Re:スタート


sideクンツァイト




付き合って間もなくの時、不意に美奈子に10月22日は私の誕生日だから覚えておいてと言われ、無理矢理予定を空けさせられ誕生日を祝うよう約束させられた。

いや別にいいんだが寧ろ祝ってやりたいと思っているが性格上、誰かの誕生日を祝うというのがとても苦手で何をしていいのか悩んでしまう。

取り敢えず衛にアドバイスを貰おうと相談するも「君斗がする事は何でも喜んでくれるよ」と在り来りで何の参考にもならない答えが返ってきて頭を抱え込む。

確かに彼女の性格上何でも喜んでくれるし楽しんでくれそうだが普通じゃつまらない。

どうせなら心に残る事をやってやりたいと思い、考え巡らせた結果とある場所に連れて行くことを思い浮かんだ。

喜んでくれるかどうかは別だが…。

誕生日当日はお互い学校がある為、夕方頃車で美奈子の家まで迎えに行くとだけ伝えておいた。

どこに行くのか聞かれたが、行ってからの楽しみとして取っておけと言うと大人しく聞き入れてそれ以上は聞かずに当日を迎えた。

約束通り家まで迎えに行くと私服に着替え直した美奈子が出てきた。

「今日は一体どこに連れてってくれるの?そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」

助手席に乗り込むや否やシートベルトをしながら聞いてくる。

「まぁ黙って乗ってろ」

「なっ!まだ秘密なの!?まぁいいわ」

着くまでの間も行き先を言わずに目的地へ車を走らせるとまだどこに行くか教えない事に不満を募らせつつ色々場所を予想して楽しそうにしている。

目的地にようやく着いて車を駐車して向かった先は…

「東京…タワー?」

美奈子の誕生日に過ごす事を俺が選んだ場所、それは東京タワーだった。

やはり明らかに動揺してるのが目に見えて取れる。

そう、東京タワーは俺達にとって色々とあった場所だった。

転生して悪の組織に洗脳されていた時、敵としてプリンセスのダミーであるヴィーナスを狙う為に選んだ場所だった。
結果的に俺が放った攻撃で本物のプリンセスが覚醒し、銀水晶が現れた事で前世の記憶を取り戻す事になったが結局何もかもが手遅れだった。

俺にとってもターニングポイントだった場所だ、美奈子自身も色々思う所があるだろう。
嫌な思い出のままにはしたくはないと思い俺達の新しい関係を築く為に敢えてここに連れて来た。

「嫌なら止めるが?」

気が進まないのに無理矢理行きたくない場所へ連れて行くほど俺も人でなしは無い。美奈子の意志を尊重する為逃げ道を作ってやる。

「まだ何も言ってないじゃない!見くびらないでよね!」

気を使ったつもりだったが傷つけてしまったのか逆に怒られてしまった。

「では行くか?」

「行くわ!」

何故か強気に宣言したかと思えば不安なのか手を繋いで来て言動と行動があっておらず、強がっているだけで少なからず不安なのだと気づく。

「無理はするなよ?」

「何の事?アンタの方こそ大丈夫なの?」

あくまでも強がりな姿勢を崩さず、凛とした眼差しでこちらの心配をしながら俺を引っ張り東京タワーへと歩き出した。

美奈子はどうかは分からんが、実はあれ以来東京タワーには行っていない。
2度目の転生を果たし、前世やダークキングダムで戦っていた記憶も色々取り戻していた。
行く必要も用事も無かったし、行きたいとも特に思わなかった。
別にあの時の事があって怖かったわけでもトラウマでも無かったが、近づく事もしていなかった。
だからどうせならと思い美奈子とあの日以来この場所に来ようと決意した。

「俺は別に何ともないが、お前は大丈夫なのか?」

「私だって平気よ!」

強がっているのか、本当に大丈夫なのかは分からないが意を決してエレベーターに乗り込む姿を見て取り越し苦労だったかと少し肩を撫で下ろす。

エレベーターの中では終始無言で空気は張り詰めている感じだった。お陰でいつも以上に長く感じる。早く頂上に着いてくれ。

頂上に着くと繋いでいた手を解き、率先して展望台に向かって行った。

「綺麗な夜景ね」

「そうだな。あの時は気づきもしなかったが…」

意を決してあの時の話を振ってみる。

「私も余裕が無くて見られなかったからなぁ…。あの時の記憶はあるのね?」

「あぁ、鮮明にな。あの時、本当のプリンセスから銀水晶が出現した後に前世の記憶も少し蘇ってきていたんだ」

「そうだったの?全然分からなかったわ」

「ダークキングダムのアジトに戻った後また洗脳されてしまったからな」

「そう…アンタも大変だったのね?」

「いや、当然の報いだ。…あの時は色々すまなかった。謝っても許されることでは無いと分かってる」

「良いのよ。仕方の無い事だったんだから。それを言うなら私だってクンツァイトを躊躇なく殺したわ!」

だからお互い様でチャラだと美奈子は言ってくれた。
そしてこの関係を望んで選んだんだから気にしないで欲しいとも。

「お前はそれでいい!いつも過保護にプリンセスの事を気にかけ想っていた。何かあったらこれからもうさぎさんを最優先でいろ。それでいい。そんなお前に惹かれていたし、これからもお前に対する気持ちはずっと変わらないから安心しろ」

そう、俺もまたマスターが何より1番大事でこれから先も美奈子は2番手だ。つまりはお互い様。その関係性があったればこそ惹かれあった。何かと似た共通点も多い。当然の結果だ。そう続けて伝えると納得したのか頷いていた。

「気にしてないつもりでいたけど、やっぱり少し怖かったのかも。あれ以来ここには来てなかったから…」

そう言って強がっていた仮面を剥がし、素直に気持ちを吐露した彼女の目からは静かに一筋の涙が頬を伝っていた。

やはり彼女も少なからず気にしていたのだと気づき、流れ落ちる涙を拭い、そのまま抱きしめてやると美奈子の方も両手を回して抱き締め返してきた。

しばらくするともう平気だからと言いながら笑顔で顔を上げた美奈子はどこか吹っ切れたスッキリとした顔をしていて、等身大の普通の女子高生の様に無邪気にはしゃぎ始めた。

「さぁて!思いっきり楽しむわよ~」

そう言いながら外を見上げると彼女の守護星である宵の明星が美しく輝きを放ち、夜空を彩っていた。

「もう大丈夫そうだな」

自分の守護星を眺める凛とした顔を見て安心する。

「何の話?」

そう言ってはぐらかす美奈子の顔にはもうこの話はこれで終わりと書いてある。

長くする話ではないし、俺達2人にはさっきのやり取りで十分分かり合え未来(まえ)に進んで行ける。
それに彼女の性格上、いつまでも引きづるタイプでも無いため、涙を流したことにより過去に踏ん切りを付け精算できたんだろう。
美奈子が吹っ切れた事で俺の心も軽くなった。

「ここに連れて来てくれてありがとう」

恥ずかしそうに笑顔でお礼を言って来た彼女を見て連れて来るか迷い、少し後悔していた心が軽くなり肩の荷がおりた。寧ろお礼を言うのはこちらの方だ。

俺達の、いや、俺の蟠りと自己満足の為に連れて来た因縁の東京タワーに文句どころか黙って着いてきてくれた上に過去を水に流してくれて感謝している。

顔を上げた美奈子と目が合い、無言で見つめ合っているとどちらともなく自然と顔を近づけ、優しく見守る彼女の守護星と月をバックに唇を重ね初めてのキスをした。

俺達の関係が新たにまたここから始まる。

美奈子、生まれ変わって俺を選んでくれてありがとう。これからもよろしく頼む!

誕生日、おめでとう!
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