01:やっと会えた
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「到着……」
『ローグタウン』に到着した旅の女は、すでに空腹と疲労でフラフラだった。
オレンジの町から出立して、数週間が経過したのだ。
島々を転々と移動しながらこの場所に到達するまで、慣れない航海のせいで大波に攫われかけたり、遭難しかけたり、所持金をなくしたり、とにかく語ればキリがないほど、散々な目に遭ってきた。
大きな町とたくさんの人間に、眩暈を覚えそうだ。
活気にあふれ、賑わい、警官隊や海兵が出歩いているところを見ると治安も悪くはないのだろう。
だからこそ旅の女は、再び骨折り損の予感を感じていた。
「暴れるような場所じゃなさそー…。どっかに身を潜めてたりしてんのかな…。そもそもいなかったら話にならないし…」
道中、行方を捜すために出会った人間に尋ねまわったが、確信が持てるような情報は手に入っていない。
ずっと肌身離さず持っていたため、皺が目立つ手配書を広げて正面に向き直る。
「あとはしらみつぶしに探すしかないか…」
気を引き締め、その場は引き返さず、雑踏の中へと一歩踏み出すことにした。
周囲にあるものは興味をそそられるものばかりだ。
色んな店が立ち並び、どこからかいい匂いが漂い、様々な人間が歩いている。
目を奪われ、立ち止まっていれば後ろから来た通行人にぶつかりそうになった。
「う~…。とりあえず、腹に何か詰めないと…」
歩けば歩くほど、カロリーが消費し、腹の虫が訴えてくる。
「魚ばっかりじゃなくて、たまには火の通った肉とか、野菜とか…」
所持金をなくしてしまってからは魚を食べてばかりだったので、しばらく地上の肉を口にしていない。
追い打ちをかけるように、近くのレストランからは肉を焼く匂いがこちらまで漂っている。
「うぅ…。最高に空腹…」
穴が空くほど見つめていても、レストランの扉から料理人が文無しの為に料理を運んでくるわけでもない。
それでも、足は誘われるようにレストランへと向かった。
その間、脳内では『食い逃げ計画』が企てられている。
シェフには罪悪感を覚えるが、腹がいっぱいならば逃げ切れる自信は十分にあった。
出入口の扉の取っ手に手をかけようと伸ばした瞬間だ。
バンッ、と顔面に衝撃が走って尻餅をついた。
「ふぐっ!?」
扉で鼻を打ってしまい、飛び出してきた人物を睨みつける。
「何、突然…」
相手は焦っている様子だ。
外套を身に纏い、顔を見られてはまずいのかフードを目元まで被っている、同じ格好をした怪しげな男達が次々と店から出て来た。
その中の一番先頭の人物に、旅の女は赤い目を見開く。
フードから覗いた、見覚えのある特徴。
それだけは見間違えるはずもなかった。
飛び出した相手は旅の女に気付いていないのか、目もくれず、何かを追うように東の方へと先頭を切って走り去っていく。
「ま、待って!!」
急いで飛び起きてあとを追いかけようとした。
こんな広い町で同じ人物を探すなんて容易ではない。
空腹を忘れて走り出したが、
「!!?」
曲がり角から急に現れた2人組の男にぶつかった。
「あ、ごめんっ」
今度は尻餅をつくことなく踏み止まって謝り、2人組の間を通り抜けようとした。
だが、男達はそれで済ます気はないのか、小太りの男が旅の女の手首をつかんで引き止める。
「おいおい~、ぶつかっといてそれだけってねーんじゃねーの?」
「そーだそーだ」
煽るのは、小太りの男の部下なのか、子どものような小柄な男だ。
ぶつかってしまったのは小太りの男の方だ。
急いでいる身の旅の女は苛立ち混じりに言い返す。
「ふっくらな体してるくせに心の狭い男ね! 今、あたし急いで…。ああ!! もー!! 見失った!! 最悪!!」
少し立ち止まっただけで、捜していた人影は人ごみに紛れて見失ってしまった。
「いま、てめーヒデェこといったな!? ふっくらがなんだって!? ちょっと肉が厚いだけだ!!」
「そーだそーだ!!」
「同じ意味でしょーが。放して」
「ただで離すわけねーだろが!! てめーちょっとツラ貸せ!! 身ぐるみはがしてやる!!」
「そーだそーだ!!」
「……急いでるって言ってんだけど…?」
なるべく笑顔で別れようとしたが、小太りの男に「うるせぇ。こっちこい」と路地裏に連れて行かれた。
数秒後、ゴッ、バキッ、バガンッ、と鈍い音が路地裏から聞こえ、元の道に戻ってきた時には、2人組の男達はボロ雑巾のように変わり果てていた。
旅の女は当然のように無傷だ。
「今、捜してる奴が東の方に行ったんだけど、あっちって何があるの?」
「ひ、ひけーだいでふ(し、死刑台です)…」
「ひょーでふひょーでふ(そーですそーです)」
腫れあがった顔で泣きながら答える2人組。
「死刑台?」
「かいほくおーの(海賊王の)…」
「…………やっぱ…、あるんだ…」
今は観光名所となっているそこが実在していることは、わかっていたつもりだった。
「これで探してる奴見つからなかったら、おまえらあとで最悪にスゴいから!!」
「これ以上!?」
ビクッと肩を震わせる2人組。
旅の女は脅してから行こうとしたが、途中でUターンして戻ってきた。
「先にごはん食べたい!」
コブシを鳴らしながら。
「「おごらへてくらはい(奢らせてください)!!」」
「話の分かる奴らで助かる!」
脅しの分かる、の間違いだ。
それから男達の財布の中身がなくなるまで胃袋に詰め込んだ旅の女は、レストランを出て、ひとり空を見上げた。
先程の真っ青な快晴が灰色を帯びてきている。
風の匂いも変わった。
「……雨が…降る」
呟き、足早に死刑台のある広場を目指した。
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