12:There's different types of…
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11月14日水曜日、午前0時。
トコヨの街にある雑居ビルの屋上で、姉川は召喚したクラミツハで、『カバネ』を捜索する。
すでに2週間以上が経過しているというのに、影も形もつかむことができない。
範囲という限界があり、あちらにもどれくらいの距離かを知られているのは痛かった。
「はぁ…」
ゴーグルの内部はモニタールームのようになっている。
現実では遠慮なく犯罪を犯しているのは事実だ。
焦りが生まれない方がどうかしている。
「なんのための探知よ…」
歯がゆさに眉をひそめた。
「あいつら、どこに隠れてるんだか…」
夜戸の父親がいなくなったことで、自分自身を急かしてしまう。
落ち着かせるために、首にかけたカメラを握りしめた。
自分の父親は、カメラを遺して戻らなかった。
たとえ冷めた親子関係だとしても、再会は遺体でした、なんて同じ目には遭わせたくない。
「姉川」
声をかけたのは、森尾だ。
「招集。足立が、一度捜査本部に戻って立て直そうってよ。お前も一度休め。ペルソナの出しっぱなしはしんどいだろ」
「………ええ」
浮いた汗を手の甲で拭う。
無理は禁物。
昨日の夜戸の様子で学ばせてもらった。
それでも、後ろ髪を引かれる思いだ。
森尾と姉川は、途中で合流したツクモとともに捜査本部に戻る。
「夜戸さん」
適当な住宅の扉を開けて捜査本部に足を踏み入れた時、カウンターに身を乗り出した足立は、カウンターの内側にいる夜戸の右手首をつかんでいた。
夜戸は左手にサーバーを持ったまま固まっている。
「脱いで」
先程の疲れはどこへ行ったのか、ネズミを見つけたネコのような素早さで姉川は足立に躍りかかった。
「夜戸さん、見てください。あれが野獣です。ケダモノです。女の敵。駆除しますか?」
「待って華ちゃん」
姉川は、カウンターの奥に夜戸を連れて背中で守り、頭に大きなコブを作って床に正座している足立に威嚇する。
床にはクロスボウの矢がいくつか突き刺さっていた。
森尾とツクモは恐ろしさに室内の隅で委縮している。
「言葉足らずでした」
謝る足立。
クロスボウを片手に握りしめる姉川に訂正の許可をもらい、立ち上がって膨らんだコブを擦りながら改めて言い直す。
「夜戸さん、ジャケット脱いで」
「……………」
躊躇う仕草を見せるが、それも一瞬で、観念して大人しくその場でジャケットを脱いだ。
「右袖の下見せて」
「…はい」
言われるままに、右袖を捲った。
「!」
姉川はぎょっとする。
森尾とツクモもカウンターに駆け寄り、露出した部分を凝視した。
夜戸の右前腕に、何かがぶつかったような大きな青痣があったからだ。
「やっぱり…、動きが不自然だと思った」
コーヒーを淹れる、いつも通りの動きではなかった。
今日に限って左手を主に使用していたので違和感があったのだ。
まったく右手を使わなかったわけではないが、コーヒー豆が入ったキャニスターの蓋を開けるに時間もかかっていた。
「どうして黙ってたんですか!? いつ…」
姉川は言いかけてはっとする。
「まさかまた、ホームから突き落とされたんじゃ…」
「そうじゃない…けど…っ」
バツの悪い顔をわずかに浮かべ、夜戸の視線が、足立達に移る。
「……ホームから? 突き落とされた? そんな話聞いてないけど」
「え?」
助けた姉川しか、知らなかった。
「……………」
夜戸は黙り込んでしまう。
「何で言わなかったさ!?」
ツクモが詰め寄った。
「……あの時は…、無事だったので…、言わなくても……」
「大怪我しても、僕達がつっこまなかったら、言わないでしょ」
足立に図星を突かれる。
「夜戸さん、水臭ェことしないでください。もし、黙ったまま死なれたりでもしたら…」
「森尾君…」
「言ってくれないと何もわからない、っていったのはアンタだろ!?」
夜戸ははっとする。
弟に何も打ち明けない森尾に、お節介だと自覚しつつ言った言葉だ。
(……兄さんと同じことしてた…)
何も言わずに死んでしまった兄を思い出した。
「…そうね…」
「治癒しますから、話はそのあとで…」
姉川はクラミツハのもう一つの能力で、夜戸の痣を治しにかかる。
「ゆっくりと回復するので、無闇に動かさないように」
「ありがとう、華ちゃん」
カウンターチェアに腰掛け、夜戸はケガのことを話し始めた。
「突き落とされてからは何もなかったんだけど、ここのところ、誰かの視線を感じるようになって…。気のせいだと思っていたら、今日…、ああ、日付が変わってるから昨日か。昨日の帰宅中、工事現場でもないのに普通の雑居ビルの屋上から鉄パイプが落ちてきて…」
「当たったのさ!?」
「ううん。避けたけど、その時に転んじゃって…」
頭を庇った右腕に、大きな痣を負ってしまった。
「当たってたらもっと酷かっただろうね」
最悪死んでいただろう。
「隠そうとしてすみませんでした」
夜戸は改めてその場にいる全員に頭を下げた。
「犯人は、『カバネ』の誰かかもしれない。しかも、夜戸さんに恨みがある人物…。夜戸さんの過去についても知ってるふうでしたし」
姉川は、情報提供者であるQを思い出す。
「明菜ちゃんでも人に恨まれることってあるさ?」
ツクモは意外そうな顔で夜戸の膝に乗り、人畜無害そうな表情の夜戸を窺うと、夜戸の手のひらがツクモの頭を撫でた。
「弁護士だからね。逆恨みを買うこともあるよ」
裁判が終わったあと、納得いかなかった依頼人や、相手側から罵詈雑言を浴びせられることはあったし、つかみかかられることもあった。
その時に役立つのが、護身術の心得だ。
「夜戸さん、仕事が終わったら、まっすぐに捜査本部に来なよ。トコヨでも現実でも、一番安全だよ、ここは」
「その方がいいさ。家だって知られなくて済むし」
「うん…」
足立とツクモにすすめられても微妙そうな返事だったので、察した姉川は耳打ちする。
「月子ちゃんのことは、ウチも気に掛けときますから」
「…とても助かる」
身体が少し軽くなった。
父親を捜しながら、正体不明の者から自分自身を守り、元凶であるかもしれない『カバネ』を探し出して止める事。
けっして一人では無理だ。
(あたしはもっと、誰かに頼るべきなのかもしれない…)
学生時代に、足立に勉強を教えてもらっていた時の方がもう少し素直ではなかったかと今更ながら思う。
自己責任思考の大人とは本当に面倒だと痛感した。
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