよ」
「俺もまだまだだがな」
「充分だと思いますわん。そろそろおばんは引退して、その剣譲って頂きたいですわん」
「お、おばんですってぇ……」
「ぶっハハハハハ、おばん」
「笑うなんて失礼ね!白髪のおじんに言われたくないわよ!」
「これは銀髪だ!」

銀も白も大して変わらないと思うけど、おばん呼ばわりは聞き捨てならないわね。
銀水晶の加護で若さと体力は保っているから、容姿には自信があるんだから!
愛と美の女神、ここにあり!よ!
私が生きてる限りこの聖剣は譲ってあげないわ!




おわり

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