二人の長い一日


アルテミスを従え、母親の言葉通り自分の部屋へと公斗を連れて来た美奈子は柄にもなく大人しくなっていた。

「へぇーこれが美奈子の部屋か」
「そ、綺麗にしてるでしょ?」
「ブハハハハハハ~」
「ちょっと、アルテミス笑いすぎよ!」
「だって、2人ともすっげぇ面白かったんだもん!仕方ないだろ。ハハハ、ツボにハマった!」

ずっと4人のやり取りを文字通り借りてきた猫になり、何も言わずに見ていたアルテミスは両親にボロクソに言われる美奈子や、クソ真面目公斗やコントや漫才の様なやり取りにツボに入り、限界に達していた。

「失礼過ぎるでしょ?私たちの事、なんだと思ってるのよ!」
「クソ真面目野郎とバカ女!」
「バカ女?ママより酷い……」
「真面目で何が悪い?」
「硬いんだよなぁ~。挨拶ついでに勢い余ってプロポーズまでしてるし、どこまでクソ真面目なんだよ?」
「本当よ、びっくりしちゃったわよ!あれ、どこまで本気なの?」
「俺は本気だ。お前はどうだ?」

そう言いながら美奈子の分のプレゼントを取り出し、渡す。

「これは?」
「さっき言ってたヤツだ。開けてみろ」

開けるよう促され、包装を剥がして箱の中身を開けてみた。

「これって……」
「俺のマンションの合鍵だ」
「わぁーありがとう♪これで居なくても入れる!」

いつも公斗の家に行くが、何回か家主がおらず外で待ちぼうけを食らうという事があり、いない時も入れるように何とかして欲しいと頼んでいた。
今回その頼みを合鍵という形で叶えたという訳だ。

しかしこの一連の事を知らないアルテミスはこのやり取りを見て、勝手にやってろよと思って呆れていた。
本格的なプロポーズでも、誕生日でも無いから合鍵か……。どこまでクソ真面目でキザなんだとアルテミスは心の中で悪態を着いていた。
きっとこういう話の流れになるだろうと予想しての結果で、計算ずくだったのだとアルテミスは悟った。

「で、俺には何も無いのか?」
「何か欲しかったのか?」
「みんなあるのに俺だけないのは不服なんだけど……」
「前にウォッカ奢ってやったろ?」
「それはそれ!これはこれだ!俺、美奈子取られてるのになぁ……」
「取られるって私はモノじゃないわよ!それに私とアルテミスはそーゆー関係じゃないでしょ!」
「一応大事な相棒だぜ!」
「ただの前世からの腐れ縁でしょ?」
「あのニャー」
「それにしても変な気分だな……。いつもは俺の家だが、美奈子の家にいるんだから」
「本当よね……。どうだった、うちの両親は?緊張した?」
「緊張しないわけないだろう。挨拶なんだから」
「アハハ、だよね?私も緊張して変な汗出たわよ……。ずっと私の事ボロクソに言うし」
「それだけ美奈子の事、大事に思ってるってことだろう。楽しそうな両親で安心したよ」
「猫かぶってるだけよ!ママは普段は怖いし、パパはもっとラフよ?なのにママは明らか楽しんでたし、パパは威厳保ってるし……はぁー」

娘の両親とはそう言うものだろうと2人のやり取りを見てアルテミスは思っていた。

「流れで夕飯まで頂くことになってしまって申し訳ない」
「遠慮しないで!ママ、張り切ってたから」
「貴重な休日に俺の為に色々悪い」
「いいのよ、どーせ2人とも暇だから」

色々話し込んでいると夕飯の用意が出来たと父親が美奈子の部屋へと呼びに来た。

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