00-3:Rain is falling
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授業の内容が思い出せない。
ちゃんとノートがとれていたのかも怪しい。
放課後、あたしは学校の昇降口で靴を履き替えながら、後半の授業内容を思い出そうとしていた。
テストの点数はよくても、成績を落とせば意味がない。
教師はたまに黒板に書かない事をテストに出す。
あくまでもここは進学校だ。
ノートを取るだけならどこの学校の誰だってできる。
授業中でも頭をよぎったのは、足立先輩のことだ。
あの子に手紙を渡された時、どんな顔をしていたのだろうか。
昇降口の先は、雨だった。
予報は外れた。
通り雨かもしれないけど。
細かく、静かな雨。
空気の湿った、独特な匂いもした。
昇降口から出て来た生徒達が次々と傘を差し、雨の中へと歩き出す。
中には、傘を忘れてカバンで頭を庇って走りだす生徒もいた。
「傘忘れちゃった」
「しょうがねぇな、送ってくよ」
隣からそんな会話が聞こえ、振り向くと、カップルと思われる男子と女子が、大きな青い傘の中に入り、肩を寄せ合って昇降口から出ていった。
「……………」
『あめあめ、ふれふれ、かあさんが…』
ふと、頭の中にあの歌が流れた。
幼稚園の頃、大きな手に繋がれ、2人で歌いながら帰ったっけ。
今、思い出すことないのに。
「あ…」
カバンの中に手を入れた時、図書室で借りたままの本があったことを思い出した。
今日までに返却しないと。
踵を返し、あたしは図書室へと向かった。
雨脚が強くなったのか、廊下に響き渡る。
「あ」
図書室のいつもの席に、足立先輩がいた。
問題集に取り組んでいるようだ。
昼休みと違い、先輩以外、誰も見当たらない。
先生も図書委員もどこへ行ったのか。
本だけ返却してしまおうか迷っていると、目が合った。
よりにもよってこのタイミングで。
あとには引けない。
視線で手繰り寄せられるように先輩の下へと歩む。
「珍しいですね、こんな時間に。放課後はすぐに帰るって言ってたのに…」
先輩はこちらを軽く睨み、ふて腐れた顔をした。
「……今日は晴れって聞いてた」
傘を忘れたようだ。
家まで頑張って走る、ってことは考えなさそう。
無駄な労力、と鼻で笑うだろう。
「君は?」
「…………傘を忘れました」
「ああ、そう」
先輩も忘れたくせに他人事みたいに鼻で笑われた。
さて、いつものように手前に座ったのはいいけど、切りだしていいのだろうか。
手紙のこと。
「…あの…、先輩…」
「何?」
「……今日、音楽室の前で…何か…渡されてませんか? その子、うちのクラスメイトで」
言ってる途中で、問題集から顔を上げた先輩と視線がかち合った。
探るような視線。
「…見てたの?」
「見えた…というか…」
すみません、覗いてました。
「ふーん。その子と友達?」
「いいえ」
首を横に降ってすぐに否定した。
「…………そこのゴミ箱」
「え」
鉛筆で指された先は、図書室の受付の傍らに置かれたゴミ箱だ。
まさか、と思い、席から立ち上がって近づいてみると、ビリビリに破られた封筒があった。
見覚えのある桜色の封筒。
間違いなくあの子が渡したものだ。
「僕のじゃないよ」
「…は?」
先輩に振り返る。
「僕の前の席にいる男子に渡してほしいってさ」
「……渡さなかったんですか?」
「…面倒だったけど渡そうとしたよ。友達じゃないけど。そしたらさ、「ああ、ごめん、俺、彼女いるから、返しといてくれる?」ってさ…。「代わりに断って謝っといてほしい」って突き返された」
封を切られた跡はなかった。
先輩は眉間に皺を寄せ、「まったく…。人を代わりに使ってさ」とため息混じりにごちる。
あたしの感性が歪んでなければ、確かに酷い話だと思った。
ただ、どこかで安堵したのも事実だ。
先輩宛てだったら付き合っていたんですか、と口をついて出そうになるが呑みこんだ。
「ああ、念のために言っとくけど、破ってそこに捨てたこと、絶対に……。…何してんの?」
先輩にくぎを刺されるまでもない。
あたしは両手で目を覆っていた。
「アタシハナニモミテマセン」
「ブフッ!」
そんなつもりはなかったが、不意打ちを食らったように先輩が噴いてくれた。
先輩は慌てて口元を手で覆って顔を逸らしたが、身体は震えている。
『あめあめ、ふれふれ…』
頭の中のリズムが自分の声で明るく聞こえる。
久々に嘘をついた。
折り畳み傘を持ってきてるなんて、もう言えない。
.To be continued