08:I feel like I'm being smothered
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
10月19日金曜日、午前0時。
夜戸達は、トコヨの街を探索していた。
住宅街を歩き、途中ではぐれシャドウに遭遇することはあったが、
「イツ」
「イハサク!」
「マガツイザナギ」
イツの疾風、イハサクの氷結、マガツイザナギの雷撃が一気にシャドウ達を殲滅した。
ペルソナ使いが多ければ一掃も早い。
「ちょっと。重いんだけど」
足立は、頭の上にのったままのツクモの背中をつかんで引き剥がそうとするが、しっかりとしがみつかれていて離れない。
足立の頭がもげそうになる。
「ごめんって、ツクモ」
夜戸に千切りにされかけ、歩く気力を失うほどのトラウマを覚えたようだ。
夜戸は両手を合わせて何度も謝っていたが、なかなか立ち直らない。
頭から降りる時は、シャドウを倒して落ちた仮面の破片を食べる時くらいだ。
食べ終われば再び足立の頭に戻る。
「しばらくキャベツなんて見たくないさ…」
「包丁の傍にいたお前も悪いだろ」
森尾がもっともな事を言う。
「モリモリはどっちの味方さ」
「やめろ。モリモリ呼び」
「モリモリ君、パス」
「てめぇはもっとやめろ!」
あだ名に便乗してきた足立が森尾の頭にツクモを移そうとしたが、森尾はツクモと足立の顔面を押し返して拒否する。
「ツクモ、もう間違えないから…。本当に、ごめんなさい。今度、美味しいケーキを買ってきてあげる」
夜戸は合わせていた両手を広げた。
「明菜ちゃん…。ツクモもそこまで怒ってないさ~」
優しい対応に心を打たれ、ツクモは感動の再会のように夜戸の胸に飛び込んだ。
再び抱きかかえたモフモフに、無表情のままだが夜戸の周りに花が咲いたように見える。
「ずるい…!」
森尾は遠慮なく胸に顔を埋めるツクモを睨みつける。
「女の子同士なんだからいいじゃない」
ようやく頭の重みから解放され、足立は首を回して骨を鳴らした。
「わかりにくいんだよ、あいつの性別!」
「君の弟も似たようなもんでしょ…」
ツクモとは逆に、弟の落合空は本来の性別を忘れてしまうほど女子の格好が似合っていた。
『兄さん、サイズぴったりなパンプスを買ったんだけど、上の服は、シャーベットカラーとネイティブ柄、どっちがかわいいと思う?』
「う…っ」
パンプスというワードから躓いた過去を振り返り、森尾は頭痛を覚えた。
「パンプスって何だよ…。かぼちゃかよ…」
「パンプキンね、それ」
「パンプスってのは、今、夜戸さんが履いてる靴のことよ」
「ああ、夜戸さんが…」
答えたのは、聞き覚えのない声。
足立と森尾がはっと声の方向に振り返ると、ツクモを抱える夜戸の背後に、人影が立っていた。
「夜戸さん!」
足立が声をかけた瞬間、人影は後ろから夜戸に抱き着いた。
「!?」
「夜戸さん久しぶりです~!!」
「うわっ」
手を放されたツクモは、地面に落ちてコロコロと転がる。
足立と森尾は呆気に取られていた。
友人同士の微笑ましい再会の様子だったからだ。
「い…、いつの間に…」
起き上がるツクモは、気配を感じ取ることができなかった。
「…華ちゃん?」
青のオーバーオールの下にピンクの長袖シャツ。
頭にはブラウンのターバン風帽子。
赤みがかった横髪。
首にかけられてあるのは、愛用のレトロ風な一眼レフカメラ。
身長は夜戸より数センチほど高い。
間違いなく、姉川華だ。
最後に見せた涙なんてなかったかのように、白い歯を見せて人懐っこい笑顔をしている。
「ウチのこと、探しに来てくれたんですね。ずっと見てましたよ、夜戸さん達のこと」
「「!」」
足立と森尾は武器を手に、警戒する。
姉川の視線がそんな2人に移った。
「どっちと付き合ってるんですか? 夜戸さんも隅におけませんねぇ。脱力系と見せかけて実は切れ者の足立透さん? それとも、ヤンキーだけど恋愛はピュアそうな森尾嵐君?」
「誰がピュアだコラァ!」
顔を真っ赤にして否定する森尾。
「まず僕たちの名前知られてることに驚こうよ」
足立はリボルバーを構えて姉川から目を逸らさずにつっこんだ。
「……………」
黙ったままの夜戸に、姉川は一度離れて夜戸の肩をつかんで自身と向かい合わせたあと、両手を握りしめる。
「夜戸さん、ウチとこの世界に留まりませんか?」
「…え?」
「ここなら、現実よりも面白いものが撮れます。夜戸さんも一緒に楽しみませんか? 退屈しのぎの相手がシャドウしかいなくて寂しかったんですよ」
無邪気に誘ってくる姉川の見開かれた目は、金色を纏い、夜戸の顔を覗き込んでいた。
左の前腕には、赤い傷痕が見当たった。
.