00-4:Call me
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7月16日月曜日、昼休みの、クーラーの効いた図書室のいつもの席で、あたしは一度手を止めて「そういえば」と切り出した。
「気付けば、もう夏休み前ですね。ここまでお世話になってます」
ぺこりと頭を下げる。
「きっと2学期が始まっても、夜戸さんはここに来るんだろうね…。3年になって後輩の面倒を見るはめになるとは思わなかったよ」
足立先輩はどこか諦めたように言って、窓の外に目を向けた。
「先輩は、夏休みはどうするんですか?」
「とりあえずは塾かな。僕も受験生だから悠長にしてられないし…。1年生の君は? 家族旅行? 海とかプールで馬鹿みたいにはしゃぐの? お祭りでぼったくり屋台巡り? 人がゴミのような密集地帯の花火大会? それとも虫取り?」
「どれも経験はありませんが、人の頭を踏みつけてさらに見下すような言い回し、やめません?」
適当に、頭に浮かんだ遊びほうけた夏休みを言ってみたのだろう。
さすがに虫取りはない。
あと、サボテンみたいに言葉をトゲまみれにした発言もやめてください。
後ろの席にいる夏休み計画中の生徒達に聞こえてないだろうか。
「あたしは例年通り、家にこもって涼しい部屋の中で楽しく勉強しますよ。優雅な夏休みでしょう?」
塾にも行かせてくれないのだから。
「…窮屈そうだね」
「お互いさまです」
「家族は遊んでくれないの?」
「両親はどっちもそんな暇ありませんから」
「ふーん。きょうだいとかは? まず、きょうだいいるの?」
「いますけど。遊べません」
先輩は、「いたんだ」と目を丸くした。
勝手に一人っ子だと思われていたようだ。
「1年の時からそこまでして、何かなりたいものでもあるの?」
「弁護士です」
即答した。
我ながら言い慣れている。
「弁護士? 何で?」
「父も弁護士なんですけど…」
「憧れてるからとか?」
「いえ…」
そんな理由じゃないのは確かだ。
「なんとなく…」
「はっきり答えたクセに曖昧だね」
「足立先輩は、将来のこと、決めてるんですか?」
「僕は…、とりあえず公務員かな…」
とりあえず、で簡単になれるものではないのはずだ。
「理由は?」
「正義の為、人の為に役立つ仕事を…」
「ウソ臭いです」
遠慮なくぴしゃりと言わせてもらった。
人の為とか言ってる人が、他人の手紙を感情のまま無惨に破いて捨てるわけがない。
「失礼な。まあ、ウソだけど。単純に、安定してるっていう理由もあるし…」
「一口に公務員って言っても色々ありますけど、特にこれっていうのは? 大学に入ってから決めるんですか?」
「…まあ、頭に浮かんだのは……」
先輩は、人差し指と親指を立てて拳銃の形をつくり、こちらに向けた。
「ケーサツ官? かな」
先輩のメガネが逆光してる。
「警察官が無闇に人に銃口向けてはいけません」
これはロクでもない志望動機の予感なので、あえて聞かなかった。
代わりの言葉を続ける。
「……もし、将来、先輩が裁判沙汰になった時は、あたしを呼んでください」
「ホント、失礼な後輩。でも、冤罪だったら頼もうかな。敏腕弁護士になっててよね」
お互い冗談のつもりで言い合っていた…はずなのに、たとえもしもの話でも、未来のいつかに足立先輩と会えることがあるかもしれない、と考えただけで、足立先輩が無意識にでもそれを口にしただけで…。
「……今日は一段と暑いですね…」
無意識に漏らしたその言葉はとても小さくて、蝉の声にかき消されたかもしれない。
しばらく先輩とは会えない夏休みはすぐそこ。
けれど、なにも毎日が勉強漬けってわけじゃない。
忘れてないよ。
今年の夏も会いに行くからね…。
.To be continued