現世クン美奈SSログ


『冥土の土産』

美奈子から、今度の休みは我が家に来ないかと言われた。
何でも父親がゴルフ接待でいないから、この機会にもう一度ゆっくりして言ったら。という事らしい。
珍しく機転が利くなと思ったが、これは母親の入れ知恵に違いない。
愛野家には一度、御付き合いの挨拶に行ったっきりで。それ以来は家の前まで送って行くことはあっても、上がることはしていなかった。
それに、デートと言えば俺の家か、車でアクティビティに。それが俺たちの付き合い方だった。

ピンポーン……

愛野家に到着すると、一呼吸置いてインターホンを押す。

「はいはーい」

明るい返事と共に、賑やかにバタバタと走る音が聞こえる。慌ただしい奴だ。
ゆっくり来ても俺は逃げない。

「来た……ぞ」

ドアが開けられ、挨拶しながら美奈子を見て絶句する。何だ、この格好は……?

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
「何の真似だ?」

美奈子を見ると、メイド服とやらを着ていた。
そして、何やらなりきっているようだ。
これから繰り広げられる事を想像して、どっと疲れが襲ってくるのを感じる。休日は休みを取る為のものでは無いのか?疲れに来てどうする、俺。

「メイドよ。知らないの?」
「流石に知っているが、何故そんな格好をしている?」
「ご主人様とメイドごっこをしたくて」
「その為に俺を呼んだと?」
「まぁ、そんなとこ。パパもいないから、丁度良いと思って」

休日に変な事に俺を巻き込むな。俺は、お前のご主人様では無いぞ。

「付き合ってやれよ、クンツァイト」
「お前はいたのか?」
「アルテミスはルナに相手にして貰えないのよ」
「バカ!言うなよ」
「可哀想にな」

下から猫の姿のまま登場したのはアルテミス。父親はいないが、古くからの美奈子の父親代わりの様な存在のコイツはいるのか。
その事に気付いて、またも疲れが襲ってくるのが分かった。早くルナとどうにかなってくれ。

「さあ、上がって。私の部屋に行きましょう」
「ああ、お邪魔します」

美奈子の部屋へと入ると、アルテミスも入って来た。
母親はと聞くと、母親も用事で出かけたとのこと。

「たまには私の家も来たいでしょ?」
「まぁ、ワンパターン化していたから気晴らしも良いかもな」
「引きこもってばっかで、親父化進むのを私が救い出してあげてるのよ」

感謝しなさいよね!と知った口を叩く。
要するに、たまには外に出て空気を据えってことか。余計なお世話だ。

「気分転換にはなるな」

せっかく招かれたのだ。反論はせずに、鵜呑みにして水に流す。
しかし、女性の部屋に入る事など俺の人生にはほぼ無かったからか、それとも美奈子がメイド姿だからか。どちらもか?
そのせいで、この部屋にいるのが落ち着かない。
アルテミスの視線も気になるし、痛い。

「どうぞ」

慣れた手つきでコーヒーと洋菓子を持て成してくれた。
失敗しないかヒヤヒヤしたが、慣れた家だからか大丈夫でホッとした。

「これ、やらない?公斗と一緒にやりたかったのよね~」

見せてきたのは、テレビゲームのソフト。
これまた慣れた手つきでセットをしながら、俺とゲームをするのが一つの夢だった。と楽しそうに話していた。
ならば期待に応えようと、ゲームの攻略方法を聞いてやってみると、なるほど面白い。
俺は夢中になり、気づけば美奈子よりのめり込んでしまっていた。俺に進めるだけの事はある。

「手応えあって、中々に面白い」
「っでっしょお~♪気にいると思ったのよ」

まんまと美奈子の策略にハマったということか。美奈子の癖に小癪な。いや、俺を熟知しているからこそか。“愛している”が故だろう。
時間を忘れ、俺は結局ずっとそのゲームをして気づけばもうとっくに日が暮れていた。

「そろそろお暇しよう」
「そう、今日は来てくれてありがとう」

そう言いながら、玄関まで送ってくれた。
アルテミスは流石に悪いと思ったのか、美奈子の部屋へとステイすることに決め込んでいた。と言うか、余りにもゲームしかしておらず、呆れて寝てしまって起きなかった。流石は元祖、オヤジだ。

「こちらこそ、楽しかったぞ」
「うん」

目が合って、良い雰囲気が出来上がっていた。誰もいない。見ていない。
そう確信した俺は、美奈子の首に手を回して顔をこちらへ招き、キスをする。
いつもとは違う場所で、違う服装に興奮してしまい、長めのキス。下も入れてお互い激しく求め合う。

「ん、あ……」

顔を話すと、妖艶に仕上がった美奈子が息苦しそうに呼吸を整える。

「美奈「あーーー!!!」

最後まで言い終わらないところで、大声を出してリビングのある部屋へと駆けだして行ってしまった。全く、このお嬢さんは……。
さっきの余韻はどこへ行ったのか……。

「はい、これ。ママからよ」
「ありがとう。何だ?」
「公斗の大好物の煮物よ。お土産!」
「そうか、お礼を言っといてくれ」
「おけまる~♪これが本当の“冥土の土産”よ」
「はぁ……」

上手いこと言ったつもりかもしれないが、やはり意味が違う。今回は一言一句間違えなかっただけに、残念が半端ない。
しかし、最後の最後まで美奈子は美奈子だな。
この“冥土の土産”は、有難く食させて頂くとするか。と、帰路につきながら食べる事を楽しみにしていた。




おわり

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