09:The only reality
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10月22日月曜日、午後22時。
「あ」
捜査本部を訪れた足立は、テーブル席のソファーで横になっている#夜戸を見つけた。
外されたメガネは、テーブルに置かれてある。
前にも見たような光景だが、今回は夜戸も起きていた。
身を起こし、「こんばんは」と挨拶する。
枕にされていたツクモも、寝惚けた顔で起き上がった。
「もうこっちに復帰して大丈夫なの?」
「はい…。休んでしまってすみませんでした」
「いやいや、こっちの方は仕事じゃないんだから。まさか金曜日のあのあと、本業に行ったんじゃないよね?」
姉川に蒸し返された過去に触れて倒れたあと、足立と森尾がウツシヨに帰るギリギリまで、捜査本部のソファーに寝かされていた。
足立はその身体に自身のジャケットをかけ、ツクモは自ら枕になり、森尾は不安感を和らげるためにミネラルウォーターを沸かして白湯を作ってあげた。
それから少しして、顔色と落ち着きを取り戻した夜戸は、足立達に礼を言ってから起き上がり、足立達もなぜ倒れたのか理由は聞かず、一旦解散した。
「……予定の裁判があったので…」
「えっ。無理して行ったの? まともにできた?」
「終わったあとのその日の記憶がないです……」
金曜日の日中は弁護士の仕事だ。
風邪を引いてるわけでもなかったので、夜戸は仕事に出向き担当の裁判を終えたあと、タクシーを使って家路につき、その日の集中力をすべて出し切った身体は泥のように眠った。
しかし、土曜と日曜は体調を崩し、月子の看病を受けながら弁護士の休日を過ごした。
仮眠をとって体調を整えてから、夜戸はテーブル席からカウンターへと移動する。
「今日ぐらいコーヒー作るのやめたら?」
「あたしが飲みたくなったので作らせてください」
数分経ってから、森尾が訪れた。
コーヒーの匂いに鼻をひくつかせる。
「あ、夜戸さん。もう大丈夫なんスか?」
「ええ。心配かけてごめんなさい」
ちょうど人数分のコーヒーが入ったところだ。
足立とツクモはすでにカウンター席に着席している。
森尾は足立と挟むようにツクモの左隣に座った。
「あたしが土日に来なかった間、何か変化は…?」
「僕とツクモちゃんと森尾君で探索には行ったけど、こっちの動きを把握されてるのか、相手とはまったく遭遇できなかったよ」
「そうですか…」
夜戸はカウンターから出て来て、足立の右隣に座る。
「……………」
森尾は夜戸の横顔を見つめながら、土曜日の夜の事を思い出した。
金曜日に訪れた住宅街を探索中、森尾は足立に尋ねた。
『足立、17年前に夜戸さんに何があったのか知らないのか?』
『僕と夜戸さんが初めて会ったのは、10年前だよ。それ以前に、僕達は互いにそこまで干渉する仲じゃなかった…。常に、適度な位置にいたからね。僕だって深く踏み込むのも踏み込まれるのも嫌いだったし』
『……………』
『ただね…。「誰」の事を持ちだされたのか、見当はついてるんだ。僕が出来事を詳しく知らないだけ』
『誰の…ことなんだ…?』
『…………――――』
足立は、呟くようにその人物を口にした。
「森尾君?」
「えっ。あっ」
きょとんとした顔の夜戸が、じっと見つめたまま茫然としていた森尾に声をかけた。
森尾ははっと我にかえる。
「見すぎじゃない?」
足立はニヤニヤとしていた。
「そ、そんなに見てねーよ!」
意味深なことを言われ、森尾の顔が真っ赤になった。
「ツクモを挟んで言い合いしないでほしいさ~」
カフェオレを堪能しながらツクモが言う。
「あー、そうそう。夜戸さんが戻ってきたことだし、ちょっと僕の意見を聞いてほしいんだよね」
「意見?」
立ち上がりかけた森尾は、座り直して足立の言葉に耳を傾ける。
「うん」
頬杖をつきながら、足立はソーサーに載せられてあった未使用のスプーンを手に取り、先端でカップの縁をなぞりながら話し出した。
「夜戸さんのおとーさんは、一連の事件には関わってないのかもしれない。全部無関係とは言い切れないけど、少なくとも黒幕ではないかも」
「…どうして突然…?」
夜戸が促す。
遠慮なく疑っていたのは足立だ。
「姉川さん、だっけ? 彼女は、夜戸さんのおとーさんを窮地に陥れようとしてる…。おかしくない? よっぽど鈍い奴じゃないと、誰が自分を恨んでるかもしれない人間に力を与えるのさ。寝首掻かれるよ」
「た…、確かに…」
森尾も頷いた。
黒幕が夜戸影久なら、現実の自身の首を絞めているようなものだ。
「僕は、夜戸さんのおとーさんはシロだと考えてる」
くるん、と指で回されたスプーンが、忽然と消えた。
「でも、根拠はないけど、利用はされてるんじゃないかとは思うんだよねぇ…」
コブシを握りしめて振って再び開くと、今度は、ケーキを食べるために夜戸が持ってきた小さなフォークに替わる。
「夜戸法律事務所が関わってるのは確かだし…。裏で誰かが糸を引いてるんじゃないかって…」
フォークが指でくるんと一周すると、いつの間にかスプーンに戻った。
「どう思う?」
スプーンの先を森尾に向ける。
「てめぇが途中から始めた手品のせいで、話が頭に入ってこねぇっつーの!」
「すごーい! アダッチーどうやったのさ!?」
「???」
森尾とツクモと夜戸は、足立の手元を凝視しながら驚きを隠せずにいた。
「ちょっとー、人の話はちゃんと聞いてよ」
口を尖らせて拗ねた表情を浮かべる足立は、右手のひらにスプーンをのせたまま、左手のひらで叩く。
両手が開かれた時、スプーンは再び消えた。
「「おー!」」
森尾とツクモは目を輝かせる。
夜戸は小さく拍手していた。
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