Melty Kiss


そして待ちに待ったバレンタインデー当日、学校帰りにチョコを渡す為に公斗のマンションへといつもの様に向かう道中、心臓の鼓動がバクバクして落ち着かない。別に告白しに行く訳では無いし、寧ろ付き合ってて両想いなんだし何がどうって訳でも無いのに妙に緊張する。
ティーンネイジャーになってやっとまともにこの日を参加出来るのがいきなり付き合ってる彼氏ってのがずっと不参加だった私には実は結構ハードルが高い事みたい。チョコ嫌いな彼氏だから余計にね?
愛の女神であり、恋多き女であるこの私愛野美奈子とした事が、色々ダメダメな恋愛人生を送っていて我ながら落胆しそうになる。
仕方ない、私はうさぎを護る戦士のリーダーとしてプリンセスに純潔を誓っていたんだもの。それが今までの生き甲斐であり、これからも揺るぎなく変わらない事実。それを分かち合える同士だからこそ女としての幸せを手に入れて素直に付き合っていこう、私にはこの人以外考えられないんだって思えたからこそ君斗の手をあの日手を取った。
私には公斗しかいないし、公斗も同じでアイツにも私しかいないと自負しているけど…チョコ受け取って貰えなかったら結構シンドいかも…。

柄にもなくマイナスな事を考えながらもマンションに到着した私は、気が重くなりインターホンを押す手が重くなり、大きなため息が出てしまい慌てて深呼吸をして呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。

そして覚悟を決め、いざ!戦場へ!(悲しき戦士の性)




ピンポーーーーン!





開いてるぞ!と返事が返って来たから遠慮なくいつもの様に上がってリビングへと直行すると公斗が難しそうな本を読みながらソファーで寛いでいた。

「やっほー、愛の女神から素敵便のお届け物でぇーっす!」

いつも通りのハツラツに元気な私で自然に渡そうとしたけど、ちょっといつもよりテンション高すぎちゃったかな?公斗を見るとどういう表情よ?って顔で見てきてやり過ぎたことを瞬時に悟った。

「素敵便って何だ?」

…冗談でしょ?唖然、呆然、愕然よ!今日が何の日か分からないわけ無いわよね?イベント事に興味ないのは知ってるけど、今日この日にソワソワせずに正常を保てるメンズがこの世に存在するの?マジ?絶滅危惧種発見!
でも大学行ってんだから同級生……って言うのかしら?に何個か貰ってんじゃないの?いや、チョコ嫌いだからそれは無いのか?だから興味無いのか?でも意識はするよね?それとも私がいるから他は興味無い的なアレ?

「嘘でしょ!?今日が何の日か忘れてるの?」
「ん?何日だっけ?」
「14日よ!2月14日!バレンタインデー!」
「あぁ…そうだったか?」

予想の斜め上だった。日にちが分からなかったパターンだった。予想外だ…。
チョコが嫌いだから無関心を貫けるのか?はたまた毎年絶対貰えると言う絶対的自信の上に成り立つ余裕か?

「信じらんない…女の子にとっては一大イベントなのよ?男の人にとってもドキドキするでしょ?」
「それは申し訳ない」

いや、素直に謝られても。あれこれ考え過ぎてた私が何かバカみたい。でもこれくらいの方がかえって私には丁度いいのかもしれない。

「はい、これバレンタインのチョコ」
「…チョコは嫌いと言ってるだろう?」

分かりきってた事だった。だけどどこかで私は特別で、嫌でも受け取って貰えるって過信してた。でも実際は違ってた。嫌いなものは嫌いなんだ。何だろう、予想してた展開だけど脳みそが理解を拒否して感情が追いつかない。結構辛い。やっとバレンタインに1人の恋する乙女として参加できると思ったのに…。涙が出そうになる。泣くな私!泣いたら負けだ。

「いらないなら夜天くんにあげるからいいわ!」

やっと口から出た言葉は、今はこの星にいない人の名前を上げて公斗の気を引かせると言う精一杯の強がりだった。そして持ってきたチョコを押し付けて慌てて走り去ろうとしたその時、公斗が私の手を引っ張り身体を引き寄せ私の唇を奪い、初めから深いキスをして来た。苦しい。逃げようとしても必要に追いかけて来て逃してくれない。でも優しく深いキスはとても安心するものだった。
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