現世クン美奈SSログ
『勝負初め(クン美奈)』
「あけおめ~」
明るい声で登場したのは美奈子だ。
二人でカウントダウンの瞬間は迎えておらず。それぞれ大晦日は別々に過ごした。
一年の最後の日くらいは家族で、と二人とも考えてでは無い。
方向性の違いでバラバラに過ごすに至った。
「大晦日は紅白見るでしょ?」
「男は黙ってダイナマイトだ」
「嘘でしょ?信じられない!」
「低俗な……」
こんなやり取りをした結果、軽く本気の喧嘩をするに至った。
どちらも対戦番組だが、お互いがお互いの番組に全く興味が無く。美奈子に至っては、アイドルとして目標としてる番組だと力説して来た。
「家で紅白とは意外だな。カウントダウンの初詣に行きそうだが?」
「ジャニーズのカウントダウンライブもリアタイしたいから」
安定のアイドル贔屓にため息が出る。
「それに、レイちゃんから大晦日の惨劇を毎年語られたら、おいそれと行けないわ」
美奈子なりの神社関係者への優しさと労いだったようだ。
考えていて、兎に角驚いた。
そして俺たちは方向性の違いから、大晦日は別々に過ごすに至った。で、話しは冒頭に戻る。
「ねぇ、公斗。こっち来て」
玄関から入らず、大声で俺を呼んで来た。
仕方なく、玄関へと向かうと、手に何やら持っていた。
「それはなんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!羽子板よ♪」
そう聞いて嫌な予感が頭を過ぎる。
「羽子板で勝負よ」
「はぁ……」
やはりな、と深いため息をついてしまった。
正月早々、元気な奴だな。
「一体、何を賭けた勝負だ?」
「そうね?お互いのお願いを必ず一つ聞く、これはどう?あ、でもあんな無欲なんだっけ?」
「そんなことは無い」
「じゃあ、これでOKって事でいい?」
「ああ、異論は無い」
やれやれ、仕方がない。付き合ってやるか。
仕事も休みで体がなまっていたから、丁度いい。
美奈子について、あとを歩く。
マンションの前の庭へと出てくる。
「ここでやるわよ~」
その言葉で、羽子板を持ち、距離をとって立つ。
「行くわよ~。そーれ!」
その掛け声で美奈子からの先行でスタートした羽子板バトル。
例によって二人とも真剣なため、周りが引くほど初めから本気バトルを展開。
美奈子も俺もフェイントだ、スピンだと凄技を連発させる。そして、その度に打ち返す。
両者、一歩も譲らぬ攻防戦。
熱くなりながらも冷静な俺は、フッと羽子板とはこんな白熱するものなのかと考えていた。
否、違う。楽しくやるもののはず。それが何故かこんな方向に……。
「あっ」
どうやら勝負が付いたようだ。俺が仕掛けた罠ーーー力いっぱい入れ、遠くへ飛ばすと見せかけて最小限に抑え、短距離に飛ばすというフェイント。それを瞬時に察知した美奈子だが、間に合わず板に羽が無情にもすり落ちた。
「勝負、あったようだな」
「ふっ、だぁれが一本勝負だって言った?」
「余り何も決めずに始めたが」
「忘れていたけど、筆ペンも持ってきたの」
「それが?」
「顔にバツを書くのよ」
「何を愚かな」
「私が負けたから書いてもいいわよ」
「美しい顔が台無しになるが、それでも良いのか?」
「私は筆ペンを書かれても美しいから大丈夫よ!」
美奈子がそう言うので、遠慮なく顔に大きな“✕”を書いてやった。
「よーし、気合い入った!今度は負けないんだから」
「この俺を倒せるとでも」
「その口、今に叩けなくしてやるわ」
負けた美奈子から始まる二回戦。
顔に筆ペンでバツマークと言う羞恥が加わった為、より気が抜けない。
美奈子も俺も真剣だ。お互い譲らない。
「しまった……」
だがしかし、検討虚しく二回戦は気合いが空回りしてあっさり負けてしまった。
余裕を見せた訳では無い。なのに何故だ?
「はい、“✕”いっこ♡」
楽しそうに容赦無く美奈子は筆ペンで顔にバツを書いた。天使のような悪魔の笑顔に見える。恐ろしいヤツだ。
「では、行くぞ!」
今度は俺からのサーブで三回戦の幕開けだ。
しかし、それにしても俺たち……。
「喧嘩してたのでは無かったか?」
「アハハ~そうだったかも」
「それが何故今こんな事している?」
「私たち的仲直り、的な?」
結局五回戦までもつれ込み、結果は3対2で俺の勝ちとなった。
素直に負けを認めた美奈子に、上記の質問をしたと言う訳だ。全く、楽観的なヤツだ。
まぁ、つまらない事で喧嘩していたからな。長引く様なものでも無い。互いに尾を引く性格でも無い。
「で、公斗のお願い事は、なぁに?」
「俺と一日一緒にいろ!お前がいないと寂しい。泊まっていけ」
喧嘩から一週間近く連絡が無かった。それだけで不安になっていた。
もしかしたら他の男と……考えたくない事が頭をよぎった。
「あんた、めちゃくちゃ私に惚れてんじゃん!しゃーない、添い寝してやるか」
「悪いか?」
その夜、俺と美奈子はベッドの上でも熱い勝負を繰り広げた。
おわり
20230101 元日