03:選んでみろ
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早朝、叶太輔の住んでいるマンションの一室の和室では、姉の陽子が仰向けで寝転がっていた。
真夏の暑さに汗を流し、呆然と天井を見つめながら外から聞こえてくる蝉の声とテレビのニュースの音に耳を澄ませていた。
自殺の現場に出くわした目撃者達が話している。
全員、顔にモザイクがかけられていた。
“そりゃ驚きましたよ! だって道歩いてたら人が落ちてきたんですもん! しかも5歳くらいの子供ですよ!? 5歳で自殺なんて……”と車に乗った主婦。
“道を尋ねよう交番に入ったら、おまわりさんが目の前でいきなり……バ―――ンって……”と指を拳銃の形にして自身の額を撃つ真似をする男子高校生。
“私、見たんです…。妻がベランダから飛び降りる瞬間……幸せそうに笑っていたのを……”と悲痛の表情で声を絞り出す夫。
“8日目の今日、突発的な自殺のニュースは入ってきておりません。このように、完全に沈静化した模様の自殺騒動ですが―――…日本だけでなく、世界各国で10万人もの自殺者を出したこの事件、原因はなんだと思われますか?”
女性キャスターが専門の教授に尋ねる。
その教授は得意気に答えた。
“新興宗教の信者による集団自殺でしょう”
“しかし、まだそんな団体は見つかってませんよね”
その男性キャスターの言葉に、教授は口を濁した。
“そう……ですね”
陽子は話にならないテレビの内容に呆れ、チャンネルを変える。
すると、画面には太輔の通う高校と、その正門の前には女性アナウンサーが状況を説明していた。
“―――都内の高校で、生徒4人が惨殺された事件で……容疑者の少年の事情聴取は未だに続いており、事件のあった学校はこのように閉鎖されたままです”
「あの惨殺事件から1週間かぁ―――」
部屋はコンビニ弁当のゴミや空になっているペットボトル、その他のゴミ類が詰め込まれたゴミ袋が大量に置かれていた。
部屋の隅に置かれている電源の入った扇風機が回っているが、効果は皆無だ。
気がつけば、ニュースは他の事件を流していた。
画面には閑静な住宅街が映し出され、画面の端には地面が焦げたような黒い跡があった。
“―――町で多発していた通り魔事件の犯人が、北条水樹(みずき)さん大学生22歳を大量の釘で背中を刺して殺害したのち、一緒にいた北条水樹さんの妹に軽傷を負わせて逃走しようとした際、切れていた電線に触れ、感電して死亡していたのが昨夜の深夜1時に発見されました。通報したのは近所に住む住人で、「突然、停電が起こったかと思えば窓の外が光った」「通り魔があったとは知らなかった」と話しています。犯人は中年男性で、身元の確認を急いでいます。なお、北条水樹さんは背中を刺された他に、右手を薬品で溶かされたような痕跡があり、使われた薬品の調べも急いでいます”
「………犯人、死んじゃったのか…。残された妹さん、気の毒ね……」
同情を抱きつつ、陽子はチャンネルでテレビを消した。
「広瀬君、大丈夫かなぁ~。そして、あのバカ…、1週間も家(うち)あけて、どこ行ってんのよ。お姉ちゃんにゴハン作ってよ~。太輔のバカヤロ―――」
嘆きの声が空しく部屋に響き渡る。
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