09:なにが悪いんだよ
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昼過ぎ、広い食堂で昼食を食べ終えたレン達は、予定通り街に行こうと森尾の車に乗り込んだ。
森尾が運転する車に揺られる中、助手席のレンは機嫌の良い表情を浮かべている。
森尾の許可をとってお気に入りのCDを挿入し、うるさくない程度に音楽を流した。ドライブに合った曲調だ。
後部座席にいる由良は横になりながら窓の外を眺めていると、白いハトを視界の端に捉えた。
山道を出た車の窓の景色は、田んぼと家が少しあるだけで、街までもう少しかかりそうだ。
「3人でこうして出かけるには初めてだな! 華音もいればいいのに……」とレンははしゃいで森尾にふる。
森尾はその言葉に苦笑しながら「華音はすぐ騒ぎを起こすけどな」と返した。
「またどっかで起こしてんじゃねえの~?」と頬杖をつきながら由良は口にする。
「おまえも、絶対、騒ぎだけは起こさないでくれ」と森尾は面倒事はごめんだと言わんばかりだ。
「オレをなんだと思ってんだ」と由良はぶすっとした顔になる。
その会話にレンはくすくすと笑った。
それから数十分後に街に到着し、車をパーキングエリアに停めてレン達は食料を買う前に、デパートの男性服専門の店に来た。
平日で客はそれほど多くはない。
レンは商品が並べてある棚から長袖の服を取り出し、鏡を見ながら自分に合うかどうか確かめている。
「北海道って肌寒いしなー。お、コレいいじゃん」
「レン、それ…男物…」
背後から森尾が声をかけるが、レンは気にせず鼻歌を歌いながら次の服を選んでいた。
メンズ専門店の目の前にあるベンチで、由良はその様子をあくびをしながら眺める。
しばらくして、疲れた森尾は由良の隣に腰を下ろした。
「レンの奴、まーだ終わらねえのか」
由良は気の毒そうに森尾の顔を覗き込み、呆れた言い方をする。
森尾はやれやれと首を横に振り、肩を竦ませた。
「レンって、あんなにイキイキできるんだな。さすが女の子…。買ってるものは男物だが…」
森尾の言い方に由良が苦笑する。
「あいつ、家族以外でショッピング行ったことねえんだってさ」
「え?」
森尾は由良に顔を向け、再びレンに視線を戻す。
レンは笑顔で服選びに夢中になっていた。
「……そうなのか……」
(そういえば、オレ達と出会うまで、友達いなかったんだっけ……。あんなにいい奴なのに……)
森尾はどうも信じられなかった。
初対面では身なりのせいでわずかに警戒されていたが、今ではすっかり打ち解けている。
他人を寄せ付けない雰囲気を持ちながら、文句を言いつつ面倒見が良かったり、大袈裟なくらい仲間のケガを心配したり、感情も豊かで他人に興味がないわけではないのだ。
森尾にとってレンは年の近い妹のような存在だと思っている。
レンはこちらに振り返って別の長袖の服を見せつけた。
「森尾ー! この服、おまえに合いそうだぞー! 由良も毎日同じツナギ着てねーで、こういう服着ろよー!」
背後で男性店員が苦笑いを浮かべている。変わった客だと思われている様子だ。
森尾はベンチから立ち上がってレンの方へ向かい、由良も「バーカ、ほっとけ!」と悪態をつきながら腰を上げてそれに続いた。
*****
一方その頃、伝言で聞いたとおりに山道を並んで歩く勝又と広瀬は、銀髪の男と邂逅した。
レンの兄―――水樹を殺した室銀夜(むろ ぎんや)である。
勝又に不敵な笑みを向けるその瞳には、野心が見えていた。
「……キミか、室君」
勝又はふっと笑みを浮かべる。
広瀬の表情に変化はないが、敵意の目を向ける銀夜に用心した。
「警察時代、担当ではなかったが…、キミのことは他の部署から聞いていたよ」
「はっ。新聞見たぜ。自分の職場の人間ほとんど消しちまったくせに何言ってんだ。テメーやオレが人間だった頃の話なんかどーだっていい。それよりもよぉ…、抜けがけなんて、ズルくないか、勝又」
嘲笑いながらも銀夜のその低い声には怒りが滲み出ている。
「キミがアソビすぎなんだよ…」
勝又は呆れたような笑みを浮かべて肩を竦めた。
それを挑発ととった銀夜の眉間はより深くシワが寄る。
「……なんだと?」
「……能力を向上させるためとはいえ、殺しすぎだ。北条君のお兄さんを殺したのも、キミだね」
断定的な言い方をした勝又に、銀夜は「そのことか」と鼻で笑い、自嘲するような笑みを浮かべた。
「ああ、まさか、妹の方が能力者だって気付けなかった。知ってたら、勧誘してやったのに…。鍛え上げてた式條をなくしたのは痛かったし、能力を得たばかりであそこまで引き出せる北条の存在も惜しかった。……そのあともテメーに横取りされちまうし…。散々…、そうだ、散々だ」
「由良君(仲間)が連れてきたんだよ。……彼女は、もしかしたら、掘り出し物かもしれないね……」
掘り出し物とはどういうことだろう、と広瀬が怪訝な顔で勝又を見つめる。
銀夜は残念そうにゆっくりと首を横に振った。
「オレにも少しだけ見えた。だが、あの女の蓋は重てえよ」
勝又は薄笑みを貼り付けたままゆっくりと頷き、銀夜を見据えて口を開く。
「……キミは、なにがしたいんだい? よければ、我々と一緒に“心臓”を追うかい? キミは私と同じ…」
銀夜は顔をしかめ、それ以上の言葉を拒絶するように勝又を睨みつけた。
内にあるプライドの塊にガリガリと爪を立てられるようで不愉快だった。
「オレがそっちの指導者になるなら考えてやってもいい」
「……………」
「ほらな。嫌そうな顔だ。テメーが上って前提で話してんじゃねーよ。オレとテメーが平等なもんかよ、タヌキジジイめ。オレは誰の下にもつかねーし、“あの方”に会うのも、オレが最初だ…!」
今にも飛びかかってきそうな銀夜の雰囲気に、広瀬は前に出る。
それを見た銀夜は嘲笑し、勝又に視線を戻した。
「それにオレはテメー“ら”と違って、操り人形に使う糸は持ち合わせてねーんだ。オレはオレのやり方で“あの方”に会う。邪魔するなら殺すぞ」
意味深な捨て台詞を残し、勝又と広瀬に背を向けて歩き出す。
勝又はその背中を、見えなくなるまでずっと見据えていた。
勝又の視界から消えたあと、銀夜は不気味な笑みを浮かべ、上唇を舐める。
(……人員はそこそこ足りてるんだ。叩き潰してやるよ、テメーのコマをな)
振り返って勝又がいないことを確認してから、スーツのポケットから端末を取り出し、番号を押した。
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