12:There's different types of…
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11月20日火曜日、午前1時。
トコヨの繁華街で、姉川を先頭に、夜戸達は急いで現場に急行した。
「ここ! はぁ、はぁ、この地点で…間違いない!」
姉川は足を止め、息せき切らせながら辺りを見回す。
人影はどこにもない。辺りは静まり返り、この場所で事が起こったようには思えなかった。
「本当にここで合ってんのか!?」
森尾は差し迫った様子で姉川に問いただす。
「合ってるって!」
「じゃあ何で空がいねぇんだ!?」
「こっちが聞きたいわよ!」
見失ってゴーグルの内側で涙目になっているのは姉川の方だ。
落合が2人組の外套に路地の奥に連れていかれるところはクラミツハで捉えた。
なのに、煙のように消えてしまった。
路地を見ても、行き止まりがあるだけだ。
「あわわわ、モリモリ、ハナっち…」
ツクモはおろおろと森尾と姉川を交互に見る。
そんな2人の間に割って入ってきたのは、足立と夜戸だ。
「落ち着きなって。落合君が連れ去られて切羽詰まってんのはわかるけど…」
「言い合いをしても空君は見つからない。まずは呼吸を整えて」
足立は森尾を、夜戸は姉川を一度離して落ち着かせる。
森尾は近くの電柱を蹴り、姉川は悔しげにうつむいて唇を噛み締めた。
「ソラちゃん…」
ツクモは手がかりが落ちていないか地面に目を配る。
「! みんな…っ」
路地の角で、あるものを見つけた。
ツクモは口で拾って夜戸の下へ運ぶ。
「…警棒?」
「それ、空君が使ってた」
つい最近見た姉川が指をさした。
警棒は無惨にへし折られていて、不安を煽られる。
「……こっちは…」
森尾は電柱の後ろに落ちていたものを見つけて拾い上げる。
開かれたままの落合のケータイだ。
画面に一滴の血が付着していた。
「メールを打とうとしたみたいだな…」
“夢路地を見つけた、路地の奥からカバネの男、舌に逆十字のピアス、首に赤い傷痕、黒い手袋、クラヤマツミ”
急いで打ち込んだ箇条書きだったが、カバネのひとりの特徴が判明した。
ペルソナと思わしき名前も書かれている。
文章はそれだけだ。
肝心の居場所は未だにわからないまま。
「空…っ」
溢れ出そうな不安を押し殺すように、森尾はケータイを強く握りしめる。
「足立さん?」
ふと夜戸は足立に目を向けた。
足立は片膝をつき、指で地面に付着した黒いシミをたどっている。
「……血?」
「かもね」
落合の血だろう。
近づいた夜戸は前屈みになる。
点々と路地の奥に続き、途中で途切れている。
カバネの誰かに襲われて担がれ、連れていかれたのは明確だ。
足立は立ち上がり、ポケットに手を入れたまま周りの建物をじっくりと見回す。
「!」
電柱に、小型カメラがビニールのロープでくくりつけられてあるのを発見した。
しかし凝視はせず、自然と目を逸らす。
(警備会社のものじゃない…。無断でくくりつけられたものだとしたら、あのカメラからトコヨに引きずり込んだのかな…)
足先を路地に向けた。
行き止まりなのは理解しているが、進みながら可能性を巡らせる。
(ここまで痕跡を残さないとなると、落合君を連れて、まるでこの場で消えたみたいだ。ツクモちゃんと同じく、どこかの扉から別の場所へ通じさせることができる奴がいる…可能性はなくもない。でも突き当たりは建物のドアもない行き止まり。落合君がメールに打ったのは、男が路地の奥から登場したことだ。路地の手前にはビルとか小さな店のドアがいくつもあるってのに…。何もない空間から出てこれるか? まずは路地を選んだ理由…、人目につきにくいから…?)
様々な憶測を浮かべる途中、行き先を目の前の別の建物の壁に邪魔された。
最近建てられたのか壁の色が塗りたてで新しい。
昔はここにあっただろう、道を塞ぐような建て方だ。
1メートル上に閉められた小窓がいくつか見えるが、よほど細くない限り、成人の男が通るのは無理がある。
足立でもつっかえそうだ。
「……………」
ふと、足下に目を留める。
大きな可能性の手応えを感じた。
無言のまま、路地を出て夜戸達と合流する。
「ダメだ。手がかりくらい落ちてるかと思ったけど、なーんもないね。一旦捜査本部に戻って立て直そうか」
肩を竦ませて提案を出すが、森尾は別行動を取ろうと背を向ける。
「どこ行くの」
「俺は探す」
「どこを?」
「しらみつぶしに決まってんだろ!」
一大事だというのに、森尾は、のんびりとした足立の態度に苛立った。
足立は「わかってないな」とため息をつき、森尾の背中に近づいて肩をつかむ。
「要領が悪いし、そんなんじゃ、1日…、いや1週間費やしても見つからないんじゃない?」
「なんだと!?」
森尾は勢いよく振り返って足立の胸倉をつかんだ。
「今度はこっちさ!」
「喧嘩しないでよ、こんな時に!」
ツクモと姉川が駆け寄る。
「てめぇには他人事かもしれねーけどな、身内がどこの誰ともわからねぇ奴にケガ負わされて連れてかれちまったら、てめぇみたいに呑気してるわけねーんだよ!!」
「自覚してる分は冷静だよね」
「やかましい! 身内に愛情とかかけられたことねぇ、てめぇにはわからねーよ! 俺の気持ちなんざ」
森尾が騒ぐ中、夜戸はツクモに言った。
「ツクモ、そこのドアと捜査本部って繋げられる?」
指をさしたのは、足立と森尾が揉めているすぐ傍のドアだ。
「え…。いけるけどさ…」
森尾を横目でチラチラと窺いながら、テナント募集中の貼り紙が貼られたビルのドアを選び、「通れるさ」とツクモが告げた時、夜戸は姉川に「華ちゃん、そこ開けて」と頼み、森尾に近づいた。
「森尾君」
足立の胸倉をつかむ手に触れて声をかける。
「え?」
瞬間、森尾の視界が反転した。投げ飛ばされた、と思った時は、姉川がドアを開けた先の捜査本部の床に倒れ込んだ。
「うぐっ!?」
「空君が心配なのはわかる。でも、愛情云々は関係ない君の八つ当たり」
捜査本部に足を踏み入れ、無表情のまま言い放った。
「……………」
自身の発言を振り返り、森尾は床を見つめたまま動かなくなった。
足立達が捜査本部に入ってくると、夜戸は肩越しに足立に言う。
「足立さんも、何かわかったならとぼけないで言ってください」
「え」と森尾は顔を上げる。
「だって、誰がどこで見てるかもしれないし」
「…!「わかった」って…?」
何もない、と言ったのは足立の演技だった。
森尾は気付く。
目の前の男は、とぼけた顔をしているが切れ者だ。
単に、頭に血が上った森尾を落ち着かせるために発言しているわけではなかったようだ。
夜戸は、足立の意図をくみ、私情を挟みつつ、強制的に森尾を捜査本部に送還したのだ。
「落合君が連れていかれた場所。まあ、そこにいるとは限らないけど、とりあえずは『カバネ』の潜伏してそうなところかな」
足立はローテーブルに地図を広げる。
この地図ではほとんど意味はないことが判明したが、相手がどこから出入りしていたのかは示すことができた。
テーブルの周りに集合した夜戸達は、足立が指さした場所に注目し、一斉に目を見開いた。
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