11:元気でな
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3階にある広い部屋に勝又組全員が集まった。
「みんな、よく集まってくれた」
長方形のローテーブルを中心として、4つのソファーが囲っている。
北の一人用のソファーにはフクロウが留まり、東の一人用ソファーには岡田が、南の一人用ソファーには由良が腰かけている。
西の長いソファーには北の方から華音、レン、森尾が座っていた。
フクロウの背後には勝又が立ち、扉の付近の壁には広瀬が腕を組みながら背をもたせて立っている。
由良はテーブルに行儀悪く足をのせながら“白い変人”を幸せそうに頬張り、スペアの眼帯をつけた森尾と、レンが呆れてそれを眺めていた。
目を伏せる華音は自身の手のネイルをぼんやりと見つめ、岡田は何か思うところがあるのか広瀬を睨みつけていた。
勝又が全員を見回しながら口火を切る。
「今日、来てもらったのは、“アクロの心臓”のことで話が……」
「お! 勝っつん、いよいよ取りに行くのか?」
由良は「うまうま」とクッキーを頬張りながら、待ってましたと言わんばかりに口を挟んだ。
食べながら喋ったため、由良の口からボロボロと菓子クズがこぼれ、露骨にレンと森尾は顔をしかめる。
「きたね―な―」と森尾。
「食うか喋るかどっちかにしろよ」とレン。
「クッキーモンスターみたい…」と岡田。
「それがねえ……」と勝又が話している最中、華音は肘掛けに頬杖をつきながら、森尾の怒鳴り声を思い出した。
『華音、おまえなあ! やめとけって言ったのに、なんでドアを開けた!? 自分からトラブル引き起こすなよな!!』
(なによ、せっかく帰ってきたのに、みんな華音を悪者にして…、あの子とは、まるで扱いが違うじゃない!!)
恵に対する苛立ちが込み上げ、思わず目の前のテーブルを蹴った。
「!」
突然の行動に全員が華音に注目する。
「どうしたんだね? 華音君」
勝又が声をかけるが、華音は膝を折って両手で耳を塞ぎ、ぎゅっと目を瞑って拒絶の態度をとった。
「……………」
勝又は、困ったな、と頭を掻く。
「……華音?」
レンが呼びかけても、華音は黙ったままだ。
そんな様子を見ていた由良が溜め息をついて言った。
「勝っつん、レン、ほっとこうぜ~。カノンのそーいうアピールにいちいちかまってると日が暮れる」
勝又はしばらく華音の様子を眺めていたが、諦めたように話を続けることにした。
「……では、本題に入らせてもらうよ。先日、“アクロの心臓”を見に、湖まで行ってきた…」
「湖?」
レンが首を傾げる。
「そう。アレは湖にあるんだが―――結局…、回収は先延ばしになったよ」
「先延ばしですか…? それはなぜ……」
森尾が尋ねると、勝又は説明する。
「こちらが思っていたより、アレは力が大きくてね。無事、回収しても、安定させるのは難しい、という結論に至った。まさか北海道全域が、その波動で覆いつくされるほど強力だとは、思ってなかったからね」
勝又が窓へ顔を向けたので、その場にいる全員もつられて窓の外を見た。
由良は頭を掻きながら、鬱陶しそうに窓の外に目をやる。
「ちぇ~~~。回収すりゃ、このピリピリもなくなると思ってたのによ~~~。このままじゃ、“仲間”の場所もわかんねーまんまだからな―――」
「それのせいでこの前の奇襲も苦労したからな……」
レンは先日の室組との戦いを思い出しながら腕を擦った。
「この波動は、“アクロの心臓”の鼓動……」
フクロウが喋りだし、全員そちらに顔を向ける。
「還るべき場所…、半身である“あの方”を呼んでいるのだ」
「あ―――…“あの方”ってのは、具体的になんなの?」
由良は、口から菓子クズをこぼしながら、フクロウに尋ねた。
「時を超えて存在する、唯一の生命…。祖、道、全、核…」
「なぁモリヲ、やっぱあの鳥イカレてんぞ」
理解不能で、由良は当てつけにわざと聞こえるように森尾に話しかけた。
急にふられた森尾は複雑な表情を浮かべている。
「おまえに言われたくはない」
フクロウは呆れて言い返した。
その返しにレンは腕を組みながら密かに頷いていた。
由良は肘掛けで頬杖をつき、まとめて表す言葉を投げる。
「じゃ、なに? そいつは…、神?」
「神? あの方は、そんなあやふやな存在ではない。指導者だ。“アクロの心臓”を手に入れ、あの方が完全体となったら、おまえらの言う、神ですら持ちえぬ力を持つ。この地球(ほし)の変革を完成させるのだ。おまえらは余計なことは考えず、回収だけに集中していればいい」
そんなフクロウの言い方に、レンはムッと眉をひそめた。
(なんだあの言い方、カンジ悪ィ。こっちは回収する身だっつーの)
ふと、森尾は頭に浮かんだ可能性を口にする。
「でも…、“アクロの心臓”はオレ達以外の“仲間”にも狙われるほど価値のある物…。オレ達が回収しても、この中の誰かが持ち逃げする可能性があるんじゃあ…」
「森尾、なに言って……」
レンは、仲間に疑われることにショックを受けた。
「いや、例えばの話で―――」と慌てて森尾は付け加える。
森尾の懸念に対し、フクロウはあしらうように答えた。
「その心配はない。おまえらでは、小さい」
(小さい…?)
フクロウの意味深な言葉を反芻するレン。重要な言葉に思えたのだ。
レンが深く考える前に、最後のフクロウの言葉に反応した由良は、唐突にテーブルの上に勢いよく飛びのった。
突然の行動に目を見張るレンだったが、由良が自身の着ているツナギのチャックをつまんだ瞬間、はっとする。
「見るか鳥ィ――――!?」
そう叫びながら、フクロウの目の前でツナギのチャックを下ろして脱ぎ始めた。
股間のサイズを見せつけようとしている。
「わあああ!!?」
思わず声を上げて仰天するレンの顔は耳まで真っ赤だ。
由良が下半身部分のチャックを最後まで下ろそうとしたが、立ち上がった森尾が横から由良の手をつかんで寸前で止めた。
「由良ストップ!!」
「な、なっ、なにやってんだ、バカ!!」
動揺したままレンも立ち上がり、ツナギを無理やり着せる。
「レン! 心配すんな、オレは小さくねえぞ!!」
「ナニが!? つーか心配してねえよ!!」
由良が勘違いしているのはなんなのか大体察したが、口にするのは物凄く恥ずかしいレンだった。
岡田はなぜかビクビクと追及してほしくなさそうな表情をしてる。
「男って、こだわるもんなのか、そーゆーの……」
レンは小声で森尾に尋ねた。
「……いや…、………その……」
森尾も顔を真っ赤にしながらしどろもどろになっている。
由良はまだギャーギャーと喚き散らしていた。
「?」
なぜ由良が怒り狂っているのか理解できず、フクロウは首を傾げていた。
勝又は「これこれ」となだめようとする。
「まあまあ、アレは回収自体が困難なんだ。他の“仲間”に先を越されることはないだろう。それに、安定させるためにも、いろいろと準備がある…」
そう言って、勝又は広瀬を一瞥した。
「?」
(……なんで広瀬を見た?)
勝又の視線に気づいたレンは怪訝な色を浮かべる。
広瀬がなにか重要な鍵だということは聞かされたことはあったが、具体的なことは聞かされていない。
「話は以上だ。状況に変化があったら、連絡するよ」
その言葉で、いったん解散となった。
レン、由良、森尾、岡田が部屋から次々と出て行く。
「トリ公が~~~」
由良は不機嫌にぼやきながらツナギを着直した。
「なんか今日疲れた……」
今日の森尾は心身ともに疲れ切っている。
「眠……」
レンは目を擦り、夕寝をしようかと考えたが、ふと、強引に広瀬に新しい監禁部屋に連れていかれた恵のことが気になった。
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