白衣の戦士


「熱は測ったの?」
「いや、違う部屋にあるから取れなくてな」
「何処にあるの?取って来るわ」
「隣の部屋の二段目の引き出しだ」
「了解!」

何事も無くここに戻ってきてくれればいいが…と朦朧としながら祈るが…

ドンッ!!!

……そうは問屋が卸さないのが美奈子か?はぁー(深いため息)
概ね引き出しを落としたと言ったところか?

「お待たせ!中々見つからなくて。はい、測って」
「ん、サンキュー」
「そうだ!一応解熱鎮痛剤買ってきたのよ。飲むでしょ?」

美奈子にしては気が利く。(失礼極まりない)
医大志望の亜美ちゃんからアドバイスでも貰ったのかもしれない。

「薬飲むなら何か食べないとでしょ?だから食べ物も買ってきたの」

テキパキとコンビニの買い物袋から食べ物を出していく。

「熱があるって聞いたから冷たくて食べやすいのがいいかな?って思ってヨーグルトにゼリー。甘いのが苦手だからゼリーも柑橘系ピックアップして買ってきたわよ」

ピピピッピピピッ

得意げに買ってきた物を説明していると測っていた体温計がなった。

「どれどれ?…て、38度5分?思ってる以上にあるわね?薬買ってきて正解ね。その前に何か食べないとダメよね?」

買ってきたゼリーを手に取り、パッケージを開けるとスプーンで掬って「はい、あーん♪」と口まで持ってきた。普段なら食べさせてもらうなんて行為、恥ずかしくて絶対に受け入れないし、お断りだが、高熱で動かす度身体の節々が悲鳴をあげるため、
素直に受ける事にした。

「ん、冷たくて上手い」
「珍しく素直ね?よっぽどシンドいのね?ゼリー、全部食べられそう?」

コクリと頷くと、タイミングを見つつ適量を口に運んで食べさせてくれた。
朝から何も口にしておらず、高熱で口が熱かった為、スッキリして完食した。

「じゃあ次はお薬ね?台所借りるわよ。水は買ってないから」

そう言って台所に行く美奈子をまた何かをやらかすのでは無いかと不安になりながら待つ事になった。

ガチャン、ガチャン、ガッシャーン

「きゃぁ~やだぁ…」

「…」

水をくみに行っただけのはずなのに、何がどうなったか食器が割れたと思しきる音が聞こえ、直後、美奈子の叫び声が響き渡った。…勘弁してくれ。余計頭痛くなるし、熱が上がりそうだ。
先程、看護師姿で献身的にテキパキとコイツマジで美奈子か?と疑う程完璧に看病していたと思えばこれだ。やはり美奈子は美奈子だった。
取り敢えずもう何もせず水だけ汲んで戻ってきていただきたい。色んな意味で。

「やっちゃった~てへぺろ」

騒がしくした後戻ってきたかと思えば、その手に肝心のコップは握られておらず、両手はがら空き。…何故戻ってきた?と言うか、何しに行って、何をやらかした?
万遍の笑みが天使の様な悪魔の笑顔に見えて仕方が無い。高熱と笑顔に身体の震えが止まらない。

「み、水…水を…くれ…ゴホッ」
「アッお皿を割っちゃってすっかり忘れてたわ!いけないいけない!美奈子のうっかりさん」

どうしたら目的をすっかり忘れられるのか是非知りたいものである。余計に熱が上がり悪化そうだ。
もう一度台所に行き、今度こそ水を汲む音が聞こえてきて心底ホッとする。これで戻って来る時また持ってなかったら本物のアホ確定だ。そうならない事を祈る。

「お股~♪今度こそ水持ってきたわよ!」

戻ってきた美奈子は右手にコップを持ち、左手をピースしてウインクして何故か得意気に威張っている。1度目で出来て当たり前なのに…。

「じゃあ薬飲みましょうか?」

箱から薬を出して飲ませてくれる。
これでやっと落ち着けると思うとホッとして気が抜け、気を失う様に眠りについた。

どれだけの時間寝てしまっていたのだろうか?
目を覚ますとおでこにはいつの間にかゼリーと一緒に買ってきたであろう冷えピタが貼ってあり、冷たくて気持ちいい。そして周りを見るとナース姿のままの美奈子が傍で寝ていた。
寝ている時にも何か色々しなくてもいいのに慣れないことをして疲れて、ホッとして寝てしまったんだろう。

解熱鎮痛剤を飲んだお陰だろうか?それともたっぷり寝たお陰だろうか?身体の痛さがマシになっていた。熱も冷えピタのお陰で下がっていそうで楽になったように思う。
起きた俺の気配に気づいたのか、美奈子も目を覚ました。

「んんぅ~ん、いつの間にか寝ちゃってたのね?公斗も起きたのね?体調はどう?」
「お前の看病と薬とよく寝たからか大丈夫マシになった。ありがとう」
「そっか、良かった!寝てる間も苦しそうにしてたから、心配したのよ?」

そう言う美奈子の顔は本当に心配そうにしていて、申し訳なく思った。

時計を見ると17時をとっくに過ぎており、外は暗くなっていた。

「また薬飲むでしょ?寝てる間にお粥作っておいたんだけど、食べる?」
「…ああ」

やはり寝てる間に色々していた。飯不味彼女が作るお粥に一体どんな味がするのかと出来れば回避したいところだが、せっかく作ってくれたし薬も飲まないと良くならないから観念して食べることにした。…頼む!多くは望まん!普通に食べられる仕上がりであってくれ!と心の中でかなり大きく願った。

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