05:Shape of heart
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ツクモの背中の縫い目が赤く光り、その身体にはシルバーの西洋兜と甲冑が装着される。
「「「!?」」」
驚いた夜戸達はツクモを凝視した。
「ミカハヤヒ!!」
天井から落ちてくるように、ツクモのペルソナが召喚される。
両サイドに取っ手がついた、全長約2mの、水色の壺だ。
壺の外側には結晶で造られたような淡い赤色の6枚の花が点々と美しく装飾されている。
縦に割れたような縫い目を中心に、左側が黒、右側が白に分かれた丸みのある大きな頭、それが壺から顔半分を出すようにぬっと出て来た。
ツクモと同じ短い耳を持ち、黄色のつぶらな両目を持っている。
その周りを、グルグルと渦巻きの模様が描かれた、水瓶の蓋と思われる3枚の大きな円盤が飛んでいた。
「ペルソナ…!?」
夜戸と足立は目を剥いて驚く。
都口も突然の事に口をあんぐりと開けていたが、すぐに我に返り、焦燥感に駆られ声を張り上げた。
「全員…、今すぐ死んじまいなァァァァァ!!」
夜戸に向けられたバズーカが放たれ、足立を取り囲むシャドウが一斉に足立に躍りかかり、ツクモにはトヤマツミの触手が鞭となって襲う。
「!?」
ほぼ同時に事が起きた。
ミカハヤヒの周りをUFOのように回転しながら飛ぶ円盤の、1枚目は夜戸に当たる前に盾となって砲撃を防ぎ、2枚目は足立の周りのシャドウを蹴散らし、3枚目もツクモの盾となって触手を弾き返した。
「ははっ、やればできるじゃない!」
足立はリボルバーを構え、夜戸もナイフの刃先をトヤマツミに向ける。
「「ペルソナ!」」
マガツイザナギとイツが再び召喚され、弾丸のようにトヤマツミに突っ込んだ。
返り討ちにしようとトヤマツミは触手を動かすが、ミカハヤヒの円盤がバラバラな動きで翻弄する。
「く…ッ!」
歯を食いしばった都口は、バズーカを夜戸に構え直した。
引き金を引く直前、足立が持っていたはずの首飾りが視界に投げ込まれる。
「あ……」
流れるように視界に映りこんだ宝石の輝きに、目を奪われた。
心の奥に、夫との日々がよぎる。
この展示会で最高の作品であるはずの宝石が、霞んで見えた。
パァンッ!
首飾りに銃弾が撃ち込まれ、目の前で飛び散った。
思わず目をつぶり、完全な隙を作ってしまう。
空中に飛んだマガツイザナギとイツが武器を構え、ほぼ同時にトヤマツミの胴体を切り裂いた。
トヤマツミは頭を抱えながら苦しみ、破裂するように消滅した。
腹を抱えて膝をつく都口。
天井からは、今まで盗まれた宝石の、雨が降った。
「…キレイ…」
天井を見上げて両手を広げ、夜戸は零すように呟いた。
再び静寂を取り戻し、夜戸、ツクモ、足立は、立つ気力を失っている都口を囲む。
床に力なく座り込み、散らばる宝石を見下ろす都口の目からは、涙が流れていた。
金色だった瞳の色も、元に戻っている。
「やっと大人しくなった…。あのさ、放心してるとこ悪いけど、なんでペルソナの力が使えるようになったか、話してくれる? 窃盗を止めに来たって言うより、僕としてはそっちを突き止めるのが優先で来たから」
「刑事としてあるまじき発言さ。嘘でもいいから事件解決優先させるさ」
足立の遠慮なく漏れる本音を聞いてツクモは呆れた。
「元刑事だし、僕って嘘つけないタチだから。いいでしょ、もう。どっちも達成できそうなわけだし」
足立はリボルバーのシリンダーに銃弾を装填し、銃口を都口に向ける。
「5発撃ち終える前に答えなよ」
「5秒数え終わる前に、じゃないんですね」
夜戸は足立のリボルバーを上から抑えて制止し、しゃがんで都口と目線を合わせる。
「教えてもらえませんか? その傷もどこで……」
「……………」
都口の視線が水面へ浮上するように夜戸に上げられる。
右手は自身のスネにある赤い傷痕に触れた。
「……聞かれても、うまく答えられないよ…。傷だって、いつ付いたものかもわからない…。ある日、この世界に迷い込んで…、何をやっても許されるってわかった途端、私の中の何かが…爆発したんだ。トヤマツミが生まれたのもその時だね…。それからは欲のままに掻き集め続けたよ…」
「傷は? いつ気付きました…?」
夜戸は質問を続ける。
都口は視線を彷徨わせながら記憶を思い起こした。
「今年の……7月…22日…」
足立と夜戸は目を合わせる。
夜戸と同じだ。
今年の夏ごろに出現した、という話を思い出す。
「ああ…、確か、離婚が成立した日だねぇ…」
都口は悲しげに目を伏せる。
見つめる先は、もう宝石ではなかった。
離婚が成立し、胸の穴を埋めるために宝石を買い漁ったが、金銭は底を尽き、街で立ち寄った宝石店のガラスケースの中の宝石を羨ましげに見つめていた時、盗めないかと店内の監視カメラに目をやった瞬間、トコヨに迷い込んだ。
好きなだけ掻き集めても、否定や糾弾する者は誰もいない。
トヤマツミの中に溜まっていく宝石を恍惚気に見つめていたが、いつしか気付いたことがある。
胸の穴が、未だに埋まらない。
渇き続ける喉を潤すために水を求めるように、宝石店の襲撃も限度を超えていった。
安物ばかりを並べる店には、癇癪を起こしてバズーカを撃ち込んだ。
もう、自分自身を止められなくなっていた。
肩の荷が下りたように、都口は小さなため息をつき、夜戸に力のない笑みを向けた。
「与えられ続けられれば、それを絶対の『愛』だと思っちまうのさ…。形があってわかりやすいしねぇ。結婚指輪も同じさ。でも…、愛の形なんてたくさんあるのに…、無我夢中でそれだけを求めちまったんだよ…」
「愛の形…」
「変わらない愛が欲しかったんだ…。急に別の物を渡されて…、不安になったのさ…。受け入れればよかったのに、結局……」
床に捨てた花束にも、愛はこもっていた。
なのに、それを自ら捨ててしまった。
「…どっちが欲しかったって私に聞いたね…。もう手に入らない、『愛』が欲しかった…。今になって…わかっちまったよ…」
自嘲し、再び涙が流れた。
夜戸には、宝石より綺麗に感じられた。
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