11:Not for me…
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11月7日水曜日、午前0時。
落合は繁華街の路地をうろついていた。
「時間なのに…、ここも違ったか…」
ここ数日、家を抜け出しては噂を頼りに夢路地を捜索を試みたが、見つけられずにいた。
夢路地が出現する場所は、何も一か所だけではない。
昨日も実際に思わしき現場に行ってみたが、午前0時を迎えても何も起きなかった。
兄の森尾が知れば、きっと叱られるだろう。
それでも、やるべきことができるのなら、役に立ちたかった。
「!」
路地の奥に進むと、男達が5人ほどたむろしていた。
足音で男達が落合に気付き、しゃがんでいた者は立ち上がり、まじまじと眺める。
「…お嬢ちゃん、こんな夜遅くに遊んでちゃ危ないんじゃねーの?」
全員、気分を害するような嫌な笑みを浮かべて落合に近づいてきた。
女装している落合は、困惑した顔でたじろぎ、「すみません」と愛想笑いを浮かべて謝ってみる。
「この辺治安悪いから、気を付けた方がいーよ」
「なんなら、俺達が送っていってやろうか?」
「あはは。大丈夫ですから。私、夢路地ってのを探してて…」
さりげなく探りを入れてみる。
「夢路地?」
「なんか噂で聞いた事あるような…」
男達は首を傾げる。
噂だけでは大した収穫にはならなそうだ。
誰でもいいから、その路地に行ったことがある者の情報が欲しい。
「捜し物なら一緒に探してやるよ」
先頭にいたひとりが、落合の手首をつかんだ。
「!」
力任せに奥へと連れていかれそうになった。
その様子を、路地の角から窺っていた人物が、見兼ねて動き出す。
同日、午後22時。
捜査本部には、足立、森尾、姉川の3人がカウンターチェアに座って昨日の報告をし合っていた。
「―――で、助けに入ったんだけど…」
姉川はクロスボウを片手に、男達に連れていかれそうになった落合を助けようとした。
だが、落合の方が行動は早かった。
スカートの内側に隠していた伸縮式の警棒を取り出し、男達をあっという間にのしてしまったからだ。
『ひぃ』
恐怖の一声を出したのは姉川だった。
『あれ? 華姉さん、どうしてこんなところに?』
少量の返り血を浴びて振り返った落合は、恐ろしかった。
クロスボウでも勝てない気がした。
姉川の体は思い出しただけで小刻みに震える。
「あなたの弟君、強いのね…」
「強いと言うより、容赦がねーんだ。我が弟ながら暴力沙汰起こさないかヒヤヒヤしてんだよ」
起こしかけたことがあるのだろう。
森尾は額に手を当てて悩ましげな表情を浮かべた。
「途中で抜けたと思ったら、落合君のとこに行ってたのか。用事があるっていうから…」
「ウチのクラミツハは、監視カメラを通してウツシヨを見ることもできるの。ちょうど繁華街に見知った子を発見して、つい、ね…」
範囲や見通せる数は決まっているが、その能力で駅のホームに落とされた夜戸を助けたこともあった。
「あいつは…。大人しくしてる奴じゃねーことは知ってたけどよ…」
イラついて前髪を撫で付ける。
「行動力があっていいとは思うよ。本当にこっちに引き込んじゃう?」
「冗談言ってんじゃねーよ、足立。あいつは巻き込まねェ」
(すでに自ら巻き込まれようと奮闘してるのにねぇ…)
口にしてしまえば今度は切れられそうだ。
「…そのことなんだけど、空君が男達を圧倒してる時に見えたの。傷痕」
「!」
「赤くはなかったけど…」
「…どの部分だ?」
森尾は冷静に尋ねる。
「えーと…、左…腰…かな。うん。利き手と反対側だったから間違いない。服の裾がひらめいた時に見えたの」
姉川の答えに、森尾はほっと安堵の息をついた。
「古傷だ。問題ねェ」
「何の傷?」
珍しい個所についていることが、足立は気になった。
「昔、家族で海に行って、あいつ、テトラポットで転んだんだ。バランスがうまくとれたって調子に乗っちまって…。わんわん泣いてたなぁ…」
父親と母親も含め、一緒になって慌てたものだ。
森尾は懐かしい思い出に目を細め、たまにその過去を話題に出せば「あの時はとても痛かった」「もうその話はやめて」と恥ずかしそうに言い返す落合を思い出した。
「…んんっ」
足立と姉川にニヤニヤと見つめられ、誤魔化すように咳払いをする。
「こんばんはー」
そこへ夜戸が捜査本部を訪れた。
「みんな集合さ~」
あとからツクモも入ってくる。
「夜戸さん、今日は遅かったんだね」
「仕事の都合で、いつもよりちょっと遠出してまして」
帰ってきたところだとか。
珍しく、片手には栄養ドリンクのビンが握られていた。
「弁護士と捜査を両立してるの、いつもすごいと思う」
姉川は感心した。
「なんの話してたの?」
「ああ、空君の腰に、傷痕があったって話ですよ。まあ、大丈夫そうなんですけど」
「傷?」
深刻でもなさそうに姉川に話され、夜戸は目を丸くする。
「あいつ、危ない目に遭う前にマジでいっぺん叱ってやろうかな。夜ならウツシヨの街にちょっと戻っても目立たねえだろ」
コブシを鳴らす森尾。
穏便に済ませるつもりはない様子だ。
「力づくはよくないんじゃない?」
足立はなだめるが、押し黙らせるように睨まれた。
「ここは兄貴としてだな…」
「まあ、凶悪犯罪者ってわけでもないし、街に出ても誰も脱獄したなんて思わなさそうだけど。……でもなんか職質されそう」
森尾の外見をじっくりと見てから姉川は言った。
「どういう意味だコラ」
「見たまんまですー」
深夜に目つきの悪い森尾が街をうろついていたら、警官の目に留まってしまうのではないか、という懸念が生まれた。
「僕のスーツ貸そうか?」
「いらねーよ!」
「ホストかその筋に見えそうだもんね。あはは」
「わかった喧嘩売ってんな? いっぺん表出ろこの野郎!」
足立のネクタイをつかんで揺する森尾。
「あ、でも2人の衣装チェンジ見たいかもっ。ツナギの足立さんとスーツの森尾君っ。2人ともスタイルはいいから撮り甲斐あるのよねー。足立さん、撮影の時は背筋を伸ばして」
カメラを構える姉川。
「なんとなく見たい」
「見たいさっ」
夜戸とツクモの目も輝いた。
「そういう話じゃ…。あれ!? なんの話してた!?」
「森尾君、いいからネクタイから手を放して。締まってる締まってる…」
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