白銀の世界で


side クンツァイト


護衛も付けず、月から姫がやってきて驚いてしまった。

聞けば、ヴィーナスが遅くて置いてきてしまった、との事で。

確かに最初の頃は護衛など付けず、側近の目を盗み、マスターに会いに来ていたが……。

マスターもそうだが、何故立場を弁えず、家臣の手を煩わせるのがお上手なのか?と頭が痛くなる。

そう言った意味ではマスターと姫君は似た者同士でお似合いか?と、有るまじきことを少し考えてしまった。

ヴィーナスもヴィーナスだ。目を離すとはどう言った了見だ。

一人、お二人を見守りながら、ヴィーナスが来そうな方向も注意してみていた。

暫くして、その方向から彼女と思しき姿が現れる。

慣れない雪に、中々前に進めない様子だ。

近づいて行き、遅かった事を咎めると、案の定、睨まれる。美しい顔が台無しだ。

怒らせている原因は俺かもしれないが……。

怒らせるつもりは無いのだが、何を言っても怒った顔を見せる。

「歩けるか?」

手を差し伸べたが、お得意のプライドが邪魔をしたのか、キッパリと断られる。

それとも俺を信用していないのかも知れない。

女として扱われるのも嫌なのだろうが、俺から見れば、どこからどう見ても女なのだから、どうにも仕方の無い事だ。放っておけない。

二人でそれぞれの主君を見守っていると、横目で見ても震えているのがわかった。

ずっと怒っていることもあり、怒りで震えてるかもしれないと様子を見ていると。


「クシュンッ」


クシャミをしたのを聞いて、やはり慣れない雪の寒さで震えていた事が判明した。

戦闘服は寒さに適したものとは思えないから、無理もない。

ましてや天候や温度は無いと聞く。こう言ったことに免疫が無いのは明白だ。

バサッ

先程の名誉挽回では無いが、羽織っていたマントをかけてやると、また嫌そうな顔でコチラを睨んでくる。

要するに何をしても腹が立って怒るのだろう。そう言う性格なのだと言えば、そうだ。


「我慢するな!羽織っておけ」


俺なりの優しさだったが、出過ぎた真似だったのか、表情は怒ったままだ。

ただ俺は、彼女の笑顔が見たかっただけだ。風邪をひかれるのも後味が悪いというもの。

最初に会った時から美しい顔だと思っていた。

しかし、彼女はその立場からか、あまり笑顔を見せない。去勢を張っているのかもしれない。

笑顔が映える美しい顔だと思うが、気難しい顔や怒った顔ばかり見せる。

怒った顔も美しいが、やはり女性なのだから笑顔でいて欲しいと思ってしまう。

俺にだけ、こんな顔をするのだろうか?

月にいる時は笑顔なのだろうか?


彼女の笑顔が見てみたい。

そんなことを言ったら、ヴィーナスはどんな反応をするだろうか?

いつか心を許し、本当の笑顔を見せてくれる時が来るだろうか?





おわり


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