白衣の戦士


台所からお粥を笑顔で持ってくる美奈子に不安を覚え、再度普通のお粥であってほしいと強く願う。

「はい、あーん♪」

今度はレンゲにお粥を掬い、再度口まで持ってきた。
自分で食べるか迷いに迷ったが、熱が下がり、身体の痛さがマシになったとは言えまだまだシンドい。でもお粥は不味い可能性が高い。葛藤した末、決死の思いで食べさせてもらう事に決めた。

「ウッゴホッゴホッゴホッゴホッ」

一口食べた瞬間、とても食べられたもんじゃなくて吐き出してしまった。
いくら風邪で具合が悪く口の中が鈍感になっているからと言っても流石にアウトである。正直言って食えたもんじゃないし、何なら不味い。
どうしたらこんな不味いお粥が作れるのか逆に知りたい。
相変わらず不味い料理を作らせたら宇宙一だ。

「きゃぁぁぁ、大丈夫?入れすぎちゃった?」

この場合の美奈子の“入れすぎ”は口の中にお粥をと言う事だろうが、こちとら塩辛過ぎて塩入れすぎて不味いが極まって吐き出したんだが、きっと分かっていないだろう。

「…やらかしてるぞ。食ってみろ!」
「どれどれ……ウッかっらぁぁ~~~い!塩入れすぎちゃったみたい。もう美奈子ったら塩がない子ねぇ~てへぺろ」
「…味見は?」
「…し忘れてました。ゴメンなさい!」

予想通りの美奈子の言葉にどっと疲れてしまい、また熱が上がってきて朦朧とし、そのまま意識を失うように眠りについた。

それからまた暫く眠り続け、目を開けたら流石に美奈子は帰っていないだろうと思っていたが…。
目を覚ました俺を心配そうな顔で覗き込む美奈子の顔が真っ先に飛び込んできて、柄にも無くホッと安心した。
冷えピタを変えてくれたらしく、気持ちよかった。

どこかへ行こうと立った美奈子の手を咄嗟に取った。

「行くな!傍にいてくれ。どこにも行くな!」
「行かないわよ?まだいるから安心して」

風邪でしんどいお陰でとんでもない事を嘴ってしまったが、朦朧としているからもしかしたら夢を見ているのかもしれない。いや、そう言う事にしておきたかったし、しておこうと思い、もう一度そのまま寝てしまった。

次に起きた時にはもう朝を迎えていて、流石に美奈子の姿は無く、その代わりにメモが置かれていた。

“美奈子はそろそろ帰ります。冷えピタも薬も置いておくのでまだ熱有れば使ってね♪お粥もあれから味見しながら作り直したので、良ければ食べて早く元気に憎まれ口叩ける様になってね!熱で普段言わない事口走ってたからよっぽどシンドくて参ってたんだなって心配になったけど、あの時の「どこにも行くな!そばにいろ!」は美奈子の一生の宝物になりました♪お大事にネ!By 白衣の天使の美奈子より”

やはりあの時の言は夢では無かったことに美奈子の手紙に落胆する。
しかし、お陰で完治とまでは行かないまでも、すっかり良くなった俺は、美奈子にお礼の電話を入れた。

「美奈子、昨日はありがとう」
「良いって!彼氏が風邪で寝込んでるんだもん!看病出来て良かったわ。熱は下がった?」
「ああ、お陰で大分良くなった」
「リフレッシュ出来た?」
「…俺は意地でもリフレッシュ等とは言わん!」
「何それ、頑固ねぇ~アハハハ」

美奈子との会話を終え、昨日何をやらかしたのか部屋を見て回ると、お気に入りの皿を含む食器類数点が割れていた。
流石のやらかし具合にまた熱が上がる思いだった。




おわり

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