07:Tell me what you are thinking
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足立、夜戸、ツクモの3人は、森尾と落合を連れて捜査本部に戻ってきた。
トコヨに引きずり込まれた収容者達は、シャドウに捕まり、適当な雑居房にほとんどが押し込まれていた。
そこへツクモが駆けつけてペルソナを使い、シャドウを倒している間に、落合を連れて登場した夜戸と合流し、収容者全員ツクモの力で無事にウツシヨへと帰された。
手前から、落合、森尾、ツクモ、足立、夜戸の順番で、カウンター席の6席のうちの5席が埋まり、それぞれの前には、夜戸が作ったコーヒーが湯気をたたせて置かれていた。
「明菜ちゃんには先に、トコヨにも一般人を連れて来れる方法を教えてたさ。聞かれたから…。まさか本当に連れてくるなんて…」
「……………」
夜戸は一度ウツシヨに戻って拘置所近くの駅に落合を呼び出し、ツクモから教わった通り、駅の監視カメラに2人同時に映りこむように立ち、手を繋いでからトコヨに着信をかけ、一般人である落合をトコヨに連れてくることに成功した。
「俺は、罪を償わないと…」
「誰も傷つけたわけじゃないし、夢だと思うんじゃない? いいクスリくらいにはなったでしょ。これで2度とちょっかい出してこないと思うよ」
ああいう連中が痛い目に遭う事自体は悪い気分ではないのだろう、足立はそう言って小さく笑い、コーヒーに口をつけた。
口の中の傷が少し沁みて「イタタ」と眉をひそめる。
「……………」
足立達が止めてくれたから、そう言ってられるのだ。
森尾は「ありがとな…」と呟くように礼を言った。
「兄さん…、話してほしい…。どうして…、人を傷つけてしまったのか…。話し合おう…?」
森尾の隣に座る落合は、真っ直ぐに森尾の横顔を見つめる。
「……………」
森尾は視線を泳がせた。
未だに、躊躇している様子だ。
「言ってくれないと、何もわからない…」
そう言ったのは、夜戸だ。
全員の視線が夜戸に集中する。
「もういいでしょう…。ずっとひとりで抱えるつもりですか? 落合さんは、誰よりもあなたの味方ですよ? 目を向けてあげてください」
「……………兄さん…、お願い…、教えて…」
「……………」
森尾はゆっくりと口を開いた。
あの日の夜、フリーターの仕事帰りだった森尾は、通りがかりの公園で男達が騒いでいるのを見つけた。
高校生か、大学生か。
全員私服でわかりづらかったが、森尾には、20代には見えない幼さを感じ取った。
全員で6人。
その中のひとりが、地面にうずくまっていた。
ただひとりベンチに座る男は、それを見下ろしながら凄んだ。
『テメー、ふざけんじゃねーよ』
『ごめん…』
理由はわからないが、男の機嫌を損ねる何かがあったようだ。
周りの仲間達は助けようともしない。
笑ったり、呆れているだけだ。
森尾は顔をしかめる。
眺めていると気分が悪くなるだけだ。
面倒に巻き込まれる前にさっさと通過しようとした。
『金がねぇなら、親からかすめとってこいよ。嫌ならその辺で盗むか、脅すかしてこい』
『でも……』
『口答えするなら刺し殺すぞ』
声を荒げてポケットから取り出されたカッターナイフが目の端に映り、森尾の足が止まる。
それから踵を返して公園に入り、真っ直ぐに男達へと向かった。
男達は「怖ぇ」とか「早く行って来いって」と言って笑っている。
ヘラヘラと。
命令された男は、顔を真っ青にして「勘弁してよ」と情けない声を出すだけ。
『あ? なんだテメー』
傍観者気取りの男がすぐそこまで来た森尾に気付く。
答える前に、その男を突き飛ばして道を開け、
ゴッ!
ベンチに座っていた男を殴りつけた。
ベンチから崩れ落ちる男。
突然の事に、全員が固まった。
命令された男も目を丸くしたまま森尾を凝視する。
『物騒なモン出しながら簡単に「殺す」とか言ってんじゃねーよ。人を殺したことがあんのか、てめぇは? ああ!?』
いきなり現れてまくし立てる森尾に、男達の腰が引けている。
先程までベンチに偉そうに座っていた男は起き上がり、額に青筋を浮かばせて森尾を睨みつけた。
『いきなり何しやがる!? ブッ殺すぞ!!』
『「殺す」「殺す」やかましいんだよ!!』
ベンチに座ってた男が、他の男達を睨みつけ、アゴで森尾を指した。
合図だったのだろう。
命令された男以外、一斉に動き出して森尾に殴りかかった。
昔から喧嘩慣れしていた森尾は、腕っぷしだけで次々と男達を地面に転がす。
途中、ベンチの男が、カッターナイフを握りしめて森尾に襲いかかった。
威嚇だったのかはわからない。
ただ、森尾の目には、それが両親を切りつけた犯罪者に映った。
『振り回すのは、簡単だろうな…』
呟いて、手を出した。
『ぐぎゃあああああ!!』
下品な悲鳴に、森尾ははっと正気に戻る。
何秒間の出来事だったのか。
自身の右手が、いつの間にか奪ったカッターナイフで、返り討ちにしていた。
襲いかかっていた男に跨り、男の右肩にカッターナイフを突き立てている。
肉を抉り、途中で骨に貫通を邪魔されるリアルな感触が手から伝わり、滝のような汗が噴き出た。
遅れて、周りの騒然とする声や音が耳に入る。
誰かがどこかに電話をかけている。
命令された男も口を金魚のようにパクパクとさせて恐怖に顔を歪めていた。
ベンチに座っていた男は、涙と鼻水を垂れ流しながら苦痛のあまり嗚咽を上げている。
もみ合いになって誤って刺したのか、強引に奪って衝動的に刺してしまったのか、森尾にはわからなかった。
あの時の犯人は、どういう気持ちだったのだろうか。
答えの返ってこない疑問を頭に浮かべながら、やがて来るだろう、パトカーのサイレンを待った。
「あの時の俺自身が何を思って刺したのか、考えるのも怖かった。でも、俺の手で刺したことは事実だ。言い訳はしない」
だから、ずっと何も言わなかった。
落合にも言えなかった。
誰にも、自身の気持ちを代弁してほしくなかった。
「悪くない」なんて言ってほしくなかった。
「俺は、罪を犯した。だけど、あの犯人みたいに、誰にも庇われたくなかった。都合のいいように解釈されて、逃げたくなかった」
森尾の視線がおそるおそる、隣の落合に移る。
落合は、涙を浮かべてほっとした顔をしていた。
「兄さんは、あの犯人とは違う…。ちゃんとわかってるよ…。罪だって認めてる。それに、人を傷つけてしまったけど、あの場にいれば…」
あの場にいれば自分もきっと同じことをしていた、と続けた。
「同じだよ…。きょうだい揃って同じ目に遭ったんだから…。自分だけが、なんて思わないで…」
「空……」
2人は見つめ合い、表情を綻ばせた。
「夜戸さん…、森尾君の弁護をやろうと思ったのって…」
「ええ。思いっきりあたしの私情です」
小声で声をかけられ、夜戸はきっぱりと答えた。
「彼らは、お互いの内側を話し合った方がいいと思いました…。ここに連れてきたのも、同じ理由です」
「そっか…」
もっと早く話し合っていれば、森尾もひとりで背負い込むこともなかっただろう。
「いい妹さんでよかったねぇ、森尾君」
足立の発言に、夜戸、森尾、落合の動きが止まる。
「ん? 僕、おかしなこと言った?」
夜戸は、「あ、そういえば…」と漏らす。
「言ってませんでしたね。落合空さんのこと。彼、男の子ですよ」
「ええェっ!?」
足立は素っ頓狂な声を上げた。
「えええええェー!?」
同じく知らなかったツクモも仰天した。
落合は照れくさそうに笑う。
「あはは…。恥ずかしいです…。学校は普通にしてるんですけど、お出かけとかはこんなカッコで…」
「顔がおふくろに似てるから、寂しさを紛らわせるために始めたみたいなんだが、いつの間にかハマッちまったみたいで…。親戚のおばさんも気に入って可愛がってるし…」
森尾も呆れて言った。
「寛容な人だな…」
足立も笑みを引きつらせる。
「女装とコスプレが好きなだけで、ノーマルなんで。安心してください」
「男…。へぇ…。男……」
観察するように見つめる足立だったが、本当に男なのか怪しいほど見た目も仕草も女性らしいのだ。
メイクのスキルも侮れない。
「何がムカつくって、学校だとけっこうモテるんだよ、こいつ」
「女装のこと知られたら引かれるかな、とは思ってるんだけど…」
モテない、と否定しないところが憎い。
「夜戸さんは途中で男だって知っても平然としてましたね。おかげで、私…、ああ、ボクも普通に接する事ができましたし」
普段の一人称は「ボク」だ。
女装の時は「私」と使い分けている。
「単純に、かわいいな、と思ったので…」
夜戸も特に偏見はなかった。
褒められてまんざらでもない落合は、甘えんぼな笑みを向けて「明菜姉さんって呼んでいいですか?」と許可を求めて来た。
「え? いいですよ」
「やった」
これまた女子らしく両手で小さなガッツポーズをする。
「おいコラ空」
森尾のことはスルーして身を乗り出し、足立と視線を合わせた。
「えーと…足立…何さんですか?」
「…足立…透」
「じゃあ、透兄さんと呼ばせてください」
「えー。別にいいけど…」
相手を断りにくくする、にっこりとした笑顔だ。
森尾は我慢できずに思わず立ち上がる。
「空っ。何どっちの距離も縮めようとしてんだ!」
「これからお世話になるんだから。親密度あげてもいいでしょー」
森尾のことだが、捜査本部に来てから最初に足立達の事情を聞くと、「俺も協力させてくれ」と志願してきた。
足立は渋っていたが、「人数は多い方がいいだろ。世話になった礼もさせてくれ」と森尾に詰め寄られ、ツクモも「食べれないのは残念だけど、効率が上がるのはいいことさ」と承諾してしまった。
夜戸も反対する理由はなかった。
「お前はそうやって年上をたらしこんでいくよな! 天然たらし!」
「あ、明菜姉さん。別にボクに敬語とか使わなくていいからね!」
「空ーっ!」
カウンター席が、随分と賑やかになった。
「騒がしくなっちゃったなぁ…」
足立は大きくため息をつく。
「……そうですね…」
夜戸は残りわずかなコーヒーを口にしながら、足立の口元に描かれた小さな弧を見つめていた。
.To be continued