07:Tell me what you are thinking
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お前は呼んだつもりねぇんだけどな…」
金色の瞳が足立を見つめる。敵か味方か見定めているようだ。
「つれないこと言わないでよ。何をしてたの?」
足立は相手を刺激しないように、困ったままの顔で愛想笑いを浮かべた。
森尾は、決まってるだろ、と言うように鼻で笑う。
「制裁を与えてるだけだ」
「制裁?」
「ああ。だってよぉ、犯罪者共は罰されねぇと…」
バールで自身の右肩を軽く叩いたあと、足立の背後に隠れるように移動した男に向けた。
「ひっ」と男は縮こまる。
「罰を決めるのは、法だよ」
静かに言う足立。
森尾は大きく舌を打ち、バールの先端で足元を強く叩いた。
高い金属音が廊下に響き渡る。
「法なんざクソ喰らえだ…! ここでは俺が罰を決める! 俺だけの世界なんだからな!!」
望んでいた世界を手に入れれば、人はこんなにも狂喜するものか。
「ははは…。ちょっとちょっと、何様になったつもりだよ…。笑わせないでくれる?」
足立の笑いは冷ややかだ。
言葉には、苛立ちが混ざっていた。
「やかましい…。口出しすんじゃねぇ。庇い立てするなら、てめぇにも罰を与えてやろうか? その野郎を制裁してからな!」
改めて殺意を向けられた男はぎょっとして、身体をガクガクと震わせながら額を廊下に擦り付け土下座する。
「ひぃぃっ!! 俺が…、俺が悪かったよ!! 刑務官にも正直に話すから、許してくれよ!!」
「もういいんだよ、そんな芝居」
男の命乞いなどどうでもいいといった態度で、森尾はバールを頭上に掲げた。
「罰を与えろ…、イハサク」
召喚される、森尾のペルソナ―――イハサク。
頭には、ぐるりと細い黒のベルトが巻かれ、青の生地に高い円筒形のシャコーハットを被り、筋骨隆々の胴体には、黒のベルトがいくつも付けられた青の軍コートを着、襟を立たせて口元と鼻を隠しているため、グレーの肌と鋭い眼光を放つ瞳しか見えない。
後ろに束ねられた金色の長髪は、森尾と同じく肩にかけられている。
下半身は、膝から下が義足のような機械の両脚を持っていた。
赤の手袋が装着された手には、黒鉄製の戦槌(ウォーハンマー)が握りしめられている。
怪物の姿に、男は言葉も発せず見上げるだけだ。
「ッ…ッ!」
両手に持ち替えられた戦槌が、男の頭上へと振り下ろされる。
「ぎゃあああああッッ!!」
絶叫の男は恐怖で動けなかった。
「ペルソナ!」
戦槌と男の間に、マガツイザナギが割り込んで刃を払い、戦槌の柄にぶつけて軌道を変える。
ずらされた戦槌は、男のすぐ脇に落とされ、廊下にヒビを入れた。
「!?」
突然出現したマガツイザナギに、森尾は目を大きく見開いた。
「やりすぎじゃない? 死罪にするほどじゃない気がするけどなぁ」
「こいつ、気絶したさ」
ツクモは、土下座の体勢のまま泡を吹いて気絶したところを見届けた。
軽く体をつつけば、硬直した体が廊下に倒れる。
「足立…、お前…」
同じ力を使われて動揺していた。
すぐに攻撃してくる様子はなく、足立は、男を壁際まで引きずって巻き込まれにくい位置まで移動させたツクモに耳打ちする。
「ツクモちゃん、奥の様子見て来てくれる?」
「え!? ツクモが!?」
「たぶん、他の収容されてる人もここにいると思う」
駆けつける前に聞いた悲鳴で、何人かいることはつかんでいる。
森尾の意識がこちらに集中してくれれば、奥に取り残された他の収容者たちもツクモが救出してくれるはずだ。
「アダッチーは!?」
「あの子の相手しないと。ほら、行った行った」
背中をぽんぽんと叩き、促した。
「させるか…」
会話を聞いていた森尾は、数体のシャドウをツクモに仕掛ける。
ツクモはペルソナを召喚しようとしたが、
「!?」
向かってきたシャドウ達に雷撃が落とされた。
マガツイザナギだ。
隙ができ、ツクモは弾かれるように走り出し、一気に森尾の横を駆け抜ける。
森尾は持っていたバールを振り上げるが、足立が天井に向かって2発威嚇射撃をしたことで、動きを止めた。
「く…ッ」
「まあまあ、腹割って話そうじゃない」
銃弾を装填しながら、足立は挑発的な笑みを浮かべる。
「庇う必要ねぇだろ…! 何でてめぇが邪魔してくるんだ…!」
思い通りにいかず、苛立ちのあまり前髪を掻き毟る森尾は、ギロリと金色の瞳で足立を睨んだ。
「本気で潰すぞ足立ぃ…!!」
「やってみなよ」
イハサクが先制攻撃を仕掛ける。
大きく振りかぶり、戦槌を足立に向けて振り下ろした。
「!」
ドンッ!
足立が飛び退いてかわすと、足立が先程まで立っていた位置に戦槌が振り下ろされ、建物を揺らした。
さらに打たれた個所が一気に氷結し、鋭く大きな剣山のような霜柱が形成される。
余波を受け、足立のジャケットの裾が凍りつく。
(氷属性…!)
人間に当たれば致命傷だ。
氷霧が漂う中、足立はジャケットの氷を払い、白い息を大きく吐く。
「ねぇ、森尾君。仮に、君が犯罪者だと思う奴らに制裁を与え続けたとしても…、君の両親を殺した奴を含めてもだ…。それで、君の気は晴れるの?」
「両親」というワードに、森尾は「見たのかよ…」と窓ガラスを睨みつけた。
視線を足立に戻して答える。
「…晴れるに決まってんだろ。何で俺のような被害者が苦しんで生きて…、あいつらは塀の中で雑談しながらてめぇの犯罪を自慢し合ってる?「俺はこんな悪い事したんだ」、「それなら俺はお前よりも…」、「お前は?」…」
沸々と湧き上がる憤りとともに思い返したのは、独居房に移される前の、雑居房の記憶だ。
収容者達が耳を疑うような会話をしたことがきっかけで、神経を逆なでされた森尾は収容者達に殴りかかった。
「人を陥れたり傷つけたりした事がそんなに偉いことか? 殺してようが殺してまいが関係ねぇ…! 刑期さえ過ごせばいいなんて考えてる奴は、また何度も人を傷つける! 繰り返す前に全部罰してやる!!」
イハサクが戦槌を振るい、攻撃態勢に入る。
「へぇ~。何事も目標が大きいのは立派なことだけど…。そのこと、落合空って子に胸を張って言えるの?」
瞬間、森尾の顔色が変わった。
「そ……ら……?」
.