06:Forever as a child
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10月2日火曜日、午前0時。
足立、夜戸、ツクモは捜査本部に集合し、並んでカウンター席に腰掛け、夜戸が淹れたコーヒーを飲みながら、知り合った森尾と、手のひらの傷の事を報告し合っていた。
「―――はい…、森尾嵐さんの弁護を担当することになりました。最初は父が担当するはずだったんですけど…」
「やっぱり…、夜戸さんとこの法律事務所と関わってたか…」
鹿田の時も都口の時も、夜戸法律事務所と接点があった。
そして、因縁の深そうな人物が、今のところ夜戸影久なのだ。
「最近、おとーさんに変わった様子とかは?」
ふと、刑事時代の聞き込みのようになってしまう。
癖で、ジャケットのポケットからあるはずのない手帳を出そうと手を伸ばしかける。
「…いつも通りの、融通の利かない父のままです。特に変わったところは…、ありません」
そう言って夜戸は自分が作ったコーヒーに口をつけた。
行きつけのカフェよりまろやかな味だ。
「そっか…。……それで? 森尾君の件で、おとーさんが弁護するはずだったって?」
一度、森尾の弁護の件に話を戻す。
「…9月28日に、父が森尾さんと接見室で会うなり、森尾さん自ら弁護を断ってきました。「弁護士なんか大嫌いだ」っていきなりすごい剣幕でキレまして…。ちなみに、父も森尾さんも、その時が初対面でした」
『金で犯罪者の味方する奴なんか信用もできねえし、したくもねぇよ!! 帰れ!!』
「……父も激怒してその日はすぐに帰ったんですけど、あたしからご家族にそのことを話したら、すごく申し訳なさそうにされて…。あ、元々は、彼のご家族の方からの依頼だったんですけどね…。落合空さんっていう名前の…」
「落合? 身内でしょ?」
言いかけている途中で足立が尋ねた。
苗字が違ったので引っかかったからだ。
夜戸の脳裏に、守秘義務、という文字がよぎったが、漏えいの心配も、足立が悪用するとは思わなかったので、少し間を開けて答える。
「ご両親に不幸があったそうで…。落合さんはご親戚の養子に入って苗字を変えたみたいです。でも、お兄さんである森尾さんの方は成人してて、本人の希望もあり、姓をそのままにしてるそうです」
「ふーん…」
「次の日、あたしと弁護士秘書で再び伺い、面会室で落合さんのことを持ちだして説得したところ、嫌々ながらでしたが、あたしが弁護を担当させていただくことでOKしてもらいました」
夜戸の話に耳を傾けてコーヒーを口にしながら、足立は運動時間に会った森尾の事を振り返り、そういえば、と考える。
「そもそも森尾君、何したの?」
ほとんど勘で足立の罪状を言い当てようとしていたが、当の本人の罪状は一言も聞いてなかった。
特別な傷を負わされた原因がわかるかもしれない。
足立にとっては、通常なら関わり合いになりたくない人種だが、無関係とはいえない事件に巻き込まれているのなら仕方がなかった。
「傷害罪で起訴されました。偶然居合わせた、夜の公園でたむろしていた男達に、突然一方的に殴りかかって、その中の一人をカッターナイフで刺した…らしいです。行動自体は本人も認めています。動機は、「ヘラヘラしててムカついたから」」
「確かに血の気は多そうな奴だけど…」
簡単に納得できなかった。
(夜戸さんの父親に対して『犯罪者の味方をする弁護士が嫌い』って吐き捨てるくらいだから、そんな幼稚な理由で、簡単にカッターで人刺すか? その場に居合わせただけならどこからカッターなんて出て来た? 常に持ってましたってか?)
詳細は本人に聞きだすしかない。
「……足立さん?」
茫然と考え事をしている足立に、夜戸が声をかけた。
「…夜戸さん、僕ってオッサンに見える?」
森尾の事を思い出すと同時にあの失礼な発言まで思い出してしまった。
唐突な質問にわずかに目を丸くする夜戸だったが、じっと足立の顔を細部まで見つめてから答える。
「老けては見えませんよ。どちらかと言えば、童顔寄りだと思います」
「夜戸さんに言われるとちょっと妙な気分…」
足立は苦笑して言い返した。
「見た目なんて気にしてるのさ? アダッチー」
夜戸が買ってきたおやつのクッキーを黙々と食べていたツクモが、会話に参加してきた。
「森尾君にオッサン呼びされちゃったんだよ。失礼じゃない?」
足立はぼやくように答える。
「四捨五入したら30さ」
「酷なこと言うよね。25の境界線を踏み越えた時点で逃げ道ないじゃない。夜戸さんは、逆に若く見られない? ていうか、自覚してる? 高校時代からあんまり変わってないの」
「アダッチーもよっぽど失礼な事言ってるさっ」
ツクモはたしなめるが、足立は「老けてるって言われるよりはいいだろ?」と口を尖らせて返した。
夜戸も発言に気にしている様子はない。
自身の10代後半の見た目は自覚しているつもりだ。
「…休日の夜中…、10時過ぎに私服でコンビニに行っただけで、職質を受けました」
『君、高校生でしょ。こんな時間に何してんの? 家は? この近く?』
「「あー…」」
足立とツクモの目に浮かんだ。
「断定的である言い方が納得できませんでした。根拠もないのに」
顔には出なかったが、言い方がムスッとしている。
「そこは弁護士らしい考え方だよね…。根拠の追求とか…」
若すぎて見えるのも考えものである。
「こんな見た目なら、ずっと子どものままで……」
続く言葉を切る。
コーヒーがなくなったことに気付いたからだ。
「…子どものままなら、コーヒーの味が楽しめませんね」
カウンターに置いたサーバーを手に取り、おかわりをついだ。
コーヒーは温かいままで、味も落ちていなかった。
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