未来クンヴィSSログ
『いつも(クンヴィ)』
「ん」
この日、クリスタル・トーキョーに来ていたクンツァイトが珍しく勤務時間に私用でヴィーナスを宮殿の花壇へ呼び出した。
例によって久しぶりの二人の時間だが、呼び出した張本人は仏頂面。プラス、中々喋らず寡黙。
痺れを切らして口火を切ろうかとしたその時、漸くクンツァイトが何やら行動に移した。
だが、余りに短い言葉とぶっきらぼうな行動に、ヴィーナスはイライラした。
「何よ?」
「だからこれ、プレゼントだ」
たった一文字の言葉と共に動いた右腕の手に握られた物を大袈裟に揺らして強調して見せた。
「これって、花?」
大きな手に力強く握られている黄色い花を見たヴィーナスは質問した。
「ああ、見ればわかるだろう」
「そうだけど、何で急に?」
いつもと違う行動を取ってくるクンツァイトをヴィーナスは怪訝に思った。
何かの記念日だっただろうか?
はたまた何かやましい事、例えば浮気とかしたのではないかとヴィーナスは逡巡した。
「今日はヴィーナス、お前の誕生日だろう」
「あ、忘れてた!」
クンツァイトに言われて漸く今日がどう言った日だったかを思い出すに至った。
あれだけ学生時代は誕生日は敏感で、祝って欲しくて色々試行錯誤したと言うのに、今はどうだろうか?
無関心とはちょっと違う。忙しいと言うのも全く違う。忘れていたのには大きな理由があった。
それは、前世と同じで長寿国家ーーミレニアム時代が適応されたからだ。
そのお陰で誕生日や歳をとると言う概念が無くなったし、それ程重要なことでもなくなってしまった。
あれだけ何度も死んでは生き返りを繰り返していて命の尊さを誰より分かっているのに。
「忘れていたとは、お前らしくないな」
「仕方ないじゃない!千年生きるようになってから、いちいち祝わなくなったんだから」
「そうだな」
クンツァイト自身もヴィーナスの誕生日を忘れがちだ。勿論、己自身の誕生日も。
だが、そんな中でも今回は思い出し、こうして行動に移していた。
「ヴィーナス、誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」
「うふふ。クンツァイト、私の方こそ祝ってくれてありがとう」
渡された花束を見ながら、クンツァイトの改まった言葉に照れつつ喜んだ。
いつもは無関心で、何を考えているのか分からない真面目で堅物、寡黙で無表情の仏頂面なクンツァイトがストレートに祝いの言葉と行動をくれた。その事に、ヴィーナスは単純に嬉しく感じた。
「ふふふ」
「なんだ、気持ち悪いな?」
「ちょっとーーー!喜んでるんでしょう!」
「そうか、なら良かった」
「ところでこの花、なんて花?」
「ああ、キンセイランだ」
「ふーん、キンセイランかー」
「金星の様に黄色いからだそうだ。お前そのものだと思ってな」
「本当、私そのものね」
自分の事を思って選んでくれたのは嬉しかった。
ただ、すぐに枯らしてしまいそうで怖かった。
こういう時のジュピターだなと後で長持ちする方法を聞きに行こうと考えていたその時だった。
「キャッ」
突然、クンツァイトに抱きしめられ、ヴィーナスは短く悲鳴をあげた。
強く抱き締められて戸惑ったが、ヴィーナスもクンツァイトの背中に手を回して抱き締め返した。
「ヴィーナス、愛している」
「私もよ、クンツァイト」
クンツァイトの腕の中、今日の行動の全てが嬉しくて、愛おしくて、柄にもなく泣いていた。
滅多に愛情表現をしない人が、不器用ながらもストレートに愛を伝えてくれた。それが何より嬉しい。
抱き締められた身体からもクンツァイトの想いが伝わって来て、言葉にならなかった。
余り一緒にもいれないし、愛情は分かりにくいが、たまのこう言った飴と鞭の様な言動があるからやっていけていた。
そして、こんなに大好きな人とこの先長くいられる事にヴィーナスは、幸せな人生だとクンツァイトの腕の中、噛み締めた。
おわり
20241022 愛野美奈子生誕祭2024