12:There's different types of…
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11月13日火曜日、午前1時。
夜戸はあらかじめ遅れることとその理由をツクモに伝え、ようやく捜査本部に顔を出した。
「夜戸さん! 親父さんが行方不明になったって…」
「うん。うん…。ちょっと…、待って…」
手前の扉から入ってきた夜戸は、酷く疲れ切った様子だった。
駆け寄ってきた森尾をなだめるように手で制し、ソファーへ移動して身を投げ出すように座り込む。
背もたれに背を預け、ようやく息がつけたといった様子だ。
「大丈夫ですか?」
「明菜ちゃんっ」
姉川とツクモも心配そうに近寄った。
「父が担ってた、相談の予約と、裁判の対応に忙しくて…。捜索願は、弁護士秘書がやってくれたみたい…」
「こんな時に仕事してる場合じゃ…!」
「あの人は、あたしが行方不明になったらそうするし、そうしてくれと願うはずだから。混乱を肥大させるわけにはいかない」
「けど…」
森尾の言いたいことはわかる。
父親が行方不明になったのに、あまり動揺している素振りを見せない娘を冷たいと思うだろう。
「森尾君が落ち着きなって。夜戸さんの動揺をぶり返したいの? いなくなったことが発覚して何時間経ってると思ってるのさ」
「…………すんません、夜戸さん…」
もっともな足立の意見に、後ろから肩を叩かれた森尾は反省した。
「ううん」
夜戸は首を横に振る。
森尾なら、自分の親や弟がいなくなったら警察に連絡してすぐに家を飛び出し、心当たりがなくても探し回るだろう。
親に対しての情が薄いのは、自覚している。
「…お母さんは? 心当たりとか…」
「ああ…、言ってませんでしたね。あたしの両親、けっこう前に離婚してて…、母も行方知らずなんですよ。どこにいるのか尋ねても、父にはひた隠しにされてきましたし…」
初耳に、足立は目を見開き、「そう…だったんだ」とこぼした。
学生の頃、夏休みに夜戸の母親を見かけたことがある。
ショートカットで娘と同じ髪色で、美人だった。
姉川はすでに事情を知っていたのか、森尾達より反応は薄い。
「父が居場所を知ってるなら、母さんは失踪、父さんは行方不明、って分け方かな…」
夜戸は、以前に行方不明と失踪の違いを、森尾とツクモに教えたことをふと思い出して口にする。
「今はそんな違いどうでもいいさっ」
「わかってる……けど…」
ならば、どうすればいいのか。
書き置きが残されたわけでも、身代金も要求されたわけでもない。
自ら消えたか、連れ去られたか、いなくなった理由さえわかっていないというのに。
そもそもトコヨが関わっているとも限らない。
実際はわからないことだらけだ。
メガネを外して、目を擦ってから戻そうとすると、前から伸びてきた手にメガネを軽い力で取り上げられた。
「!」
「顔色悪い。一回休みなよ」
足立はメガネをたたんでローテーブルに置く。
途端に、夜戸の肩の力が抜け、隙を窺っていたかのように眠気が入り込んできた。
(こんな時なのに、思い出がよぎるなんて…)
学生時代の体育祭で、唯一顔色で気付いて気に掛けてくれたのも足立だけだった。
昔から、滅多な事では感情が表に出てこない顔だったのに。
「す…みません…」
夢とうつつの間を彷徨いながら言葉を絞り出す。
「僕に対して謝ってばっかり」
足立は苦笑した。
夜戸は聞こえているのかいないのかわかりにくい相槌を打つ。
「…そう…ですね……、先輩……」
「え」と全員が驚いた時には、次の呼吸が寝息に切り替わっていた。
「…だいぶ疲れてる…。姉川さん、タオルケット…」
「はーい、『先輩』っ」
夜戸のかけるためのタオルケットを用意する姉川はニヤついている。
「やめて」
「俺達も冷静にならないとな、『センパイ』」
カウンターチェアに座る森尾も意地悪く言った。
「やめてよ」
「『せんぱーい』」
ツクモは呼ぶだけ。
「……………」
足立もカウンターチェアに腰掛け、周りのからかいにうんざりした気持ちでテーブルに突っ伏した。
このまま夜戸と同じく眠りたい気分だ。
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