10:Trick or Treat
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「改めまして、トリックオアトリート~」
結局、落合も姉川に着替えさせられ、赤ずきんの格好をしていた。
兄が狼男なので合わせたようだ。
本人は可愛い格好に満足げだ。
手前から、落合、森尾、ツクモ、足立、夜戸、姉川と席が決定した。
6席のカウンターチェアが埋まり、カウンターにはたこ焼き器が2つセットされていた。
「で、何でたこ焼き?」
熱されたたこ焼き器を上から見下ろす足立に、姉川は「フフン」と鼻を鳴らし、立ち上がってカウンターの内側へと移動した。
夜戸もそれに続く。
カウンターキッチンに置かれたボウルには、すでに使用する生地を仕上げてあった。
足立はわずかに身を乗り出して確認するが、たこ焼きに必要なタコどころか、紅ショウガやネギもなかった。
「いきまーす」
姉川はカウンター側から生地をたこ焼き器に投入する。
同じく夜戸ももう一つのたこ焼き器に流し込んだ。
ジュウ、と音を立て、甘い香りが室内に漂う。
「甘い匂いさ~」
「これは…」
森尾も鼻をひくつかせた。
どこかで嗅いだことのある香りだ。
確か、夏祭りで。
「…ベビーカステラみたいな…?」
「ピンポーン」
言い当てた落合に、姉川は指を指す。
「あ、そっか」
足立は手を叩いた。
「簡単ですぐに作れるし、お好みを中に入れたり、外側につけることもできるってわけ」
姉川は生地が固まる前に、カスタードやチョコを入れていく。
あとはハロウィンらしく、レンジで温めて柔らかくした小口のカボチャも忘れない。
夜戸はホイップを皿の淵に搾って載せた。
「そろそろいいですね」
姉川の見よう見まねでひっくり返していく。
まだ少し黄色い。
「まだ早いんじゃない? もうちょっと置いてみなよ」
足立は熱が通ったものを見極め、夜戸からもらった竹串でひっくり返した。
ちょうどいい焦げ色だ。
森尾と落合も、焼き具合を確認しながらひとつひとつ小皿に載せていく。
「ほれ」
森尾はひとつ取り、ホイップをつけてツクモの口の中に入れた。
熱くて一瞬驚いたツクモだったが、
「美味しい~っ」
初めての味に感動しながら頬張った。
「懐かしい味ー」
落合も、昔、両親と兄で行った夏祭りを思い出しながら食べる。
「ふわふわ…」
カスタードが入ったベビーカステラを口にした夜戸は、その出来立ての触感を味わった。
試しにハチミツやメープルシロップもかけてみる。
こちらも抜群に美味しい。
コーヒーを追加で作ろうとした時、
「ハロウィンだけど、夏祭りの気分になりません?」
手慣れた手つきでひっくり返しながら、姉川は夜戸と足立に感想を求める。
「夏祭り…。直に行ったことはないかも…」
手を止めた夜戸は思い返してみるが、遠くで祭囃子が聞こえた記憶しか思い出せない。
「僕は昔から人ごみ嫌いだったしねぇ…」
しみじみと言って、指に付いたホイップクリームを舐める。
「2人とも、いっぱい食べて。もっともっともっと」
半泣きの姉川は、夜戸と足立の小皿にタワーのようにベビーカステラをどんどん積んでいき、生地を追加した。
「積み過ぎっ」
足立は小皿を遠ざけてストップをかける。
「事件解決して、森尾君も足立さんも出所したら、みんなで夏祭り行こう!」
全員が一度食べるのを止め、言い出しっぺの姉川に注目した。
「みんなで…?」
不思議そうな表情で夜戸は反芻する。
「そ。みんなでです」
姉川は力強く頷いた。
「…まだ判決も出てないのに、気が早いね」
足立は呆れるように笑った。
姉川は頬を膨らませ、竹串を向ける。
「もしもの話くらい付き合ってよ。ちゃんと出所できるように、心構えもしておいて!」
「えー。出所とか絶対遅いよ、僕」
「…待ちますから」
優しい声色に、足立の視線が夜戸に移る。
夜戸も足立を真っ直ぐ見ていた。
「行きましょう、夏祭り。あたしも頑張りますから」
「…あー、そうだ。優秀な弁護士さんがいたね、僕には…。祭り…か、考えた事なかった」
「人ごみ嫌いでも無理やり連れてってやるからな」
森尾は咀嚼の続きをしながら、意地悪な笑みを浮かべた。
「ボク、浴衣はどっち着ようかな? 女用と男用」
落合は両手で頬杖をつきながら、考え込む。
「どっちも見たいし、どっちも撮りたい」
想像した姉川はカメラを構えた。
「……………」
ツクモは羨ましそうな眼差しで、楽しそうな面々を見つめる。
「当然…、ツクモもいっしょ」
そう言ったのは夜戸だ。
「ツクモも…?」
「まず間違いなく子守しないと、目移りして迷子になると思う」
足立は、屋台が立ち並んだところにツクモを放り込んだところを想像してみた。
途端に頭が痛くなる。
屋台を見て回っている途中で、屋台の景品としてとっつかまってしまうのではないか。
「確かに」
同意して森尾が笑い、落合と姉川も笑った。
「子ども扱いしてほしくないさっ」
ツクモは足立をポコポコと叩く。
相変わらずまったくダメージはない。
ツクモ自身も理解している。
だから、今回は照れ隠しだと感じられた。
「夏祭りもだけど、またハロウィンもしたいなぁ。他にも行けるだけイベントも行きたいっ」
姉川はケータイでカレンダーを確認しながら今から楽しみな様子だ。
夜戸は目を閉じ、瞼の裏に光景を浮かべてみる。
足立達と一緒に、姉川が着つけてくれた浴衣を着て、夜戸はツクモが祭り客に踏まれないように抱っこして守り、祭囃子に包まれながら屋台が立ち並ぶ道を歩き、遠くからでしか眺めたことがなかった夜空の大輪を間近で見上げるのだ。
いつか…。
(まるで夢物語みたい…)
寂しげな笑みだけがこぼれる。
頬杖をつく足立は、誰にも気づかれず、視線でそれを静かに拾った。
.To be continued