01:笑ってんだよ
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東京の夏の朝、とある高校の自転車置き場では、5人の男子が地面に伏していた。
その中心には、男子の制服を着た女子高生が立っていた。
茶髪のショートヘアで、頭には星の缶バッジがついた青のキャスケット帽を被っている。
中世的な顔立ちで、地面に這いつくばる男子達に永久凍土の目で見下ろした。
(弱すぎ…)
「しつこい」
「ぐっ」
立ち上がって反撃しようと突っ込んできた男子の腹に前蹴りを喰らわせ、再び地面に転がった男子は腹を抱えてその場にうずくまった。
「成長ねえな、おまえらも…」
呆れた物言いとともに嘲笑いを浮かべる。
先に喧嘩をふってきたのは男子達の方ではあった。
「北条…レン…」
最後にやられたひとりがレンと呼んだ女子を睨みつける。
レンはその様子を滑稽そうに見つめ、つま先でその男子の腹を蹴り上げた。
「うぐっ」
「こういう人気のない場所でよかったな」
見下ろす瞳を鋭くさせる。
「あたしより強いヤツ、つれてきな」
(もっとも、ここら辺じゃいねえや、そんなヤツ。大人でも勝てる自信あるし)
倒した男子達を見回し、溜め息をつく。
「男って不便だな。「女にやられました」って言えねえし」
誰も立ち上がろうとはしない。
「ホント、くっだらねえの」
レンは冷めた顔つきでその場から去った。
自分の教室に戻ると、騒がしかった教室内がレンの姿を一目見るなり一瞬静かになった。
いつものことだとレンは気にすることなく、真っ直ぐ窓側の席に座り、机に頬杖をついて外の景色を眺めた。
外は快晴で、レンの気持ちとは真逆である。
(嫌味か)
いつからだったろうか、こんな世界が退屈でつまらないと思い始めたのは…、とふと考えた。
相手に気に入らないことを強要されたら手が出るのは短所だった。
男子達は歯向かってくる女子がいるのは面白くないのだ。返り討ちにあえばなおのことだろう。
やり返せばなめられてなるものかとさらにムキになって反撃してくる。今朝みたいな男子達のように。
レンからすれば煩わしいこと極まりない。
だからと言って、今更しおらしくしたところで放っておいてはくれないだろう。
(家に帰りたい…)
家の方が居心地が良い。
兄と両親は優しいし、レンも両親は好きだ。
性格の問題は過去にあるが、その話はまだ先になる。
その日の夕方、憂鬱な半日が終わり、レンは住んでいるマンションに帰ってきた。
302号室の鍵を開け、中に入る。
「ただいまー」
並べられた靴を見て、両親と兄がいることを確認した。
「?」
いつもの「おかえり」の返事は返ってこない。
静かな部屋に違和感を感じ、廊下の奥へと進んだ。
途中で通過したリビングを覗いたが、誰もいない。
異様な空気を感じた。出所は、両親の寝室だ。
部屋の風通しがいいようにいつのもは開けっ放しの扉が閉まっていることに気付き、ドアノブを回して中に入る。
最初に目に映ったのは、床に膝をついて天井を見上げている兄の背中だった。
「兄貴?」
「レン、入るな!!」
涙を流している兄が振り返り、部屋に足を踏み入れたレンに怒鳴り声を上げたが、レンは見てしまった。
目の前には、首吊りをした両親の姿があった。
「母…さん……父…さ……」
肩に提げていた学生鞄が床に落ちる。
「どうして、笑ってんだよ…」
両親は首を吊ったまま、薄笑みを浮かべていた。
ようやく現状が津波のように押し寄せたのか、兄はコブシを握り締めて悲痛な声を上げている。
レンの瞳から一筋の涙が流れ落ち、その場に力が抜けるように座り込み、腹の底から絞り出すような、か細い声を漏らした。
「やっと…幸せになれたんじゃ…なかったのかよ…」
.To be continued