現世クン美奈SSログ


誕生日前日の夜。美奈子は恋人である公斗のマンションへと来ていた。
目的は自身の誕生日を大切な人に最初に祝って欲しい。一緒に過ごしたい。その瞬間を一緒に迎えたいから。
そして、今年はそこに加えて“オリオン座流星群”が21日の夜から22日の明け方にかけてピークを迎える。そんな夜空が起こす奇跡のような天体ショーを他の誰でもない恋人の公斗と過ごしたいと思い、公斗のマンションへと来たのだ。

「うわぁ~綺麗」

恋人の家に到着するや否や、挨拶もそこそこにベランダへと向かい星空を眺めて感嘆のため息を漏らしている。
ずっと同じ景色を見ていてよく飽きないなとそんな美奈子を見ながら公斗は感心していた。

「風邪引くぞ」

日中は暖かいとは言え、今は10月下旬で秋真っ只中だ。何も羽織らず薄着でベランダで長時間いると冷えるだろう。
幾ら体力バカで何とかは風邪を引かないとは言えどもそんな格好で長時間ベランダにいると流石に体調を崩しかねない。
そう感じた公斗は、ベランダに出るついでに美奈子が持ってきていたブランケットを持って出て、肩にかけてやった。

「ありがとう。やっだぁ~公斗が優しい!どういう風の吹きさらし?」
「それを言うなら【どういう風の吹き回し】だ。慣用句の間違いはいつもの事だが、素直に感謝の意も述べられんのか……」

当然の事をしただけの公斗であったが、美奈子からの言葉でいつもとは違う行動を取っていたことに気付く。
女慣れしていないが、恋人である美奈子にも普段素っ気ない態度をとっていたのかと愕然となる。

「だから、ありがとうって言ってるじゃない」
「お前は一言多いんだ」
「すみませんでしたね!一言多くて!普段ぶっきらぼうで何考えてるか分からない公斗も悪いのよ?」
「すまないな。お前のように上手く感情が出せないんだ」
「ま、いいわ。せっかく素敵な夜なのに喧嘩は止めましょ」
「そうだな」

喧嘩に発展しそうになるが、言い争っても仕方ないと美奈子は終わりを告げた。
そして再び星空を見上げた。

「また、流れ星だわ」

夜空を眺めてからどれ程流れ星を見ただろうか?
決して頻度は多く無く、しょっちゅう流れはしない。それでも何度も流星を見ては美奈子は感動の声を漏らしていた。
そしてその度に目を閉じ、手を重ねて何かを願っているようだった。
声には出していないからどんな願い事なのか、一つなのかなはたまたその度に違うのかは公斗には計り知れない。熱心に祈る恋人を横目に複雑な気持ちになりながら見守っていた。

“女心と秋の空”と言う慣用句がある様に、秋の空は移ろい易く、すぐに天候は変わってしまう。
秋生まれであり、前世は愛の女神である美奈子も又、恋多き女で移り気だ。
今は自分を選び隣にいて輝いているが、いつ愛想をつかされるとも限らない。そんな不安と隣り合わせにいる事を美奈子は知らない。
今日、晴れていることも美奈子が今公斗を選び隣にいてくれる事も奇跡だと公斗は感じていた。

「今日はオリオン座流星群だから、流れ星など珍しいことでは無いだろう」
「そうだけど、ロマンが無いわね……」

恋人が自分では無く流れ星に夢中になっている事に公斗は面白くなかった。
と同時に、前に聞いていたキンモク星のアイツの事を見ているのでは無いかと余計な事が頭をよぎった。

「熱心に願い事をしているが、何を願ってるんだ?」
「内緒よ♪言っちゃったら叶わなくなるかもしれないし」
「そうか……」

気になって聞いて見たが、はぐらかされ落胆する。
色んなことを願っているに違いない。
公斗自身の願い事はたった一つ。

(ずっと美奈子が隣で輝いていてくれます様に)

あまり夜空を見上げるのが好きでは無い公斗だが、たった一つの願い事を唱える為に意をけして星空を見上げた。
前世の叶わぬ恋をしていて、夜空を見上げては複雑な気持ちになっていた事を思い出す。前世の記憶が蘇ってからは夜空を見る事をし無かった。辛い恋を思い出すから。

しかし、今はこうしてあの頃恋焦がれても手に入れる事が叶わなかった愛の女神と恋人関係にある。隣で笑っている。
あの時とは違い、夜空は一点の曇りもなく美しく輝いていて、公斗の心を温かく灯してくれた。

「綺麗ね」
「ああ」

ふと腕時計を見ると針はとっくに12時を超えていた。
つまりは、美奈子の誕生日である22日を迎えたのだ。

「誕生日おめでとう、美奈子」
「え?」
「日にちが変わった」

不意を憑かれて驚く美奈子に、公斗は腕時計を目のところまで持って行って時間を見せてやった。

「あ、ありがとう♪って、うっそぉ~?そんなに経ってたの?」

美奈子がそう驚くのも無理は無い。
ベランダに出たのは22時を少し回った頃と本人も記憶していた。

「二時間以上流れ星鑑賞をしていた事になるな。熱心なのも良いが、俺の事も忘れてくれるな」
「え?それってどう言う……?」

寂しそうにそう漏らす公斗の本心が見えず、聞き返そうとした美奈子。言うが早いか、途中で言葉は唇を塞がれていた。

「んッ」

長く、味わう様な甘いキスだった。
久しぶりだった為、お互い止まらず舌を絡め求め合った。

「俺にとってはどんな流れ星よりもお前が一番綺麗な明け星だ」
「……///バカ!!!」

星の雨が降る夜、星々に見守られながら二人はいつまでも愛し合った。
公斗の言葉通り美奈子は恋人の腕の中、一番美しく輝いていた。

おわり

20221022

愛野美奈子生誕祭&オリオン座流星群の日

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