07:Tell me what you are thinking
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10月14日日曜日、午前0時。
「アダッチー!」
ツクモが足立のいる独居房にやってきて、布団で横になっていた足立の腰にタックルしてきた。
「治ったけど、腰にタックルはやめて」
ツクモの額を小突いて叱り、身を起こす。
欠伸が出た。
「そんなことより、侵入を確認したさ!」
「今度はどこ?」
「ここさ!!」
ツクモが振り返ると、独居房の扉が勝手に開く。
トコヨの場合、捜査本部の入口となっていたが、今は普通に廊下に続いている。
ツクモが来てからすでにトコヨにいるのだろう。
騒ぐツクモ以外、物音は一切聞こえなかった。
「明菜ちゃんにはすでに知らせてるさ。捜査本部にいたんだけど、なんか、用事済ませたらすぐに駆けつけるって…」
侵入が発覚してから言い出したので、ツクモはどうしたものかと困惑していた。
「何しに行ったんだろ…」と呟き、「あ」と足立は気付く。
「僕のジャケットとネクタイ、確か捜査本部に置きっぱなしにしてたよね…」
食器口を見ると、ツクモが持ってきてくれのか、畳まれたジャケットとネクタイがあった。
ここで着替えるのは最初に事件に巻き込まれて以来だ。
「アダッチー…、あんまり驚いてないさ?」
「そりゃ、そろそろだとは思ってたからね」
侵入場所が同じ拘置所だとしても驚きはしなかった。
この世界に踏み入れてしまった相手も、すでに見当はついている。
これで違っていたら逆に驚いて転倒してしまいそうだ。
ジャケットに袖を通し、ネクタイを締めた。
ジャケットのポケットに突っ込んでいたリボルバーを手に取り、シリンダーを確認し、扉から廊下へと出る。
刑務官はもちろんいない。
コツ、コツ、と廊下に足音が響き渡る。
「!」
静かな廊下を渡っていると、窓ガラスに映像が映し出された。
“親父…! おふくろ…!”
学生服の少年の前には、アスファルトに横たわる血まみれの両親の姿があった。
母親は呻き声を漏らしていたが、父親はピクリとも動かない。
場面は切り替わり、少年は法廷で叫んでいた。
“ふざけんな!! そいつは俺達の親父を殺したんだぞ!! 何で無罪なんだよ!? 未成年!? 心神喪失!? 知った事か!! やり直せよ!! そいつは犯罪者だぞ!!”
涙を流して叫んでいたのは、森尾だった。
当時の髪は、何も染めていない茶色のままだった。
場面はまた切り替わり、森尾の背中と、病室が映し出される。
髪を根元まで金色に染めていた森尾の前には、白い布を顔に被せられた、母親がいた。
事件から、後遺症が残り、何年も寝たきりになっていた。
“おふくろ…、俺達…、何も…悪い事してねぇのにな……”
映像が消える。
足立の視線は、窓から離れない。
「…法律って無慈悲だよねぇ。ルールに乗っ取っていれば、時には悪い奴の味方にまでなっちゃうから」
殺したいほど犯人が憎かっただろう。
かたき討ちが許されないのが現実だ。
だから警察に頼った。
犯人はすぐに捕まり、法廷で裁かれるはずだと期待していた。
なのに、法律は殺人犯を許してしまった。
無罪に加担したのは弁護士で、判決を下したのは裁判官だ。
どちらも感情があるはずの人間なのに。
森尾は、無事に逃げ切った憎い罪人を、ただ後ろで見ているしかなかった。
そして、代わりに罰を受けるように、母親も亡くなった。
「…な、なんか、寒いさ…」
「!」
奥から季節外れの冷気が流れ込んでくる。
冬と錯覚を覚えるほどの室温だ。
ふう、と吐いた息が白い。
「さーて、鬼が出るか、蛇が出るか…」
足立とツクモは先へと進む。
「や、やっぱり、明菜ちゃんの到着を待った方が…」
「そうしたいけど、どーも嫌なカンジがして…」
言いかけたところで、
「助けてくれええええ!!」
「うわああああ!!」
「「!?」」
遠くから、悲鳴が聞こえた。
バタバタと廊下を走る音が聞こえるが、まったく別の方角からだ。
「…ツクモちゃん、聞くけど、一般人がトコヨに入る事ってできるの?」
「ツクモと同じ力さ。領域主が同じ空間にいれば、引きずり込むことはできるはずさ」
「そういう大事なことは早く言いなって!」
足立は急ぎ足になった。
ツクモも急いで追いかける。
「アダッチー!?」
「急がないと死人が出るよ!」
「し、死人!?」
頭に浮かべている人間が、何をしようとしているのか。
足立は嫌な予感に駆り立てられる。
階段を駆け下りる途中、刑務官の格好をした仮面をつけたシャドウが出現し、リボルバーで次々と撃ちぬく。
ツクモは甲冑を纏い、イノシシのようにシャドウにタックルをかまし、階段から突き落として倒した。
「う、わ!」
床がわずかに凍っている。
危うく滑りそうになり、階段の手すりをつかんで踏み止まった。
「わかりやすいな」
分かれ道に当たってしまっても、より肌寒い方へ向かえばいいのだから。
2階に下りた瞬間、
「「!!」」
背後に、氷の柵が作られる。
後戻りができないようにされた。
ツクモは不安げな表情で震えている。
「怖いならそこにいなよ。僕は行くから」
「こ、これは寒さで震えてるだけさ。アダッチーの方がよっぽど冷たいさ…」
「夜戸さん、こっちに来れるのかな…」
遅れてやってきた夜戸の道中を気にするが、もう立ち止まっている状況ではない。
「だ、誰か…! 誰か…!」
何かがこちらに走ってくる。
足立とツクモは警戒した。
「…あれ?」
見た事がある人物だ。
運動の時間に、森尾に濡れ衣を着せた男だ。
今度は演技とは思えないような強張った表情を見せている。
「お、お前は…!」
男も、足立に気付いたようだ。
必死に逃走して疲れ切った様子で足立に近づき、胸倉をつかんで懇願する。
「お前でもいい! 助けてくれ! あ、あいつに、殺されちまう…!」
「他の人は? まさかもう殺されちゃった?」
「し、知らねぇよ…! 俺は必死に逃げて来て…」
「仲間を置いてきたさ!?」
「うわあ!? な、なんだこの生きモン!」
責める動くバクのぬいぐるみに仰天し、尻餅をついた。
足立は男が触れた部分を埃を払うように叩き、リボルバーを握りしめて廊下の奥を見据える。
こちらに誰かがゆっくりとやってくる。
足音がこだました。
「やっぱり君だったんだ、森尾君」
右手にバイオレットカラーの長いバール(釘抜き)を握りしめて現れた森尾は、足立の存在に気付くと、口角をつり上げた。
「よう、足立」
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