00-5:No He does not
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8月13日月曜日、終業式の日以来だろうか、久しぶりに外へ出た。
部屋にいる時よりも辺りに響き渡る蝉の声が騒々しい。
真夏の空は真っ青で、降り注ぐ日光は、じりじりと皮膚が焼くような暑さだ。
日焼け止めを塗ってきても焦げてしまうのではないか。
せめて太陽を蓋してくれる雲があればよかったのだが、今日に限って太陽に休む暇はないようだ。
去年は半日中曇りだったからマシだったのに。
「暑いわね…」
隣を並んで歩く母も、涼しげな白の日傘を差して、ふう、と息をついた。
母は、頭にネイビーのリボンがついたカプリーヌハットを被り、長袖の白のワンピースを着ていた。
よく似合っていると思う。
あたしといえば、クローゼットから、ノースリーブで爽やかなグリーンの生地に白い花柄が散らばったワンピースを引っ張り出して着てきた。
5センチのヒールつきのサンダルは、母がこの日の為だけに買ってきてくれたものだ。
履き慣れないので足を痛めそうだが、今のところ足下は楽で涼しい。
変な日焼けにならないように、足の甲にも念入りに日焼け止めを塗ってきた。
あたしと母は、照り付けるアスファルトの緩やかな坂道を上がっているところだ。
家を出て15分ほど歩き、目的地まであと5分といったところか。
敷き詰められるような住宅も、点々としてきた。
歩行速度でわかったことだが、だんだん、母の足取りが重くなってきている。
きっと、坂道のせいだけではないはずだ。
「母さん」
「大丈夫…。暑さにちょっと参ってるだけだから…」
母は心配をかけないように笑った。隠さなくていいのに。
去年も、残り数分で目的地が近づいた時、母の歩行は徐々に低速になった。
あたしは手を差し出し、母が持っているものを持とうとしたが、首を横に振られて断られた。
わずかに歩調が戻る。
そしてやってきたのは、丘の上にある、霊園だ。
墓参りの時期であるため、あたし達の他に、墓参りに来ている人間がちらほらといた。
「!」
霊園の奥を進み、目的の墓石の前に花束が添えてあるのを見つけた。
「これ…」
水鉢・花立に挿されず、そのまま墓石に優しく寄り掛かるように置かれてある。
花の種類は、ヒマワリ。
12本にまとめられていた。
「…昌輝(まさき)ね」
母にも、あたしにも、わかっていた。
「おじさん…」
母の弟で、あたしの叔父。
今年もあたし達より先に来たようだ。
去年もおととしもその前も、毎年この花束を添え、挨拶もせずに去っている。
「好きな花、覚えてるのね…」
母は腰を落としてそっとヒマワリに手を添え、微笑んだ。
あたしは肩を落とした。
「挨拶くらいしていけばいいのに…」
最後に会ったのは、葬式以来か。
『悪い夢なんて、この子が食べてくれる。……明菜、――――?』
昌輝おじさんは、いくつかの質問で頷いたあたしの頭を撫で、あのぬいぐるみをくれた。
今でも大事に持っている。
「父さんは、まだ、おじさんを許してないの?」
「……そうね…。話題にもさせてくれない…」
母は寂しげに目を伏せた。
ヒマワリにつられて真上を見上げ、太陽の眩しさに目を細めた。
光に照らされた墓石に手を当てると、焼けるように熱かった。
先に冷たい水をかけてあげなければ。
「暑いのは苦手でさ」っておでこに汗を浮かばせながら言ってたのを、ふと思い出した。
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