07:Tell me what you are thinking
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10月11日木曜日、午後18時。
繁華街の一角で、夜戸はブティックのショーウインドーに背をもたせ掛け、今朝連絡を受けた相手を待っていた。
「夜戸さん、お待たせしました」
右方向から声をかけられ、振り向く。
夜戸の視線が自然と相手の顔に上げられた。
「どうも」
担当する森尾嵐の弁護を依頼した、落合空だ。
先に夜戸に来られてしまった、とはにかみ笑いをする。
落合の身長は170センチ以上はあった。
スラリとスタイルもよく、ヒールのついたショートブーツを履いてるものだから余計に高く見える。
オレンジ色寄りの茶色のロングヘアがビル風でふわりと揺れた。
「私が選んだお店でもいいですか?」
落合は行きつけの店がある方向を指さす。
「ええ」
夜戸は頷き、落合と並んで店へと移動した。
案内されて入った店は、9割は女性ばかりだ。
店内にはウクレレのハワイアンなBGMが流れ、造花のハイビスカスやヤシの木が装飾されていた。
店員達も、黄色の半袖Tシャツを着て、首には花輪をかけながら仕事をしている。
夜戸と落合は奥にある2人掛けのテーブル席へと通された。
「お待たせしましたー」
コーヒーが来てからしばらくして、落合が頼んだ、5枚も重ねられた分厚いパンケーキが夜戸と落合の目の前に2皿置かれた。
頂上には大量の生クリームがのせられ、チョコやラズベリーのソースがかけられ、周りにはイチゴやキウイ、オレンジなどのフルーツもふんだんにのせられていた。
見慣れないものを目にして、夜戸は、フリーズしていた。
その反応に落合は小さく笑う。
「私のおごりです。遠慮なく食べてください」
そう言ってナイフとフォークを渡した。
「おごりだなんて…」
「気にしないでください。兄がお世話になるお礼くらいはさせてくださいよ。兄は、弁護士が嫌いで…、せっかく来てくれた弁護士さんたちを追い返しちゃうんですよ。快く引き受けてくれる人なんて、いなくて…。早く戻ってきてほしくて、できるだけ有名なところを選んでるんですけど…」
困ったように笑い、目を伏せる落合。
パンケーキの熱で、生クリームが端から流れ落ちるのを見届ける。
「……弁護士秘書付きだったけど、弁護士じゃなくて、一個人として面会室で会いに行った時、あなたの名前を出しました」
『あなたが、犯罪者と、それを庇う弁護士を嫌う理由は、落合さんから聞いてます。まさか、今こうして大嫌いな犯罪者扱いされて大嫌いな弁護士に庇われることになるなんて思いもしなかったでしょう。でも、勘違いしないでほしい。他はどうかは知らないけど、あたしは、あなたを庇うつもりなんてない』
『…?』
『あなたの真実を法廷に理解してもらい、正しい判断を下してもらう。あちらが勝手な言い分で悪いように事実を捻じ曲げてこようとするなら、あたしが真っ直ぐに戻す。ただ、それだけのことですよ。あなたの真実は、落合さんに顔向けできない後ろめたいことですか?』
「ふふっ。一昨日、面会で兄が言ってましたよ。「勝訴とか敗訴とか、どうでもいいってカンジの弁護士だった」って」
「父に怒られる発言ですけどね…」
夜戸はナイフでパンケーキを一部だけ切り取り、フォークで生クリームと一緒に、口に運ぶ。
「!!」
無表情の顔の周りがキラキラと光っているように、落合には見えた。
(これきっと喜んでるんだろーな…)
リアクションにニヤつきそうになる。
「面会の時、なぜあの時被害者たちに殴りにかかってきたのかは聞いてませんか?」
落合は小さく首を横に振った。
「やっぱり、ちゃんと話してくれません…。はぐらかされちゃって…、大事なことは何も言ってくれないんです。素行はいいとは言えないけど、それでも…、理由もなくそんなことする人じゃ…ありません」
突然手を放された子どものような目になっている。
夜戸はイチゴを口に運んで咀嚼してから呟いた。
「……喋れるのにね…」
「弁護に不利…ですよね」
「それもあるけど」
「?」
「きょうだい、なのに」
夜戸が次に口に運ぶ分のパンケーキをカットするが、バランスが崩れて生クリームの雪崩が起き、下にいたキウイが呑まれた。
(ここ、いつか月子も連れて来てあげよう)
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