12:There's different types of…
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11月19日月曜日、午後23時。
落合はとある人物を尾行していた。
一定の距離を保ち、なるべく足音を立てず自然体で男の後を追いかける。
ようやく見つけた手がかりだ。
学校で情報を集めたところ、同級生の知人に『夢路地』へ行ったことがある人物が浮かび上がった。
落合が捜していることを聞きつけて、協力的に情報を提供してくれたのだ。
『その人、『夢路地』に行ってから様子が変で。夜に徘徊するようになったって…。まるで、ゾンビみたいで気味悪くて…。もっとリアルな言い方をすると、薬中毒者みたいな…』
尾行が見つかってしまえば、ただでは済まない予感はあった。
いつでも警棒を取り出せるよう心構えもしておく。
確かに、後ろから観察していたが、ジャージ姿の男の足取りは危なっかしくふらついていた。
何かブツブツ言っているが聞こえず、たまに立ち止まってはこちらの歩調が狂わされる。
夜の繁華街は人通りも少なからずあり、通行人たちは男の姿を見るなり避けるように歩いた。
後ろからではわかりづらいが、人が避けたくなるほどの表情をしているのだろう。
だんだん明かりの少ない場所へと移動していく。
素行の悪そうな男達には気を付けた。
絡まれて見失いたくない。
ケータイで時刻を確認する。
そろそろ午前0時になろうとしていた。
男が狭い路地を曲がった。
早足で追いかける。
「!?」
確かに、違和感があった。
まるでトコヨに踏み込んだ時のように、空気が変わる。
2人は並めば詰まりそうな路地を曲がる前に、テナント募集中と貼り紙のあるビルの壁に背をつけ、男との距離を窺った。
あ、と声が出そうになる。
足音が聞こえ、路地の奥から外套を身にまとった背の高い人物がやってきて、男と対面した。
「お願いします…。お願いします…」
男は外套の前に跪く。
それから両手を合わせ、拝む姿勢をとって懇願した。
「…またこの場所へ来たのかぁ?」
外套からのぞかせた口元がニヤリとほくそ笑む。
「もう…、戻りたく…ありません…。ずっと…、ずっと妻と一緒に…」
「いいだろう。『カバネ』へようこそ。“現実”のお前は晴れて『死体(カバネ)』となった」
ベッと出した長い舌には、黒の逆十字の舌ピアスがつけられていた。ゾッと寒気を覚え、落合は息を殺す。
それでも目は外さない。ゆっくりと伸ばした手が、スカートの下の警棒をつかんで抜き取った。
外套が自らの首を絞めるように両手を当てる。
少しして離すと、外套の両手に黒の手袋が装着されていた。
その際に落合は見逃さなかった。
外套の首に、横一線の赤い傷痕が見える。
「クラヤマツミ」
外套の両手が男の頭部にかざされると、手袋のすべての指先から細い白銀の糸のようなものが出現して伸び、男の頭に繋がった。
「あ…」
男の顔が不気味を思わせるほど満面の笑みとなる。
(兄さん達に…)
ケータイを取り出し、操作した。
ゴッ!
頭部に衝撃を覚える。
拍子に、手に握りしめていた警棒を手放してしまった。
目の前が真っ暗になったかと思えば、地面に倒れ、生温かい血が額を伝う。
「ドジなことしたね、Y。尾行されてた」
すぐ近くで声が聞こえた。
カラン、と適当に拾って使われた角材が顔の近くに落とされる。
金属が割れるような音も聞こえ、視線を動かして見ると、落とした警棒がへし折られて捨てられた。
「Qちゃんが直々にそんなことしなくても、オレが始末してたのにさぁ。警察犬みたいに嗅ぎまわられてるのは気付いてたしぃ。アンタは野郎の世話で忙しいから、こっちに気が回ってないと思ってたぁ」
「言い方に気を付けなさい」
仲間ではないのか、と思ってしまうほど空気が張りつめた。
頭痛のせいで力が入らない。
小さく呻き声が漏らしながら、顔を上げて2人の顔を確認したかったが、Yの足が落合の頭を踏みつけた。
「ぐ…」
「おーおー、抵抗してるなぁ。生きるのに必死な目…。オレの話を聞いてくれそうにも、仲間にはなってくれそうにもねぇ。ざんねん」
金色の目とかち合い、失望したようにため息混じりに言われる。
「殺すか?」
Yのドスを利かせた声に、身体が強張った。
苦しくて声を発することもできない。
「本物の死体を作る? 利用価値はあると思うけど」
「オレは預からねえぞ。Mに押し付けちまえ。そんでお前が野郎と一緒に面倒を見ればいい」
「一言一言が癇に障る言い方はやめなさい。…確かに、そろそろMをけしかけてもいい頃合いか…」
「命拾いしてよかったなぁ。まあ、Mのせいで衰弱死しても、恨んで出てくるなよ」
「ホラー映画みたいにな」と冗談めかしてYはひとりで笑った。
(兄さん……)
遠のく意識の中に浮かんだのは、賑やかな捜査本部だ。
兄の楽しそうな姿は、今はあの場所でしか見られない。
(ボクにもあればよかったのに…。赤い…傷………)
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