03:見習いだからね
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その夜、掃除も洗濯も武器の手入れも終えたルビーは、コックに頼まれてバギーを呼びに船長室に訪れた。
掃除の為に船内を歩き回ったので、迷わずに来れた。
数回ノックしてから部屋へと入る。
「せんちょー、夕飯が出来たって…」
「おお。なんだてめェか」
くるりと振り返ったバギーは、いつものピエロメイクはしておらず、すっぴんだ。
おまけに船長の帽子も外して髪を下ろしている。
「……………」
不意に茫然としてしまった。
「メイク直ししてたとこだ。タイミング悪いな」
あまり見られたくないのか、ムスッとするバギー。
ルビーは小さく笑った。
同時に、顔のすぐ横を何かが通過し、ガッ、とドアに突き刺さった。
切り離された左手に持たれたナイフだ。
ルビーの顔に冷や汗が浮かぶ。
「何に笑ったんだ見習い」
「最大にごめーん。すっぴん見たの初めてだから」
次からは気を付けなければ。
ナイフを持った左手が、ふよふよとバギーの元へ戻るが、切っ先はルビーに向けられたままだ。
「ったく、調子に乗ってたら本気で船から引きずりおろすぞ。おれの船に乗り込んだからには、見習いとしてハデにこき使ってやる。船長命令は絶対だ!」
「わかってるって。見習いだからね」
ドアに背をもたせ掛け、笑いかける。
「変なやつだぜ。……おれと昔、約束したって言ってたが、いつ、どこでだ?」
とうの昔に忘れてしまった約束だ。
それでも、その約束に固執して船に乗り込んできたルビーとの出会いが気になった。
「…“グランドライン”のとある島…、故郷だよ。ロジャー海賊団が立ち寄って…、バギーとシャンクスと出会って……」
言いかけた途中で、異変が起きる。
「!!」
「お!?」
爆音が聞こえ、近くで水柱でも上がったのか船が大きく揺れた。
ルビーはとっさにドアの縁をつかんで体を支え、バギーは何事かと立ち上がる。
「まさか…!!」
バギーは急いでメイクを直して甲板へ行こうとする。
「敵船かァア!?」
「せんちょ!! メイクめっちゃくちゃ!!」
口紅の塗りは頬まで伸ばされ、顔に描かれたドクロマークもバランスが悪い。
被っている帽子もサイドテールされた髪に掛けられ、ちゃんと被っていない。
ルビーに気付かされて改めてメイクを正しく直したバギーは、ルビーとともに急いで甲板へと飛び出した。
見張りや他のクルー達は慌ただしく動いている。
「敵船だー!!」
遠くに、同じく海賊旗を掲げた海賊船が見えた。
同じ海賊ならば、その財宝を奪おうとしているのだろう。
容赦なく砲撃してくる。
幸い、船体に傷はないが、逸れて海に落ちた砲弾は爆発して水柱を上げた。
船体同士が近づくほど、飛んでくる砲弾も距離を縮めてくる。
「何やってんだ!! こっちもハデにやり返せェ!!! 迎え撃つぞ!!!」
「うおおおお!!」
戦闘準備も万全なクルー達は武器を掲げた。
砲撃準備も開始される。
またあちらの海賊船が砲弾を撃ってきた。
軌道は船体に真っ直ぐ飛んでくる。
命中先は甲板だ。
「やべェ!! こっちに飛んできた!!」
「逃げろー!!」
「あわてんじゃないよ、あんた達!!」
前へ乗り出したのはアルビダだ。
飛んできた砲弾に自ら突っ込み、生肌の腕を伸ばした。
すると、砲弾はアルビダの肌を滑り、右に軌道を変えて船体から逸れて海に落ちた。
眺めていたクルー達は歓声を上げる。
「おおお!! さすがアルビダ姉さん―――っ!!!」
「砲弾さえも滑らせる肌!!」
「好きだああああ!!!」
アルビダは微笑を浮かべ、敵船を見据えた。
今頃、敵船の海賊たちは狐につままれた顔をしているだろう。
砲撃はしつこく続いた。
甲板にはアルビダがいるため、相手はメインマストに狙いを定める。
角度がいきなり上になり、バギーはメインマストに振り返って怒声を上げた。
「今度は上だ!! なんとかしろ!!! 帆を守れェ!!!」
先にカバジが動こうとした。
だが、それより先に動いた影がある。
「りょーかい!! せんちょ!!」
ルビーだ。
まさかルビーが動くとは思わなかったのだろう。
他のクルー達と共に、バギーも目を見開いて驚いた。
「あたしも一味に入れてもらったからには、種も仕掛けもない最高な芸の1つや2つ、お披露目しないと!」
脚力だけでメインマストをのぼり、
「“赤鱗(グルナ)”!!」
構えた右脚は赤鱗に覆われて人魚の脚となった。
「蹴るつもりか!?」とカバジ。
「無茶な!! 爆発するぞ!!」とモージ。
直撃は免れない。
「“尾返し(クー・リポステ)”!!」
だが、臆することなく、柔らかい人魚の尾で砲弾を敵船に打ち返した。
ドン、と来た方向から戻るように返された砲弾は敵船のマストに的中し、爆発する。
「おーっ、当たった当たった♪」
マストから垂れ下がったロープをつかみ、ルビーは黒煙を上げる敵船を見て、コントロールの良さに自負した。
クルー達の目を奪うには十分な活躍だ。
はっとしたバギーは船長命令を下す。
「ボサッとしてんじゃねェ!! 今がチャンスだ!! 撃たれる前にハデに撃ちかえせえええええっっ!!!」
「「「「「おおおおおっ!!!」」」」」
次に来るだろう砲撃に備えながら、ルビーは楽しげに笑った。
「海賊って…楽しいなぁ!!」
歓声も、砲撃音も、吹き抜ける風さえも、祭りのように騒がしく、胸を躍らせる。
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