11:Not for me…
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11月10日土曜日、午前0時。
捜査本部には、夜戸、足立、ツクモ、森尾、姉川の5人が集合していた。
「足立さんの推理通り、ありました。毒ガス事件の共通点」
姉川は、調べたチャットサイトを、そのままコピー印刷したものを取り出した。
「『リベンジヒーロー』。事件のあった学校の不登校生徒のほとんどが入室済み」
黒の背景に、黄色で映画のような迫力のあるロゴが使用され、“リベンジしたいか?”という入室ボタンがあった。
「それで、こっちが内容」
「…うっ」
森尾が唸る。
“クラスの奴らを苦しめて”
“ぼくをすくって”
“部活で先生になぐられて学校にいけなくなった”
“無視しやがって。殺す殺す殺す殺す”
“―――の生徒は全員●ね”
“ありがとうヒーロー。胸がすっとしたよ”
書き込まれたのは、管理人への復讐の依頼と感謝の言葉だ。
どこの学校でどこのクラス、復讐相手の写真も貼りつけられていた。
ひとつひとつの闇に不気味さを感じ、森尾は気分を悪くする。
「こういうサイトは見慣れてない? どこのチャットにもアンチは絶対いるはずなのに、どこにも文面がないってことは消されてるんだろうね」
足立は平然とした様子で軽く目を通した。
「よくそんなのスラスラ読めるな…」
青ざめた顔の森尾はめくる気力を失っている。
「君が意外とデリケートなだけ。…これって警察にも知られてる?」
「一応調査は入ったみたい。でも、管理人の特定までは至ってないって。依頼人には、あらかじめ、いつ決行するかっていう予告は届いてたらしい」
「依頼した本人が毒でやられるわけにもいかないからかな」
推察しながら、夜戸も目を通す。
本人だけに届く予告も、足取りがつかないようにパソコンで作成したか、昔ながらの方法で新聞紙やチラシを切り取って文面を作ったか。
「何がヒーローだ。人を苦しめて気取ってんじゃねえよ」
舌打ちをして森尾は吐き捨てた。
「……誰も助けてくれなくて、いじめとかで散々苦しんだ子にとっては、どんな形であれ、方法であれ、ヒーローだったと思う。誰もが思い描くヒーローとしては、やり方が過激すぎるけど」
言い出したのは、夜戸だ。
「夜戸さん?」
「森尾君、いじめの加害者も、悪役を気取って被害者を苦しめてるわけじゃないよ。自覚がないだけ…なんとなく恐ろしいと思わない?」
「実行されれば、同じ思いをしてるいじめられっ子からの支持は大きいだろうね。書き込みの日時を追っていくと、実行されるたびに噂も広まって応援も依頼も増えてる…。これが現状。チャットの文面を見て目を逸らしたってことは、ケンカはあってもいじめとは無縁な生活をしてきたのかな」
「ぐ」
足立に突かれた通りだ。
喧嘩を売られれば遠慮なく買って、周りを黙らせてきた方で、いじめを見かけたことはあっても受けたことはない。
両親が殺されたあとは、どちらかと言えば周りには気を遣われ、腫れ物に触るような扱いを受けていた。
だから、チャットの書き込みが気味悪く思えてしまったのだ。
「ウチも…、嫌がらせとか受けたことあるから、わからなくもないな…」
姉川は、父親が捕まった時に周りから理不尽な嫌がらせを受け、周りのすべてを恨んだことはあった。
不登校になる前に、学校を転々としたものだ。
(俺は…、ガキだ)
森尾は改めて自覚して、途端に恥ずかしくなった。
うつむいて唇を噛みしめ、コブシを握りしめる。
「このサイトから、犯人を割り出せそうさ?」
「うーん。難しいかもね。誘い込むにはリスクもある。適当に学校を指定したら本当に実行されそうだし」
おびき出すためにヘタな書き込みはできない。
足立は考える。
「…管理人の名前はわかってるの?」
「リベンジヒーロー」
「そのまんまか。「ヒーロー」って呼ばれたいから?」
ガクリと肩を落とした。
これ以上の情報は入ってこなさそうだ。
「あ、夜戸さんも報告あるんだっけ?」
「はい。磔事件の件で」
「電車内に隠しカメラあるか探したけど、見つからなかったんですよ」
姉川は思い出して報告する。
「…羽浦(はねうら)うい。この子が犯人じゃないかと…」
突然の名出しに全員が驚いた。
「うい…。Uが入ってるさっ」
ツクモはぴょんと跳ねる。
「担当したことがあるの?」
足立の質問に、夜戸は少し間を置いて頷いた。
「……父が弁護をする予定だったのですが……」
『はあ!? 男が弁護!? 死んで!!』
「彼女の親が相談もせずに勝手に決めたものでしたから、ブチ切れて急遽あたしがすることに…」
「「「「あー…。その子っぽい」」」」
足立、森尾、ツクモ、姉川の声が被る。
「男は死ね」と暴言を吐いていたUと特徴が一致するからだ。
それにしても、吐き捨てられた影久は、面識がある面々にとっては想像するだけで気の毒になる。
「未成年なの?」と足立。
「18の女の子です。電車で痴漢に遭ったみたいで…。しかも普通とは違います」
「過激な痴漢?」
「足立さん、遠慮のない質問ね…」
「……………」
顔が真っ赤になる森尾は耳を塞ぎたかったが、再び足立に「ウブだ」と馬鹿にされそうなので我慢する。
「痴漢集団にやられました」
「痴漢集団!?」
姉川と森尾が思わず身を乗り出す。
「…つまり、数人が、通学中の彼女を四方八方取り囲み、触りまくったそうな…」
「うわ。最悪。そいつら磔になればいいのに」
「おいおい」
露骨に嫌悪感を剥き出しにした姉川をたしなめる森尾。
「なったよ。華ちゃんが被害者調べて報告してくれたおかげで」
一気に磔にされた被害者たちに同情できなくなった。
「だから犯人にたどり着いた、と」
足立は納得する。
「ええ」
羽浦がUならば、大きな収穫だ。
姉川が言った通り、ペルソナ能力を封じる使い手なら、早めに押さえておくべきだ。
「じゃあ、現実で縛り上げた方がこっちに有利じゃ…」
姉川は提案するが、夜戸は手で制する。
「彼女の親に電話したら、ここ数ヶ月家に帰ってないらしい。家出だって」
「はああ?」
姉川は頭を抱えた。
トコヨで捕まえられずにいられるのに、ウツシヨで行方を眩まされると打つ手がない。
「名前と顔が割れてるだけでもいいじゃない。あとで特徴教えて」
足立がフォローを入れ、「ところで」と続ける。
「…お父さんはどう? 様子」
姉川の一件で疑いは薄まったが、未だに気がかりのようだ。
「……相変わらずですよ」
相変わらず、足立達との繋がりを否定し続けている。
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