07:もう一度、宴を
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パッローネの目の前に立つルビーは、砲弾を撃ったあと、そのまま単身でパッローネの船に飛び移ってきた様子だ。
肩に担いだ大砲を下ろし、冷たい赤色の眼差しを向けている。
「いや…」とこぼし、先程の言葉を訂正した。
「酒好きなら、酒を粗末にしないよね」
パッローネは、たったひとりで舞い戻ってきたうえに世迷言を並べる侵入者を指さし、嘲笑う。
「プフフフフフ!! これだからにわか海賊はアホなんだ!! 失敗作の酒をゴミにして何が悪い!!?」
「笑うな」
睨む瞳は、パッローネの笑みを引っ込ませる。
「アンタが叩き割った酒も、ヴィンセントにとっては最高に大事な酒だった!」
「あんなドブみたいな酒がか!? てめーは飲んでねェからわからねえだけだろ!!」
「アンタだって、ヴィンセントの想いなんてわからないでしょ。どんな気持ちで酒を造り続け、どんな気持ちで死んでいったか…」
頭につけているバンダナの中に手を入れ、ヴィンセントが暮らしていた小屋から持ち出した手記を取り出した。
それをパッローネに投げ渡す。
「!!」
「ヴィンセントが目指した酒の製造方法も書かれてる」
パッローネはとあるページにたどりつき、目を剥いた。
「こんなの、造れたとしても、飲めるわけがねェ…」と思わず口にする。
「なら、あの酒は…!!」
「どっちにしても、アンタには飲ませない。美酒家を名乗るのはやめて、その見習いから始めなよ」
「ッッ!! 言わせておけば…!!!」
憤慨したパッローネはいくつもの赤い球体を取り出した。
逃げる仕草も見せず、ルビーは静かにその様子を観察しているだけだ。
「ポケットとか、袖から出してるわけじゃなさそうね」
「余裕ぶってる場合かよ!! てめーの体にまとわりついた油は落ちてんのか!!?」
赤い球体を左右に投げつけた。
赤い球体は甲板や欄干や壁で跳ね返り、様々な角度からルビーを狙う。
ルビーは持ち込んだ大砲を脇に抱え、動き出した。
足先は真っ直ぐににパッローネへ。
身体は揺れるように、赤い球体が直撃する寸前にかわしていく。
ガムのせいでバギーとくっついていた動きとはまるで違っていた。
誰もが驚愕の表情をしている。
「避けたぞ!!」
「まずい!! 船が!!」
的を失った赤い球体はクルーや船体に当たり、発火した。
パッローネは焦る様子で次々と色んな球体を投げつける。
「当たらねェ!! なぜだ!!?」
衝撃玉、睡眠玉、火炎玉、粘着玉…。
跳弾も含めて投げつけているのに、見事に避けられていた。
気付けば、間近まで接近されている。
「あ」
「“尾打(クー・フラッペ)”!!」
パァン!!
「ぶべ!!!」
人魚化させた右脚をパッローネの横っ面に叩きこんだ。
強烈な一撃で吹っ飛ばされたパッローネの体は甲板を転がり、自身のクルー達を巻き込んでボーリングのピンのように弾き飛ばしてしまう。
「熱~~~っ!!!」
外した火炎玉が甲板を燃やし、炎上しているそこへ突っ込んでしまい、炎に包まれる前に床に自身をこすりつけて火を消した。
「グウゥ…」
体のところどころが焦げている。
パッローネは片手で、ビリビリと痛みが走る顔面を押さえた。
それから揺れる脳で状況を理解しようとする。
(初戦で跳弾を披露しちまったのがアダになったか…!? いや…っ、いやいやいや! だからって、かすりもしねぇなんて!!)
手のひらに鼻血がついた。
視線の先にある甲板にポタポタと滴り落ちる。
「微妙に精度を変えたせいで、バウンドが精々…1~2回くらいしかできないんでしょ? その分、ガムも粘着力が上がったけど。結局、当たらなきゃ、最悪」
ぎょっとした顔で後ろに振り返った。
ルビーは右脚を人間へと戻す。
「お前…っ、なんでおれの技のことがわかる!!?」
初戦からそうだった。
まるで、初めからパッローネが使う球体の正体を知っているみたいな反応だ。
「アンタの技じゃない。別の奴の技を、アンタが猿まねしてるだけ。多少のアレンジを加えてるみたいだけど」
「……っ…!? !!?」
静かに答えるルビーに、開いた口が塞がらない。
返す言葉も出ないほど当たっているからだ。
「あ、それと、殴ってから気付いたけど、小さくしてるのも、体の中に隠しやすいからでしょ。その、ニセモノのボディの中に」
「ドキィッッ!!」
思わず口に出てしまった。
大当たり、と答えているようなものだ。
「もしかして本当は、もやしだったりする?」
ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべるルビーに対し、顔を真っ赤にさせてブチブチと額に青筋が浮かび上がる。
「も、もももももも、もやし…だとぉ!!? フン殺してやる!!」
「船長、「ブッ殺してやる」で…」
睡眠玉の効力も切れ、バギー達に縛られていたロープをクルーに解いてもらいながらサポーレが訂正を入れようとした時、ルビーが遮った。
「最高にそんな暇あるならね」
ぷしゅうううう、と間の抜けた音が聞こえる。
「なっ!!? 何ぃ~~~~~!!!??」
風船みたいに丸みのあるパッローネの体が徐々に萎んでいた。
腹や背中など、体の至る所に小さな空き、空気が抜けている。
ボロボロと色々な球体が足下に落ちた。
「お、おれのワガママボディが!!」
パッローネは慌てて穴を両手で塞ごうとするが、2つしかない手では塞ぎきれない。
「船長の体って…!!」
「作り物だったのか!?」
パッローネの体がニセモノだと知らなかったのか、クルー達が露骨に驚いている。
「え。知らなかったの? アンタ達の船長なのに?」
周りの反応にルビーは目を丸くした。
「船長!! い、今…っ」
「助けに…!!」
言葉の勢いはいいが、クルー達は見守るだけで動かず凝視している。
慌てる船長を助けることよりも、船長の本当の体に対する好奇心が勝っていたからだ。
「うわああああああ!! 見るんじゃねええええええ!!!」
パッローネは涙目になりながら、ルビーという敵を前にうずくまってしまう。
そんな姿を見下ろすルビーの頬を、冷たい汗が伝った。
『見るな…!!』
「……………」
『笑うなああああ!!!』
胸の中によみがえったものに苦虫を噛み潰したような顔をして、パッローネの首根っこをつかみ、
「!!?」
欄干に片足をかけ、パッローネを海へと放り投げた。
「「「「「船長――――っ!!!」」」」」
ようやくクルー達が動き出す。
皆、欄干に駆け寄り、海に落とされたパッローネの姿を捜した。
「どこだ」、「沈んだのか」と騒ぐクルー達に、ルビーは口角を上げて言う。
「見られたくないんだから、さっき折ってやったマストとか帆とかに隠れてるんじゃないの? 誰かひとり行ってやったら?」
落下地点付近には、へし折れたマストがあった。
帆も海面にぷかぷかと浮いている。
「パッローネ様ァ―――っ!!!」
ルビーに構わず真横を通り過ぎ、 真っ先に飛び込んだのは、サポーレだった。
「副船長!!」
「さっき、船長に見捨てられたってのに…」
海面に浮く帆の近くで、水音がした。
パッローネとサポーレが浮上したのだろう。
ちゃんと、クルー達からは見えないように隠れている。
「もうちょっと詳しく聞きたいことあったけど…、まあいいや。言いたいことは言ってやった。随分とせんちょの船との距離も離したし…」
海の向こうで米粒くらいになったビックトップ号を確認したルビーは、背中から海へと落下した。
両脚はすでに赤い鱗で覆われている。
クルー達がようやくそちらに注目した。
「これが、最高で最悪なバギー海賊団!! …の、見習いでしたー」
ルビーの姿は、海面という名の幕に閉じられた。
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