11:元気でな
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早朝、由良はスケッチブックと鉛筆を持ちながら、自室で一人用のソファーに座りながら考え事をしていた。
悩み事はひとつ。
(レンに避けられてる気がする…。あの戦いのあとからなんだよなぁ~。オレ、あいつのこと助けたのに、なんで避けられる?)
不思議だと言わんばかりに首を傾げる。
鉛筆の後ろ部分で頭を掻いても答えは出ないが、避けられている態度は思い出せた。
食事は由良より先に済ませ、廊下で会った時は目を合わせようとせず、由良が声をかける前に森尾に話しかける。
内容はほとんど「森尾、いい天気だな」と中身がない。
部屋には鍵がかけられていることも気にしたが、今まで着替えを覗いたり浴室にまで侵入していたのだから、もともと警戒されてもおかしくはないのだ。
(えー。オレますます嫌われてねーか?)
焦りはしないのだが、レンのことがわからなくなり、由良はスケッチブックのページをめくり、前に描いたレンの寝顔を見つめる。
(そういや、何回か失敗したことあったな…。……あいつも、たまに描きにくいんだよなぁ……)
数ページをめくると、何枚かレンの似顔絵の失敗もあった。
目元を描こうとしたところで思うようにいかなかったのか、ぐしゃぐしゃと鉛筆で塗りつぶした跡がある。
その頃、屋敷の廊下を渡りながら、レンは腕を組んで「う~~~ん」と唸りながら考え事をしていた。
「レン、おはよう」
向こうから、森尾がやってきて「あ、おはよ」と返す。
「……考え事か?」
森尾は、組んでる腕を見つめながらレンに尋ねる。
「……いや、たいしたことじゃねえよ」
レンはさっと両手をデニムパンツのポケットに突っ込んだ。
森尾は「ふ―――ん」と言ったあと、「朝食できてるから、早く行った方がいい。由良に食べられるぞ」と忠告する。
「ん、サンキュ」
レンが礼を言うと、森尾は笑顔を向けて横を通過した。
その後ろ姿を見つめながら、レンは再び腕を組み、首を傾げながら歩き出した時、
「よう」
「!」
後ろから由良に声をかけられ、レンはビクッと肩を震わせてすぐには振り返らなかった。
「……よ…、よう…」
一旦間を置いてからゆっくりと振り返り、由良に小さく手を振るが、その表情は引きつっている。
由良は軽い足どりでレンに近づきた。
「やっぱ、北海道の朝って、肌寒ィな」と言いながら自分の腕を擦る。
先日の戦いで、由良のツナギは破れた上に血で汚れたため処分したが、今着ている新品のツナギは前のツナギとまったく同じデザインだ。
歩くに伴、いツナギから垂れたベルトの端が廊下を引きずる。
「せめて靴は履けよ」
そう言いながらレンは由良と目を合わさず、背中を向けて早歩きで行こうとした。
よそよそしい態度に、「およ?」と由良が首を傾げる。
「なんだよレン~。最近マジで冷てえなぁ。オレだって傷つくんだからなー」
甘えるような声で言いながら、レンの左右の二の腕を両手でつかみ、その肩にアゴをのせた。
レンの思考が一瞬停止し、背負ってもらった時の感覚が唐突に蘇る。
「は、はなせバカッ!!」
力いっぱい身体を振り、由良の手を払った。
由良の体が離れると同時に回し蹴りを喰らわせようとしたが、由良は素早く上半身を反らして避ける。
レンの顔は耳まで真っ赤だ。
「そう怒るなよ」と由良は両手を小さく上げる。
「あたしはいつもと同じだろ…っ」
「確かに。いつも通り元気だな。足癖の悪さもな」
「……いや…、ちょっと…避けすぎた…」
いつもの調子が出ないことはレンも自覚していた。
小さな声で言い訳のようなことを呟きながら、「その…あたしにもよくわかんなくて……」と困惑気味に自身の頭を掻く。
怪訝な顔でその様子を見ていた由良だったが、「あ、そうだ」と何かを思い出して手を叩いた。
「さっき勝っつんから聞いたんだけどよ、今日、カノン帰ってくるって」
「! 華音が!?」
レンの困惑していた顔が自然と笑みに変わり、由良は思わずたじろぐ。
「おお。スゲー嬉しそうだな…」
「久しぶりだなぁ、華音に会うの」
「連絡はとってたろ?」
「まあな、いろんなとこまわってたらしい。最後に連絡とったのが1週間前になるけど…」
由良ほどではないが、華音も気まぐれである。
「今頃、気に入らないカップルが乗った車でも爆破しながらこっち向かってんじゃねーか?」
「不吉なこと言うんじゃねえよ…」
由良の不穏な発言を否定しきれない。
由良と華音は、自分が邪魔だと思った人間に対しては、騒ぎになるだろうと考えもせず問答無用で能力を使用する。
勝又も注意することはあっても能力の制限を強要はしないのだ。
(不安だ…)
この場に森尾がいれば、同じく渋い顔をしているところだろう。
勝又の指示がない限り、無駄な騒ぎを起こすのは嫌いなのだ。
(恵の方は、最後に会ったの3日前か…。こっちもそろそろ顔出すとするかな)
ふと、レンは、こちらの屋敷でも監禁状態にある恵のことを思い出した。
堂々と話し相手として部屋を伺いたいのだが、広瀬がそれを許さない。
どこへ連れていかれるかもわからない、いつだって不安な状態なのだ。
「そういやレン、最近会ってねえだろ、姫サマに。放置してていいのか?」
「………へ?」
突然の由良の発言に唖然としてしまう。
恵と密かに関わっていることは、誰にも話してなかったというのに。
レンは由良の顔を見上げ、「なんでおまえ……」と明らかな動揺を見せる。
「姫サマの部屋の窓から飛び降りるの見たから」
「……いつ?」
「前の屋敷に住んでた時から」
平然と由良は答えた。
レンの額に嫌な汗が浮かび、視線を泳がせる。
「あ、あのさ…、広瀬には…」
「チクッたら、確実に殺されるな♪」
(笑顔で言いやがって!)
レンの動揺する様子が面白いのか、「どうしよっかなー」と由良は意地悪な笑みを浮かべるが、
「……こうなれば…、恵をかけて広瀬と勝負…」
レンが目つきを鋭くして物騒なことを言い出したので、由良は「うそうそ」と手で制した。
「言わねえよ、今さら。逆にオレが「なんで今まで黙ってたんだ」ってキレられるだろ」
「まあ…、そりゃそうか…」
「ほどほどにしとけよ。姫サマとは遊ぶくせに、オレとは遊んでくれねーんだな。どうせオレは嫌われもんだー」
露骨に拗ねた態度をとる由良に、レンは「あーもう」と眉間に皺を寄せる。
「……べつに嫌ってるわけじゃねー…し」
「つまり?」
ニヤついた顔が間近に迫ってきた。
一瞬遅れて心臓に謎の衝撃を覚える。
「近いっつの!!! 調子に乗んなっ!」
反射的に殴ろうとしたが、やはり避けられてしまった。
(嫌ってなかったら…、なんなんだよ…?)
再び顔に熱を感じたレンは自問自答する。
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