06:Forever as a child
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10月2日火曜日、午後13時。
足立と森尾は、拘置所の屋上にある運動場で再び会った。
約束はしていなかった。
「―――俺の弁護士? ああ…、夜戸っていうお姉さんにしてもらうことになった。同じ年くらいかな? 無愛想だけどよく見たらけっこうかわいかったぜ」
「いいだろ」とニヤついて自慢してるが、すでに知っている。
「へぇ」
人工芝生に座った足立は、開脚して前屈しようとした。
脚はよく開いてくれたが、腕を真っ直ぐに伸ばすが、「ぐ」と唸ってそのまま停止する。
「最初は、その人と同じ法律事務所の一番上の奴にやってもらう予定だったがな」
「断ったの? うぐぐ…」
森尾は、足立の背後に回ってその背中に両手を当てて押す。
それでも前に行かず、腰が痛いだけだ。
「ああ。だってそいつ、仕方なくやってるカンジだったし。目つきとフインキでわかった」
「正しくは、フンイキね。目つきだの雰囲気だの、古臭い刑事みたいなこと言うねぇ」
「やかましいな。体硬ぇぞ足立」
「イデデ…。僕の柔軟性は関係ないでしょ。それに20代なりたての君の健康な身体と一緒にしないで」
「俺は21になったばっかだ」
「ああ、そう。それでさ、話戻すけど…、弁護断った時、相手どんな反応だった?」
『お前のような礼儀も知らん若造、こちらから願い下げだ!』
「―――ってさ。あんなにキレること、俺言ってねぇのにな」
不思議そうな顔をしていた。
(自覚無しか)
足立は内心で呆れた。
「何かされたりは? 仕切りを叩かれたり、椅子をぶつけられたり、刺されそうになったり…」
「てめぇこそ刑事みたいな聞き方しやがって。別にお互い怒鳴り合ってそれっきりだよ。おれは仕切り叩いて威嚇したけど」
(動物園の猛獣だな…)
これも言わなかった。
確かに、面会室も接見室も、どちらもアクリル板で仕切られている。
手のひらに傷をつけることは可能なのか。
「夜戸法律事務所の関係者って、今のところその2人だけ?」
「ん? そういやもう1人…、色っぽい姉ちゃんもいたな…。弁護士っていうか、秘書っぽいフインキの」
(夜戸さんが言ってた、弁護士秘書かな?)
「ふぐっ」
ずんっ、と背中に重みを感じた。
森尾が両手で押すのをやめて、足立の背中に尻をのせて体重をかけてきたからだ。
「イデデデデ…」
腕どころか体がプルプルと震える。
「何だよ、足立。弁護士でも探してんのか?」
「まあ…、そんなとこ…。ちょっと優秀なところが欲しいかな…」
「お前ってそんな複雑な犯罪おかしたのか?」
「そういう君は…?」
流れを向けてくれて助かった。
あくまで森尾の事を何も知らないていで尋ねる。
「……当ててみろよ」
「傷害」
早押しクイズのような切り返しだった。
森尾の動きが止まり、その隙に背中を引いて森尾を押し戻す。
「…何でわかった?」
振り返ると、森尾は呆けた顔で足立を見下ろしていた。
いいねその顔、と足立は優越感に浸る。
「僕の勘をナメないでほしいなぁ」
(ウソ。カンはカンでも、カンニングってね)
内心で舌を出し、解散際に「今夜の話は守秘義務でお願いします」と念のために釘を刺してきた夜戸を思い浮かべ、こちらも内心で両手を合わせて「ごめーん」とお茶目に謝った。
「…俺って、そんな危ない人間に見えるか?」
森尾は、目を伏せ、自嘲を浮かべた。
てっきり、「俺をなんだと思ってんだ」とキレると思っていた。
想定外のリアクションに足立は小さく驚く。
「…ウーソ。半分以上は冗談のつもりだったのに、当たるとは思わなかった」
落ち着いた声色でウソのウソをつき、苦笑を浮かべた。
「何か複雑な事でもあったの?」
「……………」
森尾は、答えなかった。
午後22時、足立はムリなストレッチで身体(特に腰)を痛め、捜査本部のテーブル席のソファーにうつ伏せで過ごすはめになった。
「何してるさ~」
呆れたツクモが足立の背中で跳ねる。
「やめてよツクモちゃん」
背中からツクモを振り落とす気力はなかった。
起き上がるのも面倒だ。
「足立さん、今日は休んで、シップ貼っておきましょう」
「シップは臭いからヤだなぁ」
「オッサンというか、オジイチャンさ」
言い返す気力もなかった。
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