04:苦手だ
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ある一室には、奥の机で書類を書く勝又と、自身の席に座っている若い刑事、その隣りには煙草を吸う刑事がいた。
「勝又警部補、見ました!? コレ!」
若い刑事が読んでいた新聞を裏向けに広げ、勝又に見せ付けた。
記事には“警察、役立たず”と大きな文字で記載されている。
その隣りで煙草を吸っている刑事は、煙草の煙を吹かしながら、だらしなく机にアゴをのせてやる気なさげに伏せていた。
若い刑事は抑えきれない不満をぶちまける。
「酷い言われようですよ、我々!」
「こっちだって、必死で捜査してんのにな~~」
「自殺だけでも手いっぱいなのに、最近やたらと変死や行方不明の事件多いし……。最近だって、都内の高校で新たな惨殺事件があったじゃないですか」
「人死にすぎて、感覚おかしくなってきたよ……。もう誰が死んでもおかしくねーよってカンジ…」
そう呟くと、煙草の灰が机の上に落ちた。
その時、唐突に若い刑事の机上にあった蓋が開いたままのアーモンドチョコの箱に何者かの手が伸び、中身のアーモンドチョコを鷲掴みする。
「わりといいこと言うね、あんた!」
刑事たちが気づかない内に現れた由良は、煙草を吸っている刑事にそう言うと、つかんだチョコを口に放り込んで頬張った。
「………」
「おたく、どちら?」
2人の刑事が呆然と由良を見つめる。
由良は口に放り込んだチョコを頬張りながら、足元からシャボン玉を浮かばせ、ベッと舌を出した。
パシュッ
シャボン玉に触れた、2人の刑事の上半身がシャボン玉とともに消し飛ぶ。
その飛び散った鮮血が、勝又の書類に付着してシミを作った。
「やれやれ…。考えもなしに人を殺しすぎるぞ、由良君…」
頬に血が付着し、由良は肩で血を拭ったあと、陽気な口調で勝又に言い返した。
「そんなカタイこと言うなよ、勝っつん!“仲間”なんだからよ―――」
(勝っつん……)
勝又は変なあだ名をつけられ、ぼんやりと心の中で復唱してみる。
「あ、そーそー。オレも“仲間”連れてきたぜ! いいだろ!?」
由良は得意気な顔をして、後ろを指さした。
指の先を見ても、勝又の視界には死体以外誰もいない。
「……“仲間”?」
「ん? なにやってんだ。こっちだぞ―――!」
由良はようやくレンが背後にいないことに気付き、開けっ放しのドアの向こうに声をかける。
すると、慌ただしい足音が廊下から鳴り響き、開けっ放しのドアからレンがひょっこりと顔を出して不満げに由良を睨みつけた。
「置いてくなよ!」
「さっさと来ねえおまえが悪い」
由良としては置いていったつもりはない。
「……そのコは?」
勝又が尋ねると、由良はレンの傍らに近づいてその肩に腕を回した。
「だーから、“仲間”♪」
「馴れ馴れしい」
レンは口を尖らせ、由良の腕を振りほどいた。
そしてレンと勝又の目が合う。
「初めまして、勝又です。キミ、名前は?」
勝又はレンを観察するような目でじっと見つめながら丁寧な口調で尋ねた。
初対面の年配の勝又に対し、レンはやや緊張の面持ちで自己紹介を始める。
「……北条…レン…です。お世話に……なります…予定です」
慣れない敬語だ。
「……よろしく」
そう言って、勝又は微笑んだ。
由良とは対照的で調子が狂いそうになるがレンは「どうも」と会釈する。
勝又は「しかし由良君…」とメガネを指で上げて言葉を続けた。
「仲間が増えるのはいいことだけど、連れてくる前に私に相談してもらわないと…」
「ほれ見ろ、今日一番まともな言葉だぞ! ちなみにあたしもこいつに何も聞かされず連れてこられました」
訴えるレンだったが、由良は自分の両耳を指で塞いで聞かないフリをする。
「とにかく、勝っつんは反対しねえよな?」
「まあ…。この子も、キミとはまた違った面白い穴をしてるからね…」
レンは「穴?」と首を傾げた。
「だったらこれにて挨拶終了! 今からオレ達の正式な仲間な、レン!」
半ば強引ではあるが、レンの仲間入りが正式に決定した由良は、はしゃぐようにそう言いながらレンのキャスケット帽を取って頭を激しく撫で回す。
「気安く触るな、名前を呼ぶな、帽子を取るな!」
鬱陶しそうに由良の手から逃れ、帽子を奪い返して距離をとり、これ以上近づくなと歯を見せて威嚇する。
「あららー」と由良はわざとらしくしょんぼりと肩を落とし、机に座った。
「キビシ―――ネ―――。チョコ食う?」
「いらね」
流れるような拒絶だが、さほど気にしない由良は余っているチョコを鷲掴みにして口へと放り込み、「そういや、おまえ年いくつだっけ?」とこれまた唐突な質問を投げてきた。
「おい、高3だぞ。生徒手帳見たんだから知ってんだろ」
「17?」
「18」
「へぇ」
意味ありげな意地の悪そうな笑みを浮かべる由良。
無視をすればいいシーンだが馬鹿にされたと思ったレンは噛みついた。
「さっきからなんだよ、ガキ扱いすんな!」
「ピーピー騒ぐなって。そういうところがガキだっつの」
「ピ……ッ!?」
それからピーピーわあわあと思いつく限りの罵倒を浴びせるレンのことなどお構いなしに、「な! 勝っつん面白いだろこいつ!」と由良は笑いながらレンの肩を無理やり寄せて人差し指をレンの頬にぐりぐりと押し込んだ。
小学生みたいないじめっ子の大人に「仲が良いんだね」と勝又は微笑む。
「そーそー」
由良は縦に何度も頷き、「レンの血液型はー? 誕生日はー? なに使えんだー?」と質問攻めをしてきた。
レンはしつこく絡んでくる由良に唸り声のみを返し、内心で辟易する。
(ダメだー! まともな会話にならねえ! やっぱ、あたし、こいつ苦手だ……。テンションについていけねえ)
由良の性格がかつて類を見ないほどレンには受け付けない。
「なんだよ、冷てえなあ。それが連れてきてやった奴に対する態度か」
「恩着せがましく言ってるけど、おまえ、学校の選択の時、「イヤだ」って答えてたら、あたしも殺してただろ」
「あー…。それはどうかなぁ?」
指摘すると、由良の目が一瞬泳いだ。
(図星かよ)
怒りを通り越して、ショックを受けてしまった。
「…はぁぁ」
もうどうでもよくなった気持ちでため息をついてチョコを一粒取り、口に放り込んだ。
由良は「食ってんじゃん」とツッコんだあと、勝又に振り向いた。
「それと、もう1人…ここにヒロセっていう有名人いるんだろ? どんな奴か、一度会ってみたいんだけど」
それを聞きながらレンは、まだ“仲間”がいるんだな、と目を丸くする。
(由良から能力者のことは聞いていたが、あちこちいるもんなんだな)
「―――ああ、彼なら、今、ちょっと出ているが…、じき、戻ってくるよ」
「じゃ、このままココで待たせてもらおっかな―――」
由良はまた、チョコを鷲掴みにして口に放り込もうとした。
その前に、追加で尋ねる。
「で、そいつ今、どこ行ってんの?」
「ちょっと、忘れモノを取りにね……」
そう言って、勝又はもう2度と手を付けない書類をしまった。
窓から差し込む夕焼けの逆光のせいでレンからその表情がよく見えない。
「…………」
その雰囲気に、なぜだろう、とレンは違和感を持つ。胸がざわついた。
(由良も苦手だけど、この人は…もっと苦手だ…。……近づきたくねえ…)
.To be continued