10:Trick or Treat
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
10月31日水曜日、午後22時。
足立は捜査本部を訪れた。
「あれ? 誰もいないの?」
夜戸達どころか、捜査本部を作ったツクモもいない。
こういう1番乗りの時は、たまにある。
全員が集合するまで、また仮眠でもとろうかと考えた時だ。
「お」
手前のドアから左側奥に、見覚えのないドアを見つけた。
「新しい扉発見伝」
記憶を振り返ってみるが、ツクモからは何も聞いていない。
「また改築したのかな?」
危険な雰囲気はまるで感じさせない、木製のドアだ。
念のため、捜査本部のウォールハンガーにかけた自身のジャケットからリボルバーのみを取り出し、握りしめたままドアに近づいた。
ドアノブをつかんでゆっくりと回してみる。
鍵はかかってないようだ。
「よし」と一呼吸置き、勢いよく一気に開けた。
「あ」
リボルバーを構えようとした手を途中で停止させる。
「「え」」
そこにいたのは、夜戸と姉川だ。
下着姿の夜戸に、姉川が丈の短いドレスのような服を着せようとしているところだった。
扉の向こうは、脱衣所になっていた。
奥の扉は浴室となっている。
「……!?」
さすがに夜戸ははっとして姉川が持っていた服を奪って体を隠す。
それより先に姉川は険しい顔で足立に突進していた。
「ケダモノォ!!」
バチーン!!
腰の入った強烈なビンタだった。
数分後、森尾が捜査本部を訪れ、頬を赤く腫らした足立から事情を聞いた。
「ラッキースケベだ」
恨めしい目で見られた。
「ラッキーならこんな渾身のビンタ喰らってないよ。スケベも違う」
未だにヒリヒリと熱を持つ頬を撫でる。
足立と森尾は、カウンター席に座りながら夜戸と姉川が脱衣所から出てくるのを待った。
「おまたせー」
10分ほど経過してから、夜戸と姉川が脱衣所から出て来た。
「はぁ…」
何度も着せ替えられたのだろう。
夜戸は心なしかぐったりしていた。
丈の短い黒と赤のドレスを着せられ、黒のマントを纏い、頭には魔女の帽子を斜めに被っている。
姉川も、メイクを変え、頭にはネコミミを付け、手足には肉球付きの手袋をはめ、ピンクと紫のボーダー柄のキャットドレスを着ていた。
そこで足立は今日が何の日か思い出した。
「今日はハロウィンか」
「正解っ。夜戸さん、あとで衣装交換しましょうっ」
「うんうん…」
曖昧に頷く夜戸は返答にも疲れ切った様子だ。
それでも丈の短さが気になって、何度か引っ張っている。
逆にその動作で、足立と森尾の視線を引きつけてしまう。
「華ちゃん、ズボンか何か履かせて…」
無表情だが、精一杯の懇願だ。
「何言ってるんですかー。似合ってますよ、すごく! 次は白雪姫か、セクシーゾンビもいいかも!」
コスプレ趣味全開の姉川の脳内は、ファッションショー状態だ。
カメラを構え、四方八方から夜戸を撮影する。
「イイですよ! そのまま裾を指でつまんで!」
(タスケテクダサイ…)
夜戸の目から完全に生気が消えた。
「ホント似合うな。そして美脚」
森尾は小声で言った。
「あんまりジロジロ見ないであげて。死にそうだから」
そう言いながらも視線は何度か夜戸に移る。
新鮮な光景だったので、見なければもったいないという思いがどこかにあった。
「そこの男子2人も、せっかくだからコスプレ手伝ってあげようか? 色々持ってきたの」
姉川はカウンター席に振り返り、ニヤリと笑ってカメラを構える。
「僕は「男子」じゃないから」
「それ言ったら俺もだっつの。っていうか、だいぶここに馴染んだな、姉川も」
夜戸達のおかげで欲望の暴走を制御した姉川は、トコヨを利用して撮影した写真をすべて破棄し、森尾の時と同じく協力を志願してきた。
探知型の協力は願ってもない話だ。
加えて、現実での彼女の情報収集能力は、夜戸も保証するほど心強いものである。
全会一致で姉川の加入が決定した。
「森尾君森尾君、一応ウチは君より年上なんだけど? 随分とエラそうね」
「1コ違いなだけだろっ」
敬語へ正そうとする姉川だったが、森尾は拒否した。
足立は苦笑混じりに言う。
「姉川さん、気にしない方がいいよ。この中で1番年長の僕に対してもこんな感じだから」
「…あたしにだけ敬語って…」
「あ、いや、夜戸さんは、ほら…っ、弁護でお世話になりますし…っ」
ひとりだけ違うことを気にする夜戸に、森尾は焦りながら言い訳を考える。
((わかりやすい子…))
足立と姉川は同時に思った。
「そんなことより森尾君、吸血鬼と狼男、どっちがいい? それともフランケン? ミイラ男?」
「わー、定番」
「俺はやらねぇぞ!」
数分後。
脱衣所から、犬耳付きのフードと尻尾のついた前開きのパーカーを着せられた、げんなり顔の森尾が出て来た。
ビス付きの黒の首輪を首につけ、狼男らしい爪とファーのついた手袋をはめている。
「…いいんじゃない? 似合う似合う」
足立は背中を向けながら言った。
「おい足立てめぇこっち見ろ」
震える足立の体。
「笑ってんだろーが!」
「足立さんもどうです? 吸血鬼…、うーんミイラも…。あ! 警官ゾンビとか!?」
「……警官…ゾンビ…」
夜戸は想像してみる。
ポリスハットを被り、交番に立っているような警察官の格好、本来は生地が青のところを赤にして、ゾンビという設定を追加させるなら、顔には傷メイク、服も少々ボロボロに…。
悪くない、と頷いた。
「あー、待って待って。ちゃんとやるから…」
メイク道具を両手ににじり寄ってくる姉川に、足立は席を立って手前のドアへと足を向ける。
「どこ行くんですか?」
夜戸が尋ねると、「すぐ戻るから」とだけ残して行ってしまった。
「あいつ逃げたんじゃねーだろな?」
森尾は扉を睨む。
「逃げ場ないでしょ。文字通り」
姉川は足立が戻ってくるのを、森尾の隣の席に座って大人しく待つことにした。
それから2分も経たないうちに、足立が戻ってきた。
頭からシーツを被り、両脚だけが隠す気もなくはみ出している。
「あり菓子よこせ~」
「「ナメとんのか!!」」
姉川と森尾の声が被った。
同時に、バン、とカウンターテーブルを叩いて立ち上がる。
「えー、これもオバケでしょ?」
「やかましい! 幼稚園児でも思いつくわそんなもん! もっと凝ったのやれよ!」
「適当かい!」
吠える狼男。
毛並みを逆立たせるネコ。
「僕が凝り過ぎたのやったら引くでしょー」
シーツオバケが肩を落とした。
(なんとなく、カワイイ)
魔女には好評だ。
.