07:もう一度、宴を
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殺気を醸し出すサポーレを前に、ルビーとバギーとリッチーはテーブルの陰からそっと頭半分を出す。
「お邪魔してます」
バギーが言った直後、再び数十本の針が投げられる。
ズガガガ!!
当たる前にもう一度頭を引っ込めた。
「あたし達のこと殺す気満々みたいね」
「十分伝わってんだよ! クソッ。船長室でも容赦ねーのか!?」
「ガウッ」
「よっしゃ行けェ、リッチー!!」
はっ!?としたリッチーは首を激しく横に振って拒否を示した。
「ガウガウガウッ!!」
「テメェそれでもライオンか!?」
「待って待って。いくらなんでもリッチーも無謀だってわかるよ」
フォローするルビーに激しく頷くリッチー。
「船長にいい手土産ができる。今すぐ出て来るなら楽に殺してやろう。額を貫いてな」
ルビーは壁に突き刺さった針に目をやる。
針の形状と投げ方が独特なのか、深々とねじ込まれるように突き刺さっていた。
心臓や頭に当てられたらたまったものではない。
少しでも果敢に前に出れば穴だらけにされるだろう。
相手にとって、丸腰で大柄のリッチーと、ガムで引っ付いて互いに思い通りに動けないルビーとバギーは大きな的でしかない。
最悪な現状なのはバギーにも理解できていた。
どうするか策を練りに練った挙句、リッチーを盾にして前進すれば勝率は上がるのではという考えまでよぎる。
「ガ…、ガウ?」
じっと見つめてくるバギーに嫌な汗を垂らすリッチー。
「せんちょ、耳貸して」
ルビーに肩を叩かれ、はっと正気に戻る。
「耳貸せって、嫌でもここにあるだろが」
ほとんどゼロの距離感にバギーは口を尖らせて言い返した。
ルビーは小声で内容を話し、乗ってくれそうなバギーの表情に小さく笑う。
サポーレは未だ動く様子もないルビー達に痺れを切らし、数歩歩いて近づこうとする。
そこで「待って」と声が掛けられ、歩みを止めた。
「副船長さん、でいいかな」
ルビーはテーブルに隠れたままサポーレに声をかける。
「命乞いなら聞かないぞ」
サポーレの両手にはすでに針が持たれていた。
いつ飛びかかられても投げつけて当てることができる。
「さすがにあたし達だって、今のこの状態でまともに戦って勝てる自信はないよ。隠した鍵のありかを言うから優しくしてくれない?」
「…鍵を隠しただと?」
サポーレは怪訝な顔をした。
聞き捨てならないという反応に、ルビーは密かに親指を立てる。
「ハデに話を聞け! てめーらの目的は宝箱を開けることだろ? おれ達が持ってなかったら殺しても意味ねーはずだ」
「……ゆっくりと立て。ライオンはそのまま伏せていろ。怪しい行動をとればすぐに殺す」
少し間を置いてサポーレは指示を出した。
ルビーとバギーは言われた通りにテーブルの陰から立ち上がり、姿を見せる。
誰から見ても、今の2人はとても動きやすい状態とは言い難かった。
息を合わせて襲い掛かってきたとしてもサポーレには返り討ちにする自信はある。
サポーレの視線がルビーの首元に移るが、鍵は掛けられていなかった。
このまま拷問して鍵の隠し場所を吐かせようか考えた時、ルビーの右手がコブシを握りしめていることに気付く。
「……右手に何か持ってるのか?」
「いや、何も…」
「開けてみせろ」
「何もないって」
ルビーはそわそわとしていた。
視線も泳いでいる。
「見せないと先に船長から殺すぞ!!」
「えっ!?」
「えええっっ!!?」
針を額に突き付けられたバギーは素っ頓狂な声を上げた。
「ま、待って! わかった! 見せるから!!」
ルビーは右手のコブシを自身の顔まで上げ、ゆっくりと開いた。
サポーレは、鍵を視界に入れた瞬間に始末してやろうと口角を上げる。
しかし、本当にルビーの右手には何もなかった。
「あたしの右手より、せんちょの右手を見た方がいいんじゃない?」
ルビーの口元は、不敵な笑みを浮かべている。
隣にいるバギーもだ。
無意識に、導かれるようにサポーレの視線がバギーの右手を見ようとしたが、見るべき右手はそこになかった。
「何…」
ボゴッ!!
「!!!??」
頭が混乱に支配された直後、思わず目玉が飛び出る一撃が後頭部に食らわされた。
「な……ッ」
床に倒れるサポーレの後ろには、バギーの切り離された右手がふわふわと宙に浮いていた。
その右手には、書棚の中から選んだ分厚い本が握られている。
表紙には“名酒辞典(北の海編)”と記載されていた。
辞典の背部分をまともに受けたサポーレは、バギーの笑い声を聞きながらゆっくりと意識を失った。
「ぎゃーははは!! こいつの右手に気を取られてるからだマヌケめ!!」
「最高にうまくいったね!!」
ふわふわと浮かぶ右手と、ルビーの右手が勝利のタッチをする。
その横ではリッチーがベッとまずそうに、口の中に隠された鍵を吐き出していた。
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