00-3:呪いの赤
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「あはははは!!」
今度はあたしが笑ってやる番だった。
入江に笑い声が響き渡る。
バギーが海に落下するまでに至った経緯を理由を聞いたからだ。
腹を抱えて涙が出るほど爆笑しているあたしに、バギーは鼻息荒く歯を剥いてコブシを握りしめているが、シャンクスが再び羽交い絞めにして阻止している。
バギーが崖の向こうに手を出したのは、崖に張り付いた淡い青い石を取ろうとしたからだ。
島に上陸する前に、船から崖の側面を見て宝石だと勘違いしたらしい。
「村の建物にも使ってる、島の石よ。島の側面を掘ったり削ったりしたらゴロゴロ取れるけど、強い衝撃にはちょっと弱いの。嵐みたいなきつい天候がないこの島なら大丈夫だけどね。あ、絵の具にも使えるって聞いたなぁ…。でも、宝石って言えるほど、高価なものじゃない…。っっ…、それを…っっ、嬉々とした顔で取ろうと……ッッッ」
そんな、欲望丸出しな人間は島にはいない。
危うく海王類に殺されかけたが、事なきを得ると笑い話だ。
再び腹を抱えて笑い転げる。
つられてバギーを抑えているシャンクスも肩を震わせて笑っていた。
「ハデに…っいい加減にしやがれェェェッ!!!」
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたバギー。
絶叫と共に、突然、頭部が体から切り離されて宙に浮いた。
「え」
笑いが一瞬で引っ込んだ。
続いて両手首が切り離されて頭部と共にこちらに向かってくる。
「泣かせるぞクソガキィィィィ!!」
ありえない話だが、生首が追いかけてきた。
「ギャアアアアアア!!!??」
胃が飛び出そうなほど仰天し、肺が飛び出そうなほど絶叫した。
慌てて立ち上がり、追ってくる生首から逃げる。
「待てコラァァ!!!」
「いやぁぁぁぁ!!」
がむしゃらに走るが頭は混乱したままだ。
「体が!! 首が宙に!! なんで…!! …あれ?」
肩越しに振り返ると、追ってきているはずのバギーがバックしている。
「てめぇシャンクス!! 足離せーっ!!」
さらに向こうにいるシャンクスを見ると、羽交い絞めではなく、バギーの両足をつかんでズルズルと後ろに下がっていた。
それに合わせて生首バギーも下がっていく。
「そいつ、足が離れすぎると移動できねーんだ」
慣れている様子だ。
「バラすんじゃねーよ!!」
「バラバラしてんのはお前だろが」
わからない。
すぐに落ち着くのは無理そうだ。
数十分後。
あたしはバギーとシャンクスと向き合うように座った。
「“悪魔の実”?」
聞いたことのない不思議な果実に首を傾げる。
「食べると不思議な能力がその身に宿るらしい。色んな種類があってな。バギーが食べたのは“バラバラの実”だ」
バギーは胡坐を掻いて片膝で頬杖をつきながらムスッとしている。
「一生カナヅチになっちまうがな。おれは食べる気なんてなかったんだ。とんだ手違いでこんな…」
思い出したのか、さらに顔が険しくなった。
「災難だったな」
シャンクスはヘラヘラと笑っている。
すると、バギーは切り離した両手でシャンクスの胸倉をつかんだ。
「ハデにテメェのせいだろーがァ―――!!」
そのまま乱暴に胸倉を揺するが、当の責められている本人は「そうだっけ?」と首を傾げている。
「おれは一生忘れねェからな!! テメェも絶対覚えてろよ!!」
「ん。覚えてたらな」
(忘れてそう)
適当なあしらい方に、あたしは小さく内心で呟いた。
悪魔の実を口にした経緯を聞けば、たぶん、また爆笑しそうな気がする。
でも、今は聞くのはやめておこう。
本当にお腹がよじれてしまう。
「……………」
言い合いしているシャンクスとバギーを眺めた。
世界は広い。
前髪の隙間からでもわかるくらいに。
「お前、まさか、島から出た事ねーのか?」
唐突にシャンクスに聞かれて「え」と目を丸くしたが、小さく頷いた。
「うん…。一度も…」
「だから礼儀も知らねーのか」
バギーはいちいち癇に障る言い方をしてくる。
「え。バギーは「礼儀」って言葉、知ってるの?」
「「んぎぃ~~~~」」
再び頬をつねり合った。
「すっかり仲良しだな、お前ら」
「「どこが!?」」
「シャンクスとバギーは外の世界から来たんでしょ? 危険な海だったのに…。流されてきたの?」
「まあ、半分…流されてきたみたいなもんだな」
「ここにたどり着くなんて船長たちもびっくりしてたよなぁ。一時はおれも一巻の終わりだと思ったぜ」
「元気に騒いでたもんな」
「うるせェ」
ここは、“凪の帯(カームベルト)”にある島だ。
簡単に訪れる場所ではない。
ただ、稀に、この島に近づく気流が発生することがある。
外の人間がそれを知るはずもなく、本当に偶然この島に着いてしまったのだろう。
「この島、なんていう島なんだ?」
シャンクスは辺りを見回しながら尋ねる。
「……名前はないよ。ただの『島』。この島に名前は不必要だからね。人間の名前もね」
だから、役割の名前で言わないと、みんな嫌な顔をする。
思い出したくもないことがあるからだ。
あたしだって…。
「お前は、『島守』って言ってたもんな。本当の名前はねーのか?」
今度はバギーが聞いてきた。
あたしは戸惑う。
「……昔、島の連中に勝手につけた人がいたよ」
「じゃあそれを教えてくれよ」
シャンクスがずいと身を前に乗り出した。
聞き取る体勢だ。
「…………セイル」
「セイル?」
「うん」
あたしは、ウソをついた。
本当の名前は、嫌いだったからだ。
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