00-6:Bad personality
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9月8日土曜日、憎らしいほどの快晴。昨日は雨だったのに。
どうせなら昨日の天気と入れ替えてほしいくらいだ。
普段の土曜日なら、いつも家に籠っているはずだった。
最悪、今日は体育祭。
あたしのクラスは緑組。
どちらかといえば好きな色だけど、涼しさなんて紛れるわけではない。
暑苦しさを伴った応援の掛け声、実況のアナウンス、スタートの合図の銃声、「だるい」「帰りたい」の声、笑い声…。
熱と音と砂埃が交錯した空間は、頭が痛くなる。
綱引きは青組に勝ったけど、赤組に負けた。
大縄跳びは15回は飛べた。
玉入れは、あたしは2個しか入らなかった。
徒競走は3位。
いい加減終わらないかな。
「つかれた」
リレーが終わり、やっと昼休みに入って自販機で飲料水を買いに行ったが、自販機の周りは生徒が並んだり溜まったりしていたので、買う気が一気に失せた。
「やってしまった…」
水筒を忘れなければ。
せめて日陰で休もう。
疲労より暑さに身体が燃え尽きそうだ。
校舎裏に移動し、生徒が少ないのを確認してようやく腰を下ろす。
幾分かマシ。
教室に移動してもよかったけど、ほとんどはクーラーを求めて集まっているだろう。
図書室は…、さすがに今日は空いてないかな。
足立先輩は赤組。
姿は何度か見かけたけど、話しかけるタイミングもなかったし、昼休みに入ったらどこにもいなかったし。
リレーでは、本気で走ってるふうには見えなかった。
でも、4位くらいかな。
よほどの負けず嫌いか、スポーツ少年でなければがっかりするような順位ではない。
やっぱりあの人もあたしと同じく、無駄な努力やクラスで目立つ行為は自然と避け、無難な立ち位置をキープしている。
「ふう…」
膝に額を当てた。
昼食の気分ではない。
太陽の光から隠れても、瞼の裏はチカチカするし、汗は流れるし、頭も少し痛かった。
保健室行こうかな。
なのに、立ち上がる気にはなれない。
「!」
首筋に何か当てられた。
驚いて顔を上げると、いつの間にか傍に人が立っていた。
「顔色悪い」
「先輩…」
右手に水の入ったペットボトルを持った先輩がそこにいた。
顔の前に突きだされた500mlのペットボトルを両手で受け取る。
先輩は隣に腰掛けた。
「熱中症になりかけてる。水筒は?」
「忘れました…」
「バカじゃないの? 今年の8月にスポーツ選手が死んでるってニュースで見てないの。それに君、普段はインドアなんだから暑さ対策しないなんて残暑ナメすぎ」
「はい…」
最も過ぎて縮こまってしまった。
それから「いただきます」と言ってペットボトルをの蓋を開けて口に含んだ。
少し温い。
でも、喉を鳴らして摂りこめば、身体に水分が染み渡った。
あれ? わりと減ってる。
半分まで減ってるけど、こんなに飲んだっけ。
「あ、飲みかけで悪いね」
「いえ、気にしないです」
思わず答えた。
飲みかけ…。
ようやく、頭が冴えてきた。
そして熱が上昇してきた。
汗が止まらない。
湯気が出そう。
なにこれよくわからない。
「ちょっと本当に大丈夫なの?」
「な…んとなく…」
顔を見られたくなくて両膝に顔を埋めた。
「いやいや、なんとなく、じゃなくて」
落ち着こう。
先輩が不審がってる。
「大丈夫ですから…」
あたしは、ペットボトルを自分と足立先輩の間に置き、顔を上げた。
「あ、そうだ。先輩、リレーの時、本気で走ってなかったでしょう?」
「あー、やっぱり君にはわかる? 夜戸さんだってそうだったでしょ」
あたしが走ってたところも見られていたようだ。
「まぁ…。とりあえず3位くらいで、って気持ちで…。元々、体育の成績も普通ですし、不思議じゃない順位ですよ」
「僕も。1位になったからって、何か貰えるわけでもないからね。勉強の方が楽しく頑張れるよ」
「楽しいですか?」
「ま、楽しいかどうかは置いといても、やった分だけ結果が自分に返ってくるのが、わかりやすくていい。団体で頑張ったって、ほとんんどチームの評価になるわけだし。こんなスポーツなんて、部活で鍛え上げられた奴の方が有利に決まってる。頑張るだけ無駄じゃない?」
「でも…、反感を買うのも面倒だからそれなりに、って?」
「わかってるねぇ」
先輩はいたずらっぽく笑った。
ここまで徹底的に協調性がないとは。
知ってた。
あたしも人のことを言えない。
あるように見せかけているあたしの方がタチが悪い。
「なのにさ、こんな暑い中走らせるなんて、学校側もどんだけ青春させたいんだって話だよね」
先輩の手が、ペットボトルに伸びる。
あたしは素早く両手を伸ばして取り上げた。
「え」
先輩は目を丸くしてこちらを見つめる。
「先輩…」
水泥棒みたいなことをしてしまったが、あたしは立ち上がり、ペットボトルを奪われないようにぎゅっと抱きしめた。
「あたし、新しい水買ってきますから」
「いや、その水でも…」
「買ってきますから!」
譲らない。
「ここで待っててください」と言って、自販機へ走った。
「夜戸さ…、うわ、速っ!」
久しぶりに、本気で走った気がする。
先輩には、いい意味なのか悪い意味なのか微妙なところだが、調子を狂わされる。
.To be continued