聖夜の奇跡
目の前に広がるイルミネーションに目も心も奪われた私は、感動していた。冒頭はその私の呟き。
「ああ、綺麗だな」
「へぇ~先生ってイルミネーションに感動する事あるんだ、いがーい」
「俺をなんだと思ってたんだ?」
「ん?暗闇が好きな暗い人?……なぁんてね♪」
本当、私は先生をどう思ってんだろ?
結局あんまり知らないな……なんて思いながら先生の顔を見上げる。
すると熱い視線とぶつかって、ドキッとしてしまう。どーしよっ。好きって言っちゃいそう。迷惑って分かってるのに。
「せん、せ……あた、し」
今日は恋人たちのクリスマス。
その日に私とこうしてデートしてるって事は、期待して良いんだよ、ね?
迷惑じゃ、ない……よね?
先生と生徒、と言う関係がネックなだけ。そう思っていいんだ、よね?
「愛野……」
正当化して告ろうと思っていたら、先生も何か言いたいのか、あたしの名前を呼んできた。嫌だ。告白する前に壁を作られたら、凹む。
「せんせー、あの、あの、ね?」
玉砕覚悟、なんてそんな強い覚悟は持ち合わせてなんかないけど……。
もし、告白してOK貰えたら、この後のデートはサイコーだろうな。なんて思って。
勿論、振られたら地獄の時間って事もちゃんと分かってる。けど、そんなの関係ない。そう感じるくらい、想いが溢れてしまって、止められなくなっていた。
「あたし、ね?せんせーの、こと、が……」
振られたらどーしよ?って今更考えて、怖くなって。土壇場で言葉が詰まって、つっかえてしまう。
「いや、愛野、それ以上は言わなくていい」
怖くなって言葉に詰まっていると、静止される。やっぱり、迷惑、なの、かな?って凹んでしまう。
「なん、で……?」
やっとの想いで言葉を紡ぐ。
「俺から言わせて欲しい。こういうのは、男から言うものだろう?」
「な、にを?」
せんせーの考えてる事が、考えが分からずただただ混乱する。何を言うつもりなんだろ?
「愛野、俺の女になれ!」
「へ?それって、どーゆー……?」
思いもよらない単語に、頭が混乱して“?????”状態。
「俺は、口下手だからな。つまり、こういう事だ」
そう言いながら顔が近付いて来たかと思ったら、唇に直接キスをして来た。
驚き過ぎて、せんせーの腕の服を握り締めていた。
「お前が好きだ。付き合ってくれ」
長い口付けの後にせんせーはそうストレートに告白してきた。
「え?な、んで?」
口下手にも程がありすぎて、私の理解が置いてきぼりをくらってしまった。
あたしの事が、好き?なんで?どーして?
そんな素振り、一回も無かった。
弄ばれてる?大人だからキスなんて夜飯前って奴?
暗い事もあって、表情では心の内を読み取れず、益々混乱する。
「好きだからキスをした。付き合いたい。それじゃおかしいか?」
「だって、そんな素振り、全然で。急だったから」
好きって言われた事も、キスも、付き合いたいって言われた事も嬉しかった。
だけど、これまでのせんせーの態度を思い返しても、全く思い当たる節がなくて……。
クリスマスデートだって、私が合格点を取るためだし。
「今日この日に危険を犯してこんな事はしない」
言われて見ればそうだけど……。
「大人として約束を果たすためだとばっかり……」
ほら?行先決めるのも一悶着以上あったから、嫌々だとばかり。
「それもあるが、そもそも嫌なら約束もしないだろ?」
「そう、だけど。でも……」
他にも色々聞こうと思ったけど、その言葉は不意に送られたキスで遮られた。
「先生と生徒と言う関係も忘れるくらい、愛してる」
キスの後に、私を抱き締めながらそうストレートに言ってくれた。
「せんせーと付き合えるの?夢、じゃない、よね?」
「ああ、試しに頬でも抓ってみるか?」
「そんな冗談言う人だっけ?」
「だからどんなイメージ持ってるんだ?ったく」
甘い雰囲気から一点、そう言ってせんせーはふふっと笑った。
せんせーのこんな風に笑った顔、初めて見たかも。可愛い。なんて不似合いな感想を抱いていた。
「お堅い人だと思ってました~。でも、今から私、せんせーの……?」
言って欲しくてワザと言葉を濁した。
「ああ。彼女、だな。俺はお前の彼氏だ。他の男からの告白は断れよ?」
「へ?」
「よく男子生徒から告白されてる事は知っている」
「ふふふっ」
「何だ?」
「せんせー、本当にあたしのことが好きなのね?よく見てくれてる」
そう、私は男子から結構モテていて、しょっちゅう告られていた。外見がタイプだとOKして付き合う事もしばしば。
だけど、どれも長続きのしない恋だった。
それを見ていてくれたのは、以外だったし、何か嬉しかった。
「なっ!たまたまだ!」
「大きな声出して、あやしーい」
「大人をからかうな!」
そう言ってまたキスで口を塞がれ、黙らされた。
「ふふっせんせー、大好き♪」
そう言えば結局言ってなかったなぁ、なんて思って、唐突に告ってみた。
「ああ」
不意の私の告白に照れたのか、短く返事をするせんせー。本当、可愛い。
その後は、恋人としてクリスマスイルミネーションを楽しんだ。
楽しんでる私を見る顔とか、振り回されて困惑する顔とか、色んなせんせーの顔が見れて大収穫だったし。充実したクリスマスを過ごした。
「プレゼントはすまん、買えていない。今どきの女子高生の好きな物が分からなくてな」
なんて申し訳なさそうに言ってきたけど。
クリスマスに好きな人と過ごせた事。
何よりせんせーからの告白でそのまま付き合う事になったり、キスしたり。
これが充分なプレゼントだったから、なくたって嫌じゃ無かった。
「せんせーを貰ったから許してあげる」
なぁんてね♪
おわり