白銀の世界で



side ヴィーナス


今日はトコトンついてない日だ。

どこで間違えたんだろう?

思い返せば公務が長引いてしまった所からの様な気がする。

この日は、プリンセスの護衛について行く事になっていた。

けれど公務が入っていた為、それを終わらせてからとプリンセスと約束をしていた。

なのに、肝心の公務は長引いてしまい、待ちきれなかったプリンセスは私を置いて地球に行ってしまったみたいで。何処にも姿が見当たらない。

怒りながら地球へと向かうと、白く冷たくて柔らかいものに足を取られてしまった。


「ヒャッな、何よこれ!?」


文句を言いながら進むも、その度足が取られ、中々進まない。

少し先の方に人影が見える。段々と近づいてきたそいつは、いつも見ていた顔だ。

王子エンディミオンの側近の一人で、四天王リーダーのクンツァイトだ。


「遅かったでは無いか?姫君はとっくに来ているぞ」


私を見ていきなり責めてきた。

私だって遅れたくなんか無かったわよ!
仕事だったんだから仕方ないじゃない!
プリンセスが一人で勝手に行くなんて思ってもなかったし。なんてのは言い訳にしかならないから、心の中に留めておいた。

その代わり、顔で怒りを表現。これがクンツァイトとの日常会話みたいなものだから。


「私だって忙しいのよ!」


忙しい合間を縫って護衛をしている。これは、本当。

それに、地球に来るなんて本当は不本意なのに、遅くなっただけでこんなに責められるなんて!


「歩けるか?」


慣れない感触の所をたどたどしく歩いていると、手を差し伸べられた。


「鍛えてるんだから、大丈夫よ!それより、この白くて冷たいものは何?」

「雪と言うもので、この時期によく降って積もる」

「“ユキ”、そう……これが、“ユキ”」


地球と違い、月には四季も天候も緑もない。

幻の銀水晶で気温も天候もコントロールされている。

けれど、ドームの中でだけ草木や四季等、地球と同じ環境を再現していた。それを管理しているのは、マーキュリーとジュピターの2人。

ただ、頭脳派のマーキュリーを持ってしても“ユキ”と言うものだけは再現出来ず、見た事がなかった。

これが、“ユキ”って奴なのね……。


「初めて見るのか?」

「ええ、例によって天候なんてものは無いから。本で読んだりしたけど、どれも詳しく載ってなかったから……」


そんな事を話しながら、遠くを見る。

王子とプリンセスが“ユキ”ではしゃいだり、良い雰囲気になっているのを見守る。


「クシュンッ」


“ユキ”のせいもあり、とても寒くてクシャミが出てしまった。

すると、両肩に重いものがのしかかって来て驚いてしまった。


「ヒャッな、なに?」

「我慢するな!羽織っておけ」


ぶっきらぼうにそう言うクンツァイトをチラッと見ると、さっきまで羽織っていたいつものマントが無かった。


「い、いらないわよ!」

「強がるな!寒くて震えていただろ」

「震えてなんか……」


そう言いながら、確かに小刻みに震えていた事を思い出した。

クンツァイトのかけてくれたマントが暖かい。

さっきまで羽織っていたからか、彼の温もりが感じられて。

彼に抱きしめられているような、そんな錯覚をしてしまう。

クンツァイトの顔を見ると、相変わらず難しい顔をしていて、表情からは感情が見えない。

どうしてそんなに優しいの?
今、何を思っているの?
私の事、どう思っているの?

私は戦士で、これは仕事の一環。

なのに、こんな感情を抱くなんて私らしくもない!プライドが許さない!

クンツァイトなんて、何とも思ってないんだから!





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