サシ飲み


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知っている。前世もそうだった。ずっと見てきた。誰よりも姫思いで責任感が強く、決して弱みを見せないし、妥協を許さない。そんな彼女だからこそ惹かれたのだから。
そしてそれは現世でも変わっていないことは敵の手に落ち、実際戦って分かった。姫を傷つけようとした俺を躊躇無く殺した。前世でも同じだった。他でも無いヴィーナスが洗脳して闇落ちした俺を殺して解き放ってくれた。

きっと俺と再会するまでうさぎさんを次から次に現れる強敵から並々ならぬ思いで守ってきたのだろうことは容易に想像出来る。

「でも安心しろ。美奈はお前にずっと惚れてるよ。今まで好きになってきた奴らは何処と無くお前にそっくりな奴ばっかりだったよ。男にモテて何人かは付き合ってたが、やはりお前の事忘れられなかったのか長続きしない中途半端な恋愛だったよ。そこんとこよろしく頼むよ」
「そうか」

よろしく頼まれたのと、美奈子がずっと俺を潜在的に俺を求めてくれていたことが単純に嬉しくなり、顔は真顔のまま心で喜んだ。

「まぁ俺も似た様なもんだ。過去の恋愛は散々だった。今思えば美奈子を潜在的に思っていた事、マスターを大切に思っていたことを相手に見透かされていたのかもしれんな」
「そうなのか?結局お前達は主君命だから本気の恋が出来にくくなってたのかもな?美奈に関しては愛の女神なのに叶わない恋ばかりなのは相棒として傍で見てて痛々しかったよ。幸せにしてやってくれよな!」
「ああ、幸せにすると誓うよ」
「美奈は愛の女神だけど恋に免疫ないし、素直になれないことも強がる事もあると思うけど、受け止めてやってくれ。まぁ美奈もお前の前では弱みも見せるかもしれないけど」
「受け止めてやるさ、心配しなくとも」

まるで心配性の親父のように美奈子の事を説明して来るコイツにちょっと若干イライラする。
そんなに俺が頼りなく見えるか?
とは言え、ずっと傍で何でも見てきた奴が自分以外の奴と付き合うんだ、心配しない方がおかしいし気持ちは分からなくもない。

これから先、美奈子と俺が何かあったら確実にコイツにすぐにバレるのも目に見えて分かる。美奈子自身も態度に出やすいことは分かっているし、何より一緒に住んでいるからな。今までもそうだしこれからもだろうから仕方ないが人間化出来る異性が同じ屋根の下に住んでるのはモヤモヤする。何かないとも限らん。まぁコイツにも恋人がいて子供がいる未来があるらしいから、万が一って事はないと信じたい。

「お前は美奈子の事はどう思っているんだ?恋愛感情は無いのか?」
「無いね!色々知りすぎて女として見れない。いい女だとは思うけど、俺はルナ一筋さ!大切な相棒でそれ以上でも以下でもない。安心しろ。育ての親みたいなもんだからな。美奈も俺に対してそんな風には思ってないよ。ぞんざいに扱われてきたからな…。お前はどうなんだ?」
「前世から変わらずずっと、愛してる。これからもこの想いは変わらない。美奈子以外は考えられない」
「そうか、それを聞いて安心したよ。2人とも大人だからな、あんまり干渉したりしないから上手く付き合って行ってくれ」
「ああ、分かったよ」

おそらく全てコイツの本心だろう。恋愛感情がない事が聞けてホッとした。余り干渉しないとか言ってたけど、きっとこれは無理だろう。心配性のオヤジだからな。

「で、お前の散々な恋愛って?」
「もう勘弁しろよ…」

腹を割って男同志話が出来たのは有意義で、言いたい事や聞きたかったことが聞けたからこの場を設けたのは間違ってなかったが、もう二度とサシ飲みは勘弁だと思った。
意地悪な顔で過去の恋愛を聞こうとしてきたコイツの顔を見てどっと疲れた。

しかしこれで何の蟠りもなく美奈子と堂々と付き合う事が出来る。
まず初めの難関は突破したという事でとりあえずホッとした。

美奈子との関係はこれから共に付き合っていく中で築き上げていけばいい。ゆっくり俺たちのペースで絆を深め、時間を共有し、思い出を作って行ければと思う。

「冗談だよ。お前の過去に興味無いよ」
「それは良かった」
「…でも、もし万が一お前が美奈を傷つけたら俺が美奈を貰うから、覚悟しとけよ?」
「やっと本心見せたな?肝に銘じておく」

やはりコイツは侮れない。
しかし、何があっても俺はこの先美奈子だけは譲らない。離さない。例え何かを犠牲にしてもーーーー。但し、衛は別だがーーーーー。




おわり

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